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手紙小品「ひとかけらの勇気 手のひらに花」

拝啓 今年最初のうぐいすは、雨の山の中で出会いました。いえ、姿なんて見えません、声だけ、ホーホケキョって、上手だったんですよ。

慣れたものですからね、何処へだって一人で行きます。蕎麦屋の暖簾も潜れますし、砂浜だって歩きます。何ヘクタールにも及ぶ春の花畑だって、平気に歩いて見せますとも。楽しいですよ、それはそれでね。

だけど、本当にいつも思います。勿体ないなあ~って。こんなに素敵な景色をどうして一人で見ただろうって、いつも思うんです。一緒だったらよかったなあって、いつも思ってしまうんです。

ほんのひとかけらでいい、勇気があればいいのに。あなたを誘う勇気があればよかった。思いつくままあっさり言葉が継げたら・・・もっともっと楽しかったかもしれない・・・何度でも思って、いつも言い出せないで、時間だけ過ぎて行ってしまいます。

あの花の群れの中に、勇気は潜んでいないでしょうか。人一倍臆病で、不器用で、口下手な私に与えられる勇気は隠れていないでしょうか・・・

 あ、風だ

春の嵐、私の手のひらへひらり一枚、花、薄桃色。

そっと胸にしまってしまおう。広げられなくていい。
だって変わらないんだもの。あなたを大切に想う気持ちは、同じだから。

代わりに届けます。今日も手紙で届けます。              敬具

                       令和六年 三月吉日


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