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【本と、わたし】夢の守り人

上橋菜穂子さんの、”守り人シリーズ”第3作目。小さい頃から、ファンタジーが大好きだった私にとって、上橋さんの作品は読む作品の全てが傑作だ。

初めて上橋さんの作品に出会ったのは、「鹿の王」が本屋大賞で本屋さんの棚にたくさん並べてあったときだった。

”守り人シリーズ”に出会ったのは、昨年のこと。シリーズ第1作目の「精霊の守り人」を読んで、あまりの面白さにハマってしまった。

上橋さんが描く物語は、子どもはもちろん、大人も楽しめる作品だ。特に私が好きなのは、上橋さんの作品には様々な世界が存在していること。

"守り人シリーズ"では、目に見えている世界〈サグ〉、そして目に見えていない世界〈ナユグ〉の世界が存在する。そして、シリーズそれぞれの中に描かれる独特な世界に、毎回引き込まれてしまう。


シリーズ1作目の「精霊の守り人」、2作目の「闇の守り人」も最高に面白いのだが、3作目の「夢の守り人」には、どうしてもここに紹介したい言葉があったので書き残しておく。

3作目では、新しい登場人物だけでなく、1作目に出てきた登場人物が帰ってくるので、読んでいるこちらとしては、何だか懐かしく嬉しい気持ちになる。特に、見た目は老婆であり、最高の呪術師と言われている”トロガイ”の秘められた過去が描かれているので、ドキドキとワクワクがたまらない。

そんな呪術師の”トロガイ”が、新ヨゴ皇国の若き星読博士である”シュガ”に、ある助言をする。その助言から、問題を解決するために、今できることを必死になって探している”シュガ”があることに気づく。その言葉が印象的だ。

トロガイは正しい・・・と、シュガは思った。すぐに役立たないものが、無駄になるとは限らない。むしろ、いつ役に立つかわからないものを追い続け、考え続けるという、人の、この不思議な衝動こそ、いつか新しいものを見つける力になるだろう。


この言葉を読んだ時、心にある、ざわざわした波が、すーっと落ち着いていくのを感じた。

自分の信じた道を歩いている時にも、あれ?これは何のためにやっているのだろう。そんなことを、ふと考えてしまうこともある。周りの人からしたら、なんで?そんなことを今やっているの?など思われてしまうこともあるかもしれない。

でも、この不思議な衝動に私たちは突き動かされて生きている。

それが、自分の内側から沸き起こる情熱であり、挑戦したいことであり、本当に知りたい世界の秘密なんだろうと、私は思う。

「夢の守り人」では、たくさんの人の”夢”が描かれ、その”夢”と向き合いながら物語が進んでいく。


そして、呪術師”トロガイ”の弟子である”タンダ”にも印象的な台詞がある。呪術師の弟子である”タンダ”は、目に見えている世界〈サグ〉と、目に見えない世界〈ナユグ〉の2つの世界を知っている。そんな”タンダ”がある時、ある人の夢の中で話す言葉もまた、印象的だ。

〈魂〉の世界ではね、気づかないと、なにも見えない。これは呪術の基本さ。


上橋さんは、オーストラリアの先住民のアボリジニを研究している人なので、先住民から学んだ世界を作品に描いていることが多いのではないかと、私は思う。

5年ほど前、アボリジニの世界には、大陸を歌を歌って地図として伝えてきた”ソングライン”というものが存在することを知った。

そして、ブルース・チャトウィンの著書『ソングライン』を読んでいる時だった。(まだ読み途中)

アボリジニの人々は、”歌”にすることで、そのものを世界に存在させた。私はこのことを、『ものごとは、私たちの意識によって初めて、私たちの世界に存在することができる』と解釈した。

”歌”は目に見えない。でも、その歌を知る者には、その世界が存在している。

上橋さんの描く世界には、アボリジニの生き方、智慧などがわかりやすく、そして心に残る言葉として存在しているように感じる。だからこそ、読んでいてワクワクするし、私たちが現実世界の中で忘れかけていた大切なものを、ファンタジーの世界で教えてくれる。

「夢の守り人」では、養老孟司さんが解説を書いている。その文章も、また素敵なので、ぜひ読んでもらいたい。

その中で、素敵な言葉を一つだけ紹介する。

よいファンタジーには、悪人はいない。上橋さんの「守り人」シリーズはその典型である。良い人の、悪い行動があるだけである。


確かに。私の好きなファンタジー作品はどれも悪者は存在しない。ある時は、主人公と戦う相手かも知れない。でも、その人にはその人の正義があり戦っている。そして、その人が旅の途中で主人公と再会する時、主人公を助ける者になっている。そんなストーリーが大好きだ。

これは、現実世界でも同じことが言える。みんなそれぞれの世界で生きているからこそ、意見がぶつかり合う。生きてきた過程はみんな違うから。家族ですら、見えている世界が違う。100人いれば、100個の世界が存在している。


現実世界から学ぶことは多い。ノンフィクションの書籍から学ぶことも多い。しかし、ファンタジーの世界から学ぶことは、今を生きる私たちにとって本当に必要なことなのかも知れない。

なぜなら、私たちが見ている世界は、私たちが想像することで作られている。私たちが存在してほしいと願うものを夢みることで、初めて私たちの理想としている世界を作っていけると思うから。

子どもはもちろん、この作品を多くの大人に読んでほしい。


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