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【一部公開】プッシー・ライオットの不朽の美学──『読書と暴動 プッシー・ライオットのアクティビズム入門』解説文(清水知子)


“プーチンが最も憎んだバンドPussy Riotの創設メンバーによる、回顧録と行動指針の騒々しい融合”

『カーカス・レビュー』誌より

“ナージャは彼女の存在すべてをもって真の反骨精神を体現している”

本文より、オリヴィア・ワイルド(『ブックスマート』監督、俳優)のコメント

“私たちはナージャに出会えて、幸運だ”

本文より、キム・ゴードン(ミュージシャン)のコメント

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 ソウ・スウィート・パブリッシングは2024年4月30日に、ロシアのプロテスト・アート集団=プッシー・ライオットの創立メンバーであるナージャ・トロコンニコワ著『Read & Riot: A Pussy Riot Guide to Activism』(2018年)の翻訳版『読書と暴動 プッシー・ライオットのアクティビズム入門』(野中モモ訳)を刊行しました。

 この本は、プッシー・ライオットの創立経緯や、かれらがロシア国内でおこなったアクションの数々、さらにロシア当局に逮捕されたのちの獄中生活などを綴る手記でありながら、それらのアクションの中で著者が得た「ロシアでフェミニストでクィアであることの意味とは?」「 アクティビズムは社会でどんな役割を果たすのか?」「 アートとアクティビズムはいかに交差するのか? 」などの答えを、カントからニーナ・シモン、ウィトゲンシュタイン、パンク・ソングの歌詞まで縦横無尽に引用しながら、10のルールに基づいて紹介する“生き方の指南書”的な1冊です。

 発売から約1週間が経ち、すでに多くの反響をいただいております。手に取ってくださった読者の皆さま、店頭に並べてくださっている書店・販売店の皆さま、誠にありがとうございました。

 ここでは改めて本著の魅力をより多くの方に知っていただくべく、東京藝術大学教授の清水知子さんによる解説文の一部を公開します。

書影。装丁は山中アツシさんによるもの

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プッシー・ライオットの不朽の美学
──海賊であれ、そして誇り高き魔女とあばずれ(ビッチ)であれ

文・清水知子(東京藝術大学教授)

”アートは現実を映す鏡ではない。アートは現実をかたちづくるハンマーだ”

──ベルトルト・ブレヒト

プッシー・ライオットとは何/誰か

 本書は、ロシアのフェミニスト・パンク集団「プッシー・ライオット」の生みの親、ナージャ・トロコンニコワ(1989年生まれ)の著書『Read & Riot: A Pussy Riot Guide to Activism』(2018年)の翻訳である。

 プッシー・ライオットと言えば、2018年にロシアで開催されたサッカーW杯決勝戦に警官の格好をして乱入した出来事を思い浮かべるひとも多いだろう。しかし本書は、過激な抗議活動を繰り広げる“危険分子”のハウツー本ではない。腐敗した独裁体制に抵抗するアプローチを試行錯誤し、権力の濫用を明るみに出し、悪夢のような現実にどう向き合ってきたのかを語りつくす、「文化労働者」としてのアーティストの実践と哲学の書である。プッシー・ライオットの活動の根底にあるのは、フェミニズム、同性愛者の権利、そして徹底したウラジーミル・プーチン大統領のロシア体制へのあくなき批判だ。不正義への闘い、そしてそれを実現する「魔法の杖」としてのアート。本書は、政治的洞察力に満ちた、自由のための闘いのエッセンスを10のルールに凝縮した珠玉の1冊である。

 プッシー・ライオットが結成されたのは2011年10月のことだ。1990年代のRiot Grrrlのパンクジンに大いに触発されて誕生した。ロシアにはパンクもあったし、フェミニズムもあった。けれども、パンクフェミニズムはなかった。だから彼女たちはそれを“発明”した。

 パンクに定義など必要ない、とトロコンニコワは言う。なぜなら、パンクとは「ひとつの方法」に他ならず、「パンクでいることは自分自身のイメージを計画的に変えてゆき、得体のしれない存在であり続け、文化的・政治的な作法をサボタージュすること」だからだ。

 じっさい、プッシー・ライオットは、結成当初、だれひとり楽器を持っていなかった。まずはイギリスのOi!パンクの曲の一部を丸写ししようと、午前3時、ヤク中がたむろする雨降る児童公園の遊具の家(プレイハウス)に集った。あるいは、建築工事中のモスクワの教会の地下室で練習を重ねた。路上に放り出されると、タイヤの廃工場に練習場をつくった。お嬢ちゃん扱いして家に戻るよう声をかけてくる工場の警備員たちには、フェミニズムの歴史をみっちり説いて黙らせた。

