娘の強迫観念は不可能を可能にするらしい。
ぴぃのミッケはなかなかしぶとくて、
暇だからと始めたぴぃランチは開店休業中。
自分の部屋にこもって夢中になって描いていたイラストも、気合入れて模様替えをした次の日には描けなくなった。
頻繁になった手洗いやトイレへの恐怖が、やりたいことを全て妨げる。
ぴぃは言った。
「トイレが一番怖いのは、おしっこをちゃんと拭けてない気がして、
太ももが汚れてるかもって思うと、ソファにも椅子にも座れない。
自分の体が汚いと思うと自分の部屋にも入れない。
だからトイレに行ったらお風呂に入ってきれいに洗わなきゃって思っちゃう。
ありえないとは思うんだけど、おしっこが上に跳ね上がっていろんなところにくっついてるような想像をしてしまう。
頭の中で、ミッケが不可能を可能にしちゃうんだ。」
発症初期にぴぃがミッケに囚われて、ありえないことを言ってパニックになることが多々あった。
その都度、そんなことありえないからとなだめてもまるで届かなかった。
本当にそんな想像をしてしまう病気なんだとわかった今は、
ありえないこととわかっていても怖いんだと、パニックになることなく言えるぴぃに成長を感じている。
またそれを、不可能を可能にすると表現したぴぃ。
一般的には、割といい意味で使われる言葉。
実際問題、できていたことができなくなっているぴぃに対して、
「ミッケがお前の可能を不可能にしてるだろ」
と、パパがすかさずつっこんでいた。
でも、私は、なんだかぴぃの表現が面白かった。
「ほんとだね、ありえないのにね、ありえちゃうんだね」
と言ってみる。
その後、ぴぃは自分のおしっこが飲めるか聞いてきた。
私は即答する、「飲めるよ。」
「飲んで生き抜いた人がいるんだから、窮地にたてば飲める。
どこかで聞いたことがある。おしっこの色は、体に吸収されなかった分の栄養素の色だと。例えば、ビタミンが一日の摂取量を超えると、色の濃いめのおしっこがでる。ママはいつもビタミン剤を飲んで寝てるから、次の日の朝はすごいよ。」
なんて言ってみた。
それを聞いたぴぃは「おしっこはいいやつなんだね」と言った。
次の日、
ぴぃは最近まで怯えながら入っていたトイレに、
「おしっこはビタミン!!」
と大声をあげて入っていった。
出てきてから手はしっかり念入りに洗うが、お風呂場には行かなかった。
「成功した、ママの話が大活躍してる」と言った。
通用しない理屈はいくつもあった。
理屈じゃないとわかっていても、伝えたくなる理屈。
ある意味ではこれも、不可能を可能にしてるんだな。
「ちなみにう〇ちはミネラルだからな」
と、パパがすかさず添えていた。
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