マガジンのカバー画像

イズミ・流浪篇

15
ひとりの冒険者となったイズミはボズヤ・ダルマスカ方面へ旅に出る。竜騎士スズケン、薬師ラディを交えた旅はやがてイヴァリース時代の遺跡へ辿り着くのであった。
運営しているクリエイター

記事一覧

節分小話

「前々から思ってたんですけど」 ソフィアは緑茶を呑みながら視線を茶屋の外に向けた。視線の先はクガネ転魂塔広場。溢れかえった町民達が櫓から撒かれる豆に手を伸ばしている。 「セツブンに豆を撒くのは何故なんです?」 小首を傾げて尋ねる娘に、卓を囲むイズミとタナカは顔を見合わせた。 「……そういや、なんででしたっけね、イズミさん」 「……ちょい待ち」 青年の問いを受けてイズミは胸元から小さな手帖を取り出し、パラパラとめくり始めた。 「あった。えぇとね」 タナカはその声

戴冠の日は、いまだ先

「総員退避!退避ーッ!」 ザトゥノル高原!吹き荒れる暴風の中、火剣のメリオールは叫んだ。暫定政府軍の兵士達を指揮する彼女は、暴風の中心で笑う複数の人影を見た。第IV軍団術士大隊の生き残り。崩れゆくその身を糧に顕現していく大妖異の姿を。 「こちら火剣!対象の確保は失敗!討滅戦への援軍、大至急よこしてッ!」 「了解した!こちらでもエーテルの乱れは観測している!すでに先遣隊は向かわせた!本隊到着まで生き延びてくれッ!」 「了解…!」 メリオールは通信を切り、暴風の中から姿

されど永久の灯火に・前編

曇天に掲げられた巨大な棍棒が振り下ろされる。サイクロプス族の膂力に任せた恐るべき一撃。直撃は即ち死である。だが標的となったアウラ族の女は臆せず踏み込み、その一撃を回避した。空を切った棍棒が大地を砕き、直下型地震の如き揺れをもたらす中、彼女は刀を手にサイクロプスの巨体を器用に駆け上がっていく。狂気の単眼のその上に、冷徹な双眸が輝いた。 「じゃあね」 闇色の輝きをまとった刃がサイクロプスの首筋を斬り裂いた。その巨体に比してあまりに小さな傷。だがしかし、闇の刃より注がれた禍々し

されど永久の灯火に・後編

【承前】 岩盤の崩落はイズミ達の背後でも起こっており、今しがた通ってきた通路の入り口も大岩で閉ざされてしまっていた。だが、その岩陰は遮蔽物として充分だった。イズミは足元のおぼつかない赤髪のルガディンをどうにか引っ張りながら共に岩陰に滑り込んだ。 背中を預けた岩塊がびりびりと震える。背後の円形闘技場めいた広場で、水晶魔蠍ヘデテトとスズケンの戦いが始まったのだ。イズミは様子を伺うべく岩塊からわずかに身を乗り出したが、ヘデテトが放つ銃弾の如き水晶礫により、身を隠さざるを得なかっ

幕間の日々

「駄目。そこはキッチリしなきゃ」 そう言うとアウラの女は懐から小さな財布を取り出した。紐を解いた痩せた革袋を無造作にテーブルに置く。 「ほら、いくら?」 アウラの女は目線と白いツノを対面に向ける。酒場のテーブルを挟んで椅子に座っているのは、長く赤い髪のルガディンの女だ。問い掛けられたその女は丸めていた背中を伸ばし、ぶんぶんと首を振った。その体躯はこの酒場にいる誰よりも優れていたが、醸し出す雰囲気はまるで仔犬のように思えた。 「イズミお姉様からお金なんてもらえませんっ」

荒れ狂う混沌の焔 1

「お姉様!見てくださいほら!」 ルガディンの娘は輝く指輪をつまみ、隣に座る仲間に声をかけた。ルガディンの指にもはまりそうな大きめの指輪は、朝から彼女が磨いていた甲斐もあり、鈍い銀の輝きを放っている。お姉様と呼ばれた白鱗のアウラは古雑誌から目を離しその指輪を見る。 「なに、磨き終わったの?」 「そうです!ほら!私の指にピッタリ!」 ルガディンの娘は人差し指に指輪をはめ、ひらひらと手のひらを動かながら指輪を見つめる。 「お姉様の分も見つけたら、プレゼントしちゃいますね!