 詩を書くのが嫌いだった彼女たちは、お気に入りの哲学者の言葉とニュースの見出しをカットアップして歌詞をつくった。反抗的で遊び心に満ちたそのスタイルは、まさにダダの精神そのものだ。最初の曲は「セクシストを殺(や)れ」。ライブはDIY。もちろん無料だった。

 猫におしっこをひっかけられた目出し帽バラクラバ、壊れたギター、酸をもらす自家製バッテリーからなる音響システム。プッシー・ライオットのバラクラバが色鮮やかなのは、黒一色のテロリスト集団と一線を画すためだ。どこか道化(クラウン)めいたそのスタイルは、ゲリラ・ガールズを想起させもする。トロコンニコワは言う。バラクラバをかぶると「ちょっとスーパーヒーローみたいな気分」で勇敢になれる、と。

 こうして誕生したロシアのパンクフェミニズムは、しかし、はじめから波乱万丈だった。

 プッシー・ライオットの国際的な知名度を一気に高めたのは、2012年2月、モスクワの救世主ハリストス大聖堂の女人禁制の祭壇前で「神の御母よ、プーチンを追い払って!」と祈願するパフォーマンス「パンク・プレイヤー」披露したことである 。数日後、動画が公開されるや否や、トロコンニコワをはじめとするボーカルの3人(マリーナ・アリョーヒナ、ナージャ・トロコンニコワ、エカチェリーナ・サムツェビッチ)が取り押さえられ、「宗教的憎悪を動機とするフーリガン(暴徒)行為」の罪で2年の禁固刑という実刑判決を言い渡された。

 だが、ロシア政府によるこの“見せしめの裁き”は、プッシー・ライオットの解放を求める猛然たる批判を巻き起こした。このアクションはYouTubeで世界的に配信され、プッシー・ライオットは米『タイム』誌の表紙を飾った。エルトン・ジョン、U2、マドンナ、ポール・マッカートニー、オノ・ヨーコ、スティング、パティ・スミス、レディオヘッドなど100名を超える著名ミュージシャンが「フリー・プッシー・ライオット」運動に賛同し、支持を表明した。さらに「パンク・プレイヤー」は、英『ガーディアン』紙によって「フェミニストであり、明確に反プーチンであり、ゲイ・プライドの禁止と正教会の大統領支持に抗議している」と評され、21世紀最高のアート作品に選ばれた。

結成前夜!

 プッシー・ライオットの過激な抗議活動とパフォーマンスは、その後も折に触れて物議を醸すことになる。プッシー・ライオットは、違法ライブ、寄稿と著作、スピーチ、ドローイング、ポスター、ミュージックビデオとつねに手法と媒体を変え続け、実践的なアートプロテストを多様化してきた。アイ・ウェイウェイとは「反国家で偽のアーティスト」として共鳴しあう同志である。路上、駅構内、戦車の上、赤の広場で不認可ライブを行ない、発煙筒を焚き、消火器を撒き散らす。一連のアクションはネット上で公開され、アーカイブ化される。彼女たちのパワフルで挑発的な行動は、しかし、けっしてたんなる思いつきではない。

 プッシー・ライオットには目を向けるべき独特の手法と特徴があり、その背景に脈打つのは、1980年代から90年代のモスクワ・コンセプチュアリズムとロシアン・アクショニズムと呼ばれるソ連時代の非公式芸術である。モスクワ中を裸で走り回り、犬となって人間に噛み付いたトロコンニコワのお気に入りのアーティスト、オレグ・クリーグをはじめとする、ソ連崩壊前後のアーティストらのアクションこそ、プッシー・ライオットを「生み育てた家族」である。

 警察からどう逃げるか、お金を使わずにどうアートを創るか、フェンスはどう飛び越えるのか、そして火炎瓶はどう調合するのか──その戦略や知は、プッシー・ライオットが結成される前から悪夢的な政治システムと闘うために蓄積されていた。

 というのも、トロコンニコワは2007年から2009年にかけて当時の夫ピョートル・ヴェルジーロフとともにストリートアナキスト芸術集団「ヴォイナ」(2007年に結成)のメンバーとして活動していた 。「ヴォイナ」はロシア語で“戦争”を意味する。屍と化した“ギャラリーアート”と保守極まる右派政府に挑む“戦争”だ。

