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チューリップの餞

この春、僕の大好きな先輩が卒業する。

先輩との出会いは陸上部の新歓だった。

「○○くんの趣味は何なのー?」
ごく普通のこんな質問に舞い上がったことを今でも覚えている。

大人っぽい服装、話しかけられるたびに香るいい匂い、それでいて新入生全員に分け隔てなく話しかける明るさ。

たまにいる全部を持ってる人。先輩もその一人だった。
当然男の僕から見ても素敵な彼氏さんも”持って”いた。

勉強か部活が青春だった進学校出身の僕にとって大学生活はふわふわしたお祭りのような時間だった。

刹那的な楽しさと虚無感。

それを行ったり来たりしながら毎日を過ごした。
それでも不思議とその人だけは、ずっと頭の片隅に佇んでいた。

2年生の冬、先輩との最後の合宿があった。

僕の想いはだだ漏れだったらしく、周りの応援ムードもあり、先輩との距離は縮まっていた。サークル外でもドライブしたり、旅行に行ったり、、

合宿初日、先輩と同じ部屋の同期が良いニュースを持ってきた。
「○○先輩、XXのこと気に入ってるぽかったよ!この前行ったスノボ旅行の話もずっとしてたし!」

On Your Mark、彼女の瞳がそう呟く。

そして、もう一人の友達が言う。
「俺も後輩の中で、XXが一番推しって聞いたよ。てか最後の合宿なんだし、もういっちゃえよ?」

Set、彼の声が背中を推す。

あとは勇気だけかな、、?そう深呼吸して、僕はGoの笛を待った。

そして、気づく。僕の心の笛はならないことに。
いや、ならせないことに。

先輩と一緒の練習班になるだけで嬉しかった。
部室の掃除だって先輩が一緒ならテンションが上がった。
僕にとっては先輩といる時間が一番幸せな時間だった。

でも先輩の一番の推しだからこそ僕は知っている。

先輩の一番幸せな時間は彼氏さんと話してるときだということを。

本当は1年生の頃から気づいていた。
僕と行くディズニーよりも、彼氏さんと行くファミレスの方が先輩の思い出として残ることに。

あれから1年、今日先輩が卒業する。
何の因果か先輩の花束は僕の担当になった。

バラは重いし避けるーなんて想いながら、店員さんが見繕ってくれるのを眺めていた。悲しいような、どこか安心したような気持ち、、

そんなとき先輩からLINEが来た。
「花束、XXくんが選んでくれるんでしょ?楽しみにしてるね!」

いやいや、タイミングが出来過ぎだろ(笑)。
そんなことを想いつつ、僕の首に何かがぶら下がる。

「やっぱりチューリップを入れてもらってもいいですか?」
気づいたら店員さんにそうお願いしていた。

お花屋さんを後にする僕。

先輩、知ってますか?赤いチューリップの花言葉って愛の告白なんですよ?
絶対に言えないそんな気持ちを隠した僕の心から、掠れた笛の音が聞こえた。

水無月 双


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