荒れ狂う混沌の焔 2

【承前】 「お、お姉様ッ?!スズケンさんッ?!」 イズミたちから斜め後方にいたおかげで難を逃れたラディが叫ぶ。助けなければという薬師の責務が彼女の心を満たす。だがラディは逸る気持ちを抑え、暗い戸口に銃口を向けた。 BLAM!!! BLAM!!! BLAM!!! 戸口から伸びていた腕を弾丸が貫いた。 BLAM!!! BLAM!!! BLAM!!! 更に連射。弾丸は壁を当たり、腕は闇の中に戻っていった。ラディはポーチから挿弾子を取り出し、弾丸を込め直す。横目でイズミた

荒れ狂う混沌の焔 3

【承前】 輝く剣と氷の矢が魔人と化した男に殺到する。青く輝く魔人は火炎魔法でこれを相殺。飛び来った刃は悉く爆散した。だがその対消滅の光芒を押し潰さんばかりに岩雪崩が迫ってくる。 岩石と土砂、そして埋没していた遺物の数々を巻き上げながら、大質量が魔神を飲み込もうとした。地属性魔法だ。魔人は戦斧を縦に振り抜く。放たれたエーテルの刃で岩雪崩は真っ二つに裂け、魔神の左右を通り過ぎて行った。 魔人は更に殺気を感じ、前方に目をやる。鬱陶しい魔法を放ってきた矮躯の男が、不釣り合いな機

多彩なる都の星芒祭

高温多湿なサベネア島は霊六月であっても寒さとは無縁だ。夜でも外套を羽織る程度で出歩ける。ゆえに路頭で凍える子供とそれを救う騎士達の祭りは根付いておらず、人々は間近に迫る新年に備えているのが常である。しかし、今宵の夜風に乗って聞こえてくる旋律は、近東に住まうものには縁遠い、エオルゼアに住まうものには耳馴染みの管弦楽であった。 荘厳なるメーガドゥータ宮、その客間のバルコニーから眼下の広場を見下ろせば、赤い外套に身を包んだ楽団が煌びやかな楽曲を奏でている。はるばるエオルゼアから星

不審密漁 side IZUMI

サベネアの強烈な日差しと大理石の照り返しが鱗と肌を焼く。ジュニャーナ洋上祭殿の岸壁に腰掛けた水着姿の私は、いま目の前で大きく曲がった自分の竿と対峙している。この反応。ゆっくり動く生き物が餌を引っ張っている証拠だ。一匹あたり5000ギルはくだらないサベネア特産のジンガ…ようは高級なエビだ。そいつがいま、餌であるサバの切り身を咀嚼している、はずだ。 ふと傍のバケツに目をやる。詰め込まれているはずだった札束エビの姿は無い。坊主だ。主催から渡されたサバの切り身だけが虚しく減っていく

貴方は新米冒険者を見た

うちの人々でやってみました。 ソフィアさんのケース「あの、旅のお方ですよね」 不意に聞こえた人の方に斧術士が目をやると、木立の間に若いヒューランの娘が立っていた。橙色の編み込み髪にリビエラドレス姿。手には山菜を詰めた籠。地元の住民であろう。 「そうだが、何か?」 「この先の谷底には恐ろしい魔物がおります。とても危ない場所なのです」 村娘の真剣な訴えに、斧術士の後ろにいた弓術士が陽気に返した。 「なぁに、おれたちゃそいつを討ち取りにきたんだ」 「でも」 格闘士が

スナック身の上ばなし・二次会リプレイ

「……で、今の私はひとりの冒険者。英雄様に追いつき追い越したい…そんな日々だよ」 私は身の上を語り終え、ステージの上からぺこりと一礼した。混み合う店内から喝采や拍手が返ってくる。なんだかむず痒い気分だった。「スナック身の上ばなし」。それぞれが語る半生を肴に呑む酒はなかなか美味しかった。しかし呑み足りないからと二次会まで来てしまえば、さすがに自分にもお鉢が回ってくるというものだ。私は酒の力を頼りに、かつて受けた呪いのことや英雄の事を話した。改めて自分を見つめ直すいい機会だった

追憶の起点

ふとテラスに目をやると、銀髪の竜騎士が窓から飛び出していくのが見えた。隣で談笑している英雄と魔女はまだそれに気が付いていない。挨拶も無しとは、野良猫みたいなやつだ。間近で見た槍さばきは凄まじいなんてもんじゃなかったけど、付き合う奴らは苦労するだろう。 やがて英雄と魔女もそれに気付いたが、特に慌てる様子もなかった。慣れてるな。私はエールを呷り、山と盛られた肉料理をつまんだ。月竜アジュダヤの帰還を祝う宴は続いている。 そんな宴の喧騒を割ってツノを揺るがす竜の咆哮が響き渡った。

激突!青葉イズミ対イ・メルダ・リコ

「我が槍の!サビとなるがよグワーッ!」 男の腹に女の重い蹴りが叩き込まれる。自慢の槍を振り回す暇すらなかった。男は膝から崩れ落ち、ばたりと倒れた。その身体には黒い鱗と山羊めいた角があった。 対する白い鱗と角を備えた小柄な女は、念の為もう一度男の頭を踏みつける。そしてエデンモーン装束の開いた胸元から縄を取り出して男を拘束した。慈悲をかけたわけではない。雇い主から殺しはやめろと言われているからだ。女は立ち上がり、辺りを見渡す。打ち倒されて呻く男達。広大な草原。雄大な青空。それ