 警察車両をひっくりかえす<宮殿クーデター>(2010)や、5人の不法入国者と同性愛者をスーパーマーケットで模擬「処刑」する<デカブリストの記憶/スーパーマーケットでの公開処刑>(2010)など、過激なアクションを決行したヴォイナだが、何より知られているのは、代表作<KGBに捕捉されたペニス/ヴォイナの65メートルのチンポ>(2010)だろう。

 2010年6月14日、チェ・ゲバラの誕生日に、旧KGB前の跳橋に描かれた巨大なペニスが高さ65メートルに跳ね上がり“勃起”した。このグラフィティはロシア政府そのものにファックユーを突きつけるアイロニーとユーモアに満ちたアクションとして知られ、ある種の名所となった。ちなみにこの作品は、ロシア文化省から現代美術のイノベーション賞を授与されている。もちろんロシア文化省が言祝いだわけではない。審査を担当したフランス、ドイツ、ロシアのインディペンデントキュレーターらが候補から外すように命令するロシア文化省を徹底して拒んだゆえの受賞だった。

 犯罪すれすれ(いや、犯罪か)の祝祭性をともなう、ゲリラ的なアクション、そして活動資金をネットのドネーションで賄い、絶妙なタイミングでロシア政府に真っ向から挑むヴォイナのスタイルは、今日のプッシー・ライオットにも受け継がれていると言えよう。

監獄という名の拷問島を滅ぼせ!

 とはいえ、このような挑発的なゲリラ的アクションゆえに、ロシアのアーティストらは監獄での生活を余儀なくされた。囚人服を着せられ、沈黙を強いられ、刑務官からの暴力に脅かされ、1日16~18時間というありえない労働ノルマを化せられる。すべてが罰則の対象となる劣悪な日々。悪名高いモルドヴィアの刑務所で過ごしたトロコンニコワは、非人間的な労働条件に抗議してハンガーストライキを決行し、囚人パンクバンドとともにシベリアの労働キャンプを回るツアーを行なった。獄中で交わされた哲学者スラヴォイ・ジジェクとの手紙の往還は『志を同じくするものの挨拶状』として出版されている。

 事実、トロコンニコワの抗議により、この21世紀の奴隷労働システムを考案した所長ユーリ・クプリヤノフは有罪を言い渡され、執行猶予付きの禁錮2年の刑に服した。“社会復帰”を名目に掲げる刑務所制度の現実について、トロコンニコワは次のように述べている。「現代ロシアおよび現代アメリカに存在する刑務所制度をくぐり抜けてきた人々の瞳のなかに見てきたのは、皮肉と残酷を伴う絶望だ」、と。

 注目すべきは、こうしてボロボロになりながらも、2013年に釈放されたのち、アリョーヒナとともに囚人の権利を守るための団体「Zona Prava(権利のゾーン)」を設立したことだろう。「ロシアや合衆国、中国、ブラジル、インドその他多くの国々に存在する現代の刑務所制度は、ひとまとまりの合法化された拷問島として、滅ぼされるべきである」というトロコンニコワの訴えは、黒人解放運動を牽引し、監獄の撤廃を訴えるアメリカのマルクス主義フェミニスト、アンジェラ・デイヴィスの言葉と響きあう。

 さらに2014年9月には、政治ジャーナリストのセルゲイ・スミルノフと協力して、ロシアの汚職、裁判、刑務所の問題を報じる独立系ニュースサイト『Mediazona(メディアゾーナ)』を立ち上げた。当初、運営資金はトロコンニコワやアリョーヒナの講演、富裕層からの寄付によって工面していた。現在では「読者からの寄付」も受け付けている。2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以来、『メディアゾーナ』は『Republic』や『Snob.ru』、『プロエクト』といった他の独立系メディアとともに、ロシア当局によってアクセスを遮断され、現在ロシア国内で見ることはできない。

 また『メディアゾーナ』は2021年9月に、ナージャは同年12月にクレムリンからロシアでスパイを意味する“外国の代理人”に指定された。加えて2023年11月には『メディアゾーナ』の「元」発行人であり、プッシー・ライオットのメンバーでもあるピョートル・ベルジロフに対し、ロシア軍に対する虚偽情報を流布したという理由で、本人不在のまま懲役刑が下された。だが、『メディアゾーナ』はBBCロシア支局やボランティアと連携して、ロシア兵の死亡者数や家族の動向、ウクライナでの戦災状況について一般市民や避難民からの独自取材に基づいた記事を報じている。嘘と権力で塗り固められたロシアのマスメディアに対し、反体制ジャーナリズムとして重要な役割を果たしているのである。

