社会人のズル休み。

特に何か予定があった訳ではない。
ただ単純に、
会社とか、上司とか、請求書とか、
そういった社会のまどろっこしく絡まった
人間関係やら、建前やらというものが
どうしようもなく下らなく感じたのだ。

しかしながら、駆け出しではあっても
自分は一社会人である。
最低限の律儀として会社に休む連絡をして。
その日行うはずだった客先への訪問やら、
ミーティングやら一切を断った。

そんな理由で休むなど無責任だと言われたら
一言でも否定の言葉は見つからない。

そんなことは分かっている。
分かっているから
今更なにも言わないで欲しい。

会社というコミュニティから
隔てを置いたことを再度確認したところで
二度寝した。

午後4時。
ぬくぬくと重い体を起こしベッドから出る。
いいご身分だなぁと粘性質な感情をもちつつ、
折角とったずる休みだと欲が出る。

だらしない自分を少しでも励まそうと
1時間30分たっぷり時間をかけて
メイクをし、髪をセットする。

ヒールを履いてちょっといい女を気取って
電車に乗り10分程度。
アパートの最寄駅から3駅行ったところで
電車を降りる。

窓ガラスに映る自分に大丈夫だと、
無駄に励ましの言葉をかけたところで
適当なお店を見定めはじめる。

条件は、カウンター席の、人が少ない店。

路地裏に入ったところで、
手ごろな雰囲気の店を見つけた。
開店してまだ2〜3年だろうか。
清楚感のある店内は、
なかなか好印象だ。

平日の午後6時。
2軒目3軒目を意識したこの店には
まだまだ早い時間である。
客はまだいない。

軽いドアを押し開けて中に入る。

オーナーらしき男性の案内に従って
カウンターのひと席に座る。

さてと。
ちらりとお酒の並ぶ棚と、
渡されたメニューをみて、
手ごろな値段のスコッチを選ぶ。
飲み方はストレートで。

こういう日は
たっぷり時間をかけて飲みたいのだ。

ゆっくりと減っていく小さなグラスに入った琥珀色の液体を横目に、距離感を探りつつ、
カウンター越しにオーナーが会話を振ってくれる。

なんと丁度良いんだ。

少々気を良くしたところで
グラスが空になったので、
折角なのでとオーナーのお勧めを
聞いてみる。

出てきたのは焼酎。
飲み方はロックだった。
下に塩っぽい味が残るそれは、
確かに、ウイスキーの煙たい味に慣れた
舌には心地いい風味だ。

小刻みに傾けていた
ロックグラスも空になったところで
お会計を済まして店を出る。

近くに古びた風呂屋があったなと思い出し
歩みを向ける。
これがまた、手ごろな風呂屋。
ガラガラと音を立てて引き戸を開ける。

常連同士の会話。
垂れた乳。
程よく酔った身体に打ち付ける熱い湯船
から今日仕事を休んだ許しを得る。

風呂屋の出入り口にある喫煙所で
煙草を吸って。
あんな会社なんかで働くよりも寧ろ
生きる心地がするものだ。
なんて断片的な自論を
もんもんと頭に抱えながら吸い殻を捨てる。

そんな、どうでもいい人生を
何がどうでも良いのかもわからないが、
私は今日も生きているのだ。

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