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デジタル・バレンタイン 【毎週ショートショートnote 】


 今日は僕が「本当のカノジョ」を購入してから、はじめてのバレンタインだ。

「アイちゃん、今日はバレンタインなんだ。僕にくれるチョコはもう用意できてるかい」

 モニターの中の彼女がうなずく。その顔は僕の好きなアニメのヒロインが素になっている。

「べ、別にあんたのために用意したんじゃないんだからねっ」

 彼女が言った。それは僕の好きな声優の声に、限りなく近かった。

「ちがうだろ。そこはデレだ」

 僕は呆れた。
 バレンタインの発言パターンは「デレ」に固定したはずだ。

 彼女は、いわゆる「ツンデレ」タイプのAIとして販売されていた。カスタマーサポートは「ツン」と「デレ」の頻度はこちらで好きなように調整できる、と言っていたのに。


 ー返答をお願いします。


 画面に字幕が浮かぶ。

 僕はわざとらしくため息をつきながら、机の端に目をやる。そこには細長い箱のバレンタイン・チョコレートがあった。今日の朝、母さんに貰ったやつだ。

 僕はそれをひとつ食べて、なんとなくつぶやく。

「ありがとう」

 モニターの中から「どういたしまして」が聞こえた。




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