マネジメントビギナー冷や汗 高松 智史著「『コンサルがマネージャー時代』に学ぶコト」

私を含め、多くの新任管理職はマネジメントの方法に悩んでいることだろう。ただ必死に目の前の課題をこなせばよかったプレイヤーと、チームとして最大の成果を生むための”テコ”にならなければならない管理職では求められる力がまるで異なる。そんな悩みの中で、私は多くのマネジメント本を読んできた。本書は”コンサルのマネジメント実務”という切り口で書かれている点が特色。書かれていることはとても納得感があるが、自分ができているか振り返ると冷や汗をかかされる、そんな一冊。中でも刺さったポイントを概観してみたい。

①優しさのリーダーシップからインテレクチュアルリーダーシップへ
パワハラをはじめ、ハラスメントに厳しい目が向けられる昨今、つい「よし!それでいいぞ!」などと優しく接してしまうが、それは甘えである。優秀なマネージャーはしっかり新しい視点・論点を部下に提供し、付加価値をもたらさなければならない。進捗管理も最初に論点をしっかり固め、タスクではなく論点のマネジメントをベースに行うことで、アウトプットの方向性もずれることなく進めることができる。何よりも論点が重要なのであって、メンバーの顔色だけをうかがう「力なき優しさは罪」だ。これは経験則からも、とても納得できる。

②現代マネージャーの心構え
問題の複雑化が進み、情報に限りがない現代では、最初から正しい判断ができるとは限らない。新しい情報が出てくれば、判断を変える必要がある。朝令暮改は、部下の反応が悪いケースもあるだろう。しかし、それでも正しい道に進めなければならない。朝令暮改上等。そういった心構えと胆力が必要だ。
また、意思決定の精度を高めるには、直感ではなく、定量的な評価基準を定めること。そして評価基準が複数ある時はどれを優先するかの重み付けもしておくことだ。
マネージャーは他のメンバーよりも高給であることを自覚することも必要。高給な人間が、誰でも思い付くような意見を、胸を張って述べるのはカッコ悪い。そこで最初に考えついた意見は出さず、2つ目もグッとこらえ、3つ目を満を持して話す。こうすれば給料に見合った深みのある意見を出すことができる。
これと似た話として、マネージャーになると部長クラスと以上の役職者と話す機会が増える。そうなると、十分な議論ができないと時間、コストが無駄になる。従って、打ち合わせ等を行う時には、しっかり考えた話だけを持っていくことだ。生煮えの段階で持っていくと、徹底的に叩かれ、部下の信頼が下がり、上司の高い時間を奪うことになる。

③アウトプットの出し方
資料は何かを伝えるためにある。マネージャーはそれを最初に掘り下げて理解しておく必要がある。そのためには、まとめスライドはマネージャーが作ること。
また、伝えたい内容に集中するために、「あった方がいい」appendixは「不要」と伝える勇気を持つことだ。まとめスライドには多くの場合「3つ」の言いたいことが示される。その3つをそれぞれ説明するスライドが1枚×3論点で3枚、それを補足するのが3枚ずつで3×3の9枚、1+3+9の計「13枚」が基本となる。
その資料は説明するのではなく、最初に読んでもらう。そうすると短時間で相手方の理解度も深まるし、こちらも読んでわかる資料にしなければならないので、資料の質が高まる。さらに様々な角度からの質問に答えなければならないので、緊張感を持った準備ができる。

④部下の動かし方
部下の動かし方には、大きくマイクロマネジメントと放任主義の2つがある。これはどちらが正しいというわけではなく、状況に応じて使い分けることが望ましい。とすればコトは簡単。両方できることを部下に示せば良い。そうなるとマイクロマネジメントを選んだ場合には自分たちの問題だと理解されるし、放任主義の場合には自分たちを信頼してくれているのだと理解してくれる。
一方で、頼れる上司になるには、時には周囲の要求に「とぼける」ことも重要。無理な要求にすべて答えるとチームは疲弊するが、無下に断ると角が立つ。そこで、「なるほど、やりましょう!それならどの業務やめましょうね?」と受け入れつつも、何かをやめることを当然のように相手に伝えれば、壁になった上司の姿が部下にも印象付けられる。
また、自分がされてきたことを後輩、部下にしてしまうケースは多いと思うが、自分がされて嬉しかったことをし、嫌だったことをしないのが基本だ。その点からすると、影で褒められることは嬉しいし、人前で怒られることは恥ずかしい。これは難しいことではないはずだ。

⑤もう1段出世するには
すでにある程度のところまで出世してしまったマネージャーにとって、これ以上の出世を実現するのは大変だ。勝手に出世などしないことを肝に銘じる必要がある。「あんな人にはなりたくない」という反面教師も時には必要だし、「これ以上昇進したくない」という逃げの言葉、言い訳を遠ざける。昇進のルールを知り、そのための戦略を練って行動する。そんな覚悟と努力が求められるフェーズになってしまったのだ。

色々と書いてきたが、自分が頑張ってタスクを進めればよいというステータスではなくなり、多くの関係者と接しなければならないマネージャーになってしまった以上、「言語化」がキーワードだとわかる。このひと手間を魂を込めて行えるか否か、が周囲に「テコ」効果を与えられるかどうかの分かれ道になるのだろう。これができた時には、冷や汗をかかずに本書を読めるようになっていることだろう。と高度なテクニックを記してきたが、同時に周囲に気を遣わせないように、テンションを高く保つ、といった基礎的なことも忘れずにいたい。

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