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もう何十年ぶりの再読にも耐えうる山本文緒のエッセイ集「かなえられない恋のために」が読む薬として私によく効く

春ですね。出会いと別れの季節ともいいますね。

新しい出会いにはワクワクします。
大切なご縁だと信じていたはずのお別れはメソメソしたくなります。

そして今になって別れてしまいそうな人にどう対応していいか
苦しんでいます。

ついさっき前にかなり感情的になっていました。

そんな私には実に効果のある読む薬

それが山本文緒著「かなえられない恋のため」にです。
略してかな恋とも呼ばれたらしいです。

(著者は58歳という若さで惜しまれつつも2022年の10月に亡くなって
しまいました。)

(躁だったり鬱状態だったりするのは誰にしもあること。
ただそれが病的な極限状態にならないためにも
私は一日3回の服薬を担当医から指導されています。)

私の20代に出会ったエッセイ集でしばらく本棚の最前列に
いた文庫本でした。

種本としては1993年12月に大和書房から出版されました。
1997年6月には幻冬舎文庫化されます。
それから約12年後の2009年2月に角川文庫版化の(二次文庫化された
とも言えます)エッセイ集のロングセラーなのです。

ちょっとだけ作品の数カ所だけ私がスキな部分を引用しておこうと思います。

若い頃の著者はお酒が大好きだったそうです。
でも飲み会でしらふの方がいるととても緊張したそうです。

下戸のみなさん。酔っぱらいには本当に頭に来ていることと思いますが、蹴りの一発でも入れて許してやって下さい。

(角川文庫) (p.82). 角川書店. Kindle 版.より

作品たちについての周囲からの評価の声に対し
重い、暗い、ネガティブだ」そんな評判を著者が受けたとしても
こう跳ね返すのです。

もう褒め言葉としか感じられないのでいくらでも言ってやってください

おそらくは幻冬舎文庫版で書かれた内容より
(角川文庫版では削除されてる可能性があって見つかりませんでした。)

記憶が曖昧で正確な引用でないのが恐縮なのですが、
そんな頼もしい記述すらあったと記憶しています。

あとがきの部分から。

この容姿で本人自身が不便を感じず生きていますので放っておいてください

(角川文庫) (p.123). 角川書店. Kindle 版より

著者の「~てください」の表現のくだりがとてもスキです。

(伝わりますか?この細かい表現のニュアンス…。)

どちらかというと角川文庫版の方がおとなしいというか分別のある
体裁になっていて最初に文庫本となった幻冬舎版の方が少しやんちゃな
印象がありました。

本棚にずっと置いていた幻冬舎文庫版の本は擦り切れるほどボロボロになってしまいました。
大変残念でしたが引っ越しの際にいつしか処分していました。

でもこうして今回振り返ることで角川文庫版ですが
再度電子書籍版で入手することになりました。

可能であればちょっとマニアックかもしれませんが
できれば幻冬舎文庫版の電子書籍が欲しかったです。

Amazonでは税込み416円でした。

私にとって著者の作品の多くは自分の暮らしや進路が順調で満たされていてハッピーブラボーみたいな幸せな状況では先生の文章はどこか読むのには
億劫で抵抗があるのです。

著作を読んでまでして無理に暗い気持ちを呼び出したくもないという感じです。

一転して山本文緒の作品を読みたくなるのは自分が持ってるネガティブな
感情と向きあいたい時。私は今まさにそんな時だと思います。

著書を読み直すことで特定のある感情≒私にとって暗黒で
後ろ向きな感情をページをめくる度に文字の連なりが山本文緒が織りなす
文章がわたしの気持ちを代弁してくれてるかのような安心感を与えてくれます。

私の感情はすでに著者がすくい取ってくれてもいるんじゃないだろうか?
私だけの孤独な感情が行き場を失ってるようなわけでなし。

読者たちは同じよう境遇の仲間がたくさんいるのだと読んでいくうちに
不思議な癒やしを感じます。

作品を通じた個の感情が広がって共感関係の連鎖を想像させるのです。

読む薬あるいは読む精神安定剤につながっていきます。

その安心感の脳内リピート再生をするべくエッセイでのあの描写が
また読み返したいというある種の禁断症状がやってきます。

そんな乾きみたいなものを山本文緒の文章が潤してくれるのです。

ここまで読んでくださりありがとうございます!

皆様におかれましてはいざという時の読む薬が手元にありますように。
(そもそも、そんないざという時も無理にはやってきませんように。)

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