 このような状況のなかで、プッシー・ライオットはウクライナ侵攻を批判するミュージックビデオを公開し、侵攻後に始まったロシアの子どもたちに対するプロパガンダ教育の廃止と、連れ去られた子どもたちの返還を求める声明を発表した。このニュースは、バルト三国ラトビアに拠点を置く独立系の露語オンラインメディア『メドゥーザ』によって伝えられた。ビデオのタイトルはロシアの作曲家チャイコフスキーのバレエと同じく「白鳥の湖」だった。このタイトルは、ソ連時代に指導者が死去した際に国営テレビが「白鳥の湖」を放送したことに由来し、政権が真実を隠しているという意味が込められている。

 プッシー・ライオットの批判の先はプーチンだけではない。2016年には、ドナルド・トランプに対して「Make America Great Again」という楽曲をリリースし、トランプを痛烈に批判している。このセンセーショナルなミュージックビデオは世界中に拡散され、大統領選投票日前の11月3日にはSpotifyの「バイラルトップ50」でトップに躍り出た。

 じっさい、プーチンとトランプはまるで映し鏡のように、不平等と構造的暴力を造り出し、他者をスケープゴートにし、女性を蔑み、嘘と裏切りが蔓延する父権主義(パターナリズム)に満ちた社会を加速させている。人々からお金を強奪し、資本主義の虜となった男たち。そんな政府には『読書と暴動』の「ルール4」を捧げたい。

ルール4:政府をびびらせろ
 “権力者たちは恐怖のうちに生きなければならない。人々への恐怖のうちに。……
 メインキャラクターはこちら──権力、勇気、笑い、喜び、信念、リスク。加えてもしかすると、インスピレーション、公正さ、苦闘、異端者、魔女、尊厳、信頼、仮面、いたずら。”

『読書と暴動』79ページより

 こうして、モスクワ大学で哲学を学び、18歳でシモーヌ・ド・ボーヴォワールに出会ったトロコンニコワは、その後にジュディス・バトラーの思想に感化されてクィア理論とパフォーマティヴなジェンダーの政治を見出し、ミソジニーが漂う街で「どうしたら規範を再定義することができるのか」という問いに向き合っていった。

フェミニズム・アクション・仮想通貨

 知られるように、プッシー・ライオットのアクションの根幹をなしているひとつはフェミニズムの思想である。ただしそれは、いわゆる西洋のリベラルなフェミニズムとはいささか異なるものだ。「フェミニズムとは性差別をなくし、性差別的な搾取、抑圧を終わらせる運動である」という、インターセクショナルフェミニズムのパイオニア、ベル・フックスの一節をふまえ、トロコンニコワは次のように述べている。

ルール10:ビー・ア・(ウー)マン
 “フェミニズムは男性、女性、トランスジェンダー、トランスセクシュアル、クィア、Aジェンダー、誰もが使える解放のツールである。フェミニズムのおかげでそう言える。私は自分が好きなように、自分が感じるままにふるまい、性役割を脱構築して戯れ、自発的にまぜこぜにする。性役割は私のパレットであり、私を縛る鎖ではない。”

『読書と暴動』237ページより

 では、それを実現させる政治的芸術行動(ポリティカル・アーティスティック・アクション)にはどのような戦略が見出せるだろうか。

 第一にダダに由来するカットアップのテクニックである。絵筆と絵の具よりもハサミと糊を使うのがダダイストだ。哲学者の言葉とニュースの見出しからパンクの歌詞をつくったエピソードもさることながら、トロコンニコワはダダの魅力について「芸術的な勇敢さ、自由なありかた、そして創作術」だけでなく、「世界それ自体の捉えかたにまつわる新しい手法の導入」にあるとし、次のように語っている。

 “私にとって、ダダのコラージュ術は美しく、反体制的で、遊び心にあふれ、からかい上手でコケティッシュだ。……
 現実を芸術的に分類していく行為はいつでも私のいちばんのお気に入りだ。なぜならその不条理と狂気を通して、どんなかたちであれものごとを順序立てていく工程には、最初からバイアスがかかっている、という単純な事実が明らかにされるから。情報をランダムに分類する芸術的な試みとしてのコラージュは、私たちがほかのタイプの分類、つまり男らしいふるまい/女らしいふるまい、自由世界/非自由世界、学識のある/学識のない、といったくだらない線引きを標準化し、慣れてしまわないための助けとなる”

