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「まさに現代の社会問題を描く、これがアメリカの児童書~『モッキンバード』~」【YA⑦】

『モッキンバード』 キャスリン・アースキン 作 ニキ リンコ 訳     (明石書店)
                          2016.1.20読了

アメリカの2010年全米図書賞を受賞した作品です
 
5年生のケイトリンは、大好きなお兄ちゃんを中学校の銃乱射事件の被害者として亡くしてしまいました。
よって今では、息子を突然亡くした衝撃からなかなか立ち直れない父親との二人暮らしをしています。
父親があまりにショックがひどすぎて、家じゅうが喪失感でいっぱいです。
 
ケイトリンは実はアスペルガー症候群の女の子です。
自閉症とは区別され、知識や何かの特技には高度な能力を発揮しますが、“気持ちの理解”が上手くできず、いわゆる空気が読めなくて、周囲とはトラブルも多く通常の交友関係が難しいのがこの症状の特徴とされます。
こだわりが強く、あいまいな表現だと理解に苦しみます。
そして、他人に自分の許容範囲をはずれる行動をされると、突然パニックを起こしたりもするのです。
 
そんな彼女の学校生活の中で理解を示してくれるのは、学校カウンセラーのブルック先生でした。
ただ先生も完璧にケイトリンのことをわかるわけではないのですが、できるだけケイトリンがまわりと上手くやっていけるよう指導してくれるし、訓練をしてくれます。
 
他人の表情を読み取る練習の基本は、“顔をよく見ましょう”で常に心に留めておくように。
そして、その人は表情一覧表のどの顔に近いかを確認します。
また気持ちを理解するための“理解の課題”も訓練の一つです。
 
他人と上手く交流するには、礼儀も大事です。
何かをしてもらったら「ありがとう」と言えなくてはなりません。
それがちゃんとできれば、ご褒美のシールがもらえるようになっています。
 
このような丁寧で根気のいる学習が、アスペルガーには必要なのだなとこの本を読んで知りました。
 
ケイトリンは、彼女の一番の理解者だった兄を亡くした虚無感を彼女なりにどうにか克服しようとします。
そこがとても健気です。
父親がなかなか立ち直れないでいるのに、ひとり敢然と立ち向かうのです。
そうでないと、今の危うい状況から抜け出せないままだから。
 
そのモヤモヤ感から抜け出すには、「気持ちの区切り」をつけることで状況が好転することに気づいたケイトリンは決意を持って、あることを成し遂げようとするのでした。
それはもちろん、父親との共同作業でないと到達しないのです。
 
はたしてケイトリンは、兄の死から立ち直ることができるでしょうか。
そのことを克服する過程で、彼女はひとつひとつ成長していきます。

 
この本は、主人公が5年生なので児童書扱いではありますが、内容がけっこうデリケートな部分がありもう少し上のヤングアダルトとして読んだほうが、理解しやすいかもしれません。
アメリカでは銃による事件をよく耳にしますし、発達障害に関する教育もおそらく日本より進んでいると思われます。多様性について、もっともっと日本は教育に反映すべき時だと思います。
 
それから、つい最近もアメリカで無差別銃乱射事件が多発しており、とても胸を傷め、この誰もが簡単に銃を持てる今のアメリカを早くどうにかしてほしいと心から願っています。

タイトルの『モッキンバード』とは日本語で「ものまね鳥」のことですが、どのような意味が隠されているかはわかりません。
昔『アラバマ物語』という映画がありましたが、原題は『To Kill a Mockingbird』(ものまね鳥を殺すこと)というそうで、差別を扱った内容だそうですが(鑑賞していないのでよくわかりません)、そのあたりにヒントがあるのかもしれません。すみません、あいまいで…。


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