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「海をつかさどる神々と龍と民のものがたり~『イサナと不知火のきみ』~」【YA71】

『イサナと不知火のきみ』
たつみや 章 作  東 逸子 絵 (講談社)
                           2006.9.2読了
 
この夏、記事とともに様々な“勝手に夏曲”をついでに聴いていただいています。
不要だと感じられた方は別として、ちょっとでも聴いてみようかと思っていただけたら幸いです。
 
なんだか自分の好きなアーティストの変遷をご覧にいれているような感じですが、今回取り上げた曲も若い頃嵌ったというか、今聞いても大好きですし、数年前から再び脚光を浴び、シティポップというジャンルで世界的にも周知されている「大瀧詠一」さんです。

            『カナリア諸島にて』


かな~り若い頃、『A LONG VACATION』というアルバムレコードが発売された時、知人からすごくいいよ!と教えてもらいさっそく購入したのですが、有名な『君は天然色』は当然のこと、他の収録曲もとても素晴らしくこのアーティストの虜になりました。
 
夏に特化した曲は複数ありますが、ここはあえて『君は天然色』ではなく『カナリア諸島にて』を。
ここはリゾート地か!?と錯覚しそうです。いや、気のせいですね…。
じめっと湿気のすごく多い暑い日本で、天国のようなサマーホリデイをついつい想像してしまいます。

その昔、人は神様に守られ、心の中の神様とともに暮らしを営んできました。
 
イサナは不知火の海のちかくに集落を作る綿津見一族の娘であり、霊力を持つ巫女ですが、13歳にもなるのに集落の他の女性がやっているような手仕事などは一つも興味を持たず、いつかは舟に乗って海を旅するのが夢。
 
姉のアサカヒメは一番霊力の強い「火のきみ」という巫女の王であり、兄のオオシヒコはこの一族を父亡き後、立派に取り仕切っていました。
 

数年前、イサナは浜に打ち上げられた見知らぬ男の子を介抱してやり、それから彼といつも行動をともにしていました。

イサナよりやや年上と思われるその少年はおとなしく、しゃべる言葉はイサナたちが使う言語とは全く違っていて聞き取れなかったので、名前もクレと名づけてやり、言葉もすこしずつ教えてあげていました。
 
ある日イサナは、兄様たちが遠出の船旅に持ちこたえる舟を造るための材料である木を一緒に探していた中、ふと木が呼ぶ声が聞こえました。
 
その声に導かれ遠く隼人の国まで行って探し当てた木は、大きな松の木でした。
 
その松の中に子どもの龍が詰め込まれているのが、イサナとクレだけに見えました。
戸惑いながらも木に語り掛ける時、うっかりイサナが自分の名前を教えてしまったばかりに、突然その小さい龍は、イサナの中にとり付いてしまいました…。

 『ペパーミント・ブルー』という曲も大好きです(別アルバムから。この物語の雰囲気とは遠く離れていてすみません。海が舞台というだけでの安易な選曲です)


書籍発売当時、久しぶりのたつみや章さんの古代ファンタジーを読みました。
そのころプロバイダが運営するサイトの読書サークルで親しくさせてもらった方から教えてもらい、さっそく読んでみました。
 
たつみや章さんは古代ファンタジーの名手で、これまでも現代にからむ古代の言い伝えなどをもとに書かれた作品も数多く書かれていましたが、今回は海洋ファンタジーでいつもながらの神々に対する畏怖と敬愛の念はとても大事にされている印象です。(神様三部作という児童書もあります)
 
おまけに今回は龍というキャラクターとイサナの関係が楽しく、すいすいと読み進められました。
 
不知火の海を支配する「不知火のきみ」、そしてその妃(側室…実はシャチの化け物で、龍を食らってこの海を我が物にしようと企んでいる…)、「不知火のきみ」の後継ぎである子龍(松の木から出るとき、クレの銛で突かれ尻尾が取れてしまい、イサナに「オギレヒコナ」という屈辱的な名前をつけられた…)、謎の部分をもつクレ、そしてイサナをはじめとする綿津見の者たちとの、海をめぐる壮大な旅と戦いがはじまるシリーズの第1巻です。
 

神様たちを敬う北の国の民たちのたたかいを描いた「月神シリーズ」でも東逸子さんの挿絵により、登場人物の美しさにほれぼれしましたが、今回も裏切りません。
(絵だけでなく、そもそもたつみやさんの本を真っ先に教えていただいた「月神シリーズ」に感銘を受け、とても素晴らしいなと思い、ここでもご紹介したかったのですが、当時感動した時のレビューを全く残しておらず、書けないでいます…無念)
 

少女・イサナも下地は良いかわいい女の子だし、クレも静かな整った顔の少年、子龍も人間の姿に変身したときは5~6歳くらいのかわいい男の子だけど、尻尾を取り戻したときに現したその姿の美しさは、自分でも美しいことを自慢するほどの美貌で表現され、目も想像力も楽しませてくれます。
どうやら、作者ご本人が見た目の好きなタイプなのかなと思いました。
 

 


 


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