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『パターソン』~ジム・ジャームッシュ監督作品のあれこれ~

最近、ジム・ジャームッシュという映画監督の作品にはまっています。
1989年カメリカのオムニバス映画『ミステリー・トレイン』をきっかけに、『ナイト・オン・ザ・プラネット』『ストレンジャー・ザン・パラダイス』『ダウン・バイ・ロー』『デッド・ドント・ダイ』と立て続けにジャームッシュ作品を観ました。昨年、ジム・ジャームッシュレトロスペクティブ2021年と銘打って多数の作品が巡業上映されるなど、日本でも根強い人気がある監督です。


力まず観られる絶妙なセンス


ジャームッシュ作品を観終わると、そのセンスの良さに清々しさを覚えます。センスと言ってもさまざまですが、あくまでも私が感心する点、「いいね」を付けたくなる個人的な好みを挙げてみます。

① 過剰に演出しない(塩梅がよい)。
② 人の日常を描いている。
③ 映画への愛情が伝わってくる。

ジャームッシュ作品ではないのですが、近年世界的に大ヒットした、ある映画を観て、カメラワークのスピード、音情報の多さに疲れてしまい、序盤で断念してしまったことがありました。私の体力がないのか、ちょっと情けない。もっと元気なときに再挑戦したいと思っていますが(笑)。

どうやら今の私の五感には、肩に力の入らないジャームッシュ映画が心地よく感じるようです。人間の日常を描いているので、共感できるし、音楽家の私には耳から入る情報がとても重要なのですが、その情報量がちょうどよい。そして、最近の映画にはあまりない? と思うのですが、小津安二郎作品のように、同じシーンでずーっとカメラを固定し、特に大きな事件が起こらない(起こってもそれを誇張しすぎない)、どんどんとスピーディーに物語が展開しない、今の時代に逆行したような作りが好きです。

『パターソン』

一番最近観たジャームッシュ映画が『パターソン』です。観終わった後、観てよかったと素直に感じた映画でした。
ちょっと説明すると、パターソン市に住むパターソンという名前のバス運転手の、とある一週間を描いている映画です。妻と犬と暮らし、ノートに詩を書くのが好きなパターソンの日常を観ているだけと言ってしまえばそれまでなのですが、個人的にパターソンって自分に似ているかもと勝手に親近感を持ってしまいました。

詩を書くときに自分の世界に入っているパターソンの表情。歌のことを考えているときは、私もあんな感じになっているだろうな、と。芸術家は自分の世界に入る時間があるのです、たぶん周りからはボーっとしているように見えるかもしれませんが、この時間が大切なのです。

そしてこの映画、音情報のさりげなさがよかったです。パターソンと妻ローラとの会話に出てくるカントリーシンガー、タミー・ワイネットの歌が、ラジオから流れてくるのですが、生活音に紛れて、よーく聴かないと聞こえないほどでした。普通、映画だと音楽は大音量で流れていますが、現実はこのくらいだよな、とこれにも共感、でもそれを発見できた自分がうれしい(笑)。

これだけ共感できたのは、主役のアダム・ドライバーの演技が絶妙だからだと思います。ちなみに彼は『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』カイロ・レン役で知られる、今最も注目されている役者さんの1人です。そしてこの映画には日本人俳優永瀬正敏さんが出演されていますが、これがまたいい役。百聞は一見にしかず、是非観ていただきたいです。

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