『読書と暴動』63ページより

 既存の線引きを疑い、破壊し、書き換えること。秘密裏にプロジェクトを進め、街で起きる出来事を利用して、不意打ちで介入すること。潜在的なリスクを研究し、それに基づいて現実を改変し、新たな意味を与え、文脈を置き換えること。そして何より、それらを絶妙のタイミングで成し遂げること。プッシー・ライオットのアクションを特徴づける第二の点は、まさしくこのタイミングにある。

 プッシー・ライオットの突発的で祝祭的なアクションはメディアを動員し、注目を集め、議論に火をつける格好のタイミングを見事に掴んでいる。ここで想起するのは、時間が空間と同様に社会変革についての介入を行なううえで非常に重要な要素であり、その介入はつねに政治的、経済的に不安定な瞬間に行なわれると論じた、キューバのアーティスト/アクティビストであるタニア・ブルゲラの「ポリティカル・タイミング・スペシフィシティ」という概念である。ブルゲラによれば、ポリティカル・タイミング・スペシフィック・アートは、自らのツールで権力に立ち向かうだけでなく、権力者が他者から政治的なものを定義されることにどう反応すればいいのかわからなくなる一時的な分岐点を作り出す。それは、現在の政治問題によって生み出された感情的な資本を再利用するもので、政治的決定がいまだ確定し、実行されておらず、文化的に受け入れられていないわずかな瞬間に入り込む必要がある。ポリティカル・タイミング・スペシフィック・アートは、新しい政治的現実の想像と、その想像をコントロールする政治家たちのあいだの空間で生まれる。それは、権力者が反応するまでの時間のなかに存在するのだ。したがって、たんに政治的なテーマを表象するのではなく、公的空間において無許可で、しかもスピードが求められるゆえに日常的に伝わりやすい視覚言語やジェスチャーを使い、何か奇妙なことが起きているといった政治的な決定不能性をもたらすかたちで介入が実行されることになる。

 そして第三に、何より重要なのは、インターネット時代のアートアクティビズムであるということだ。

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解説の続き&本編はぜひ“読書”にてお楽しみください!


【目次】
文化労働者としてのアーティスト──日本版のためのまえがき
イントロダクション
ルール1:海賊になれ
ルール2:ドゥ・イット・ユアセルフ
ルール3:喜びを取り戻せ
ルール4:政府をびびらせろ
ルール5:アート罪を犯せ
ルール6:権力の濫用を見逃すな
ルール7:簡単に諦めるな。抵抗せよ。団結せよ。
ルール8:刑務所からの脱出
ルール9:オルタナティヴを創造せよ
ルール10:ビー・ア・(ウー)マン
最終声明:希望は絶望から生まれる
この本に寄せて:キム・ゴードン
この本に寄せて:オリヴィア・ワイルド
解説:清水知子(東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科准教授)
巻末コンテンツ:あるプッシー・ライオットの推薦図書リスト


【著者プロフィール】

著者近影

ナージャ・トロコンニコワ
アーティスト、アクティビスト。国際的フェミニスト・プロテスト・アート集団プッシー・ライオットの創立メンバー。2012 年、モスクワの救世主ハリストス大聖堂でプーチン大統領とロシア正教会を批判するゲリラ・パフォーマンスを敢行。有罪判決を受け2年にわたって収監された。釈放後は囚人の権利のための非政府組織ゾーナ・プラヴァと独立系通信社メディアゾーナを設立。2022 年にはNFTアート収集集団ユニコーンDAO を立ち上げ、ウクライナのために700 万ドル以上を集めた。レノン・オノ平和賞およびハンナ・アーレント政治思想賞を受賞。現在では数百人の人々が自らをプッシー・ライオット・コミュニティの一員であると認識している。プッシー・ライオットは、ジェンダーの流動性、包摂性、母権制、愛、笑い、分散化、アナーキー、反権威主義を支持する。ロシア連邦シベリア連邦管区ノリリスク生まれ。

【翻訳者プロフィール】
野中モモ
東京生まれ。翻訳者、ライター。訳書に『音楽のはたらき』(デヴィッド・バーン、イースト・プレス)、『GIRL IN A BAND キム・ゴードン自伝』(キム・ゴードン、DU BOOKS)、『女パンクの逆襲―フェミニスト音楽史』(ヴィヴィエン・ゴールドマン、Pヴァイン)、『世界を変えた50人の女性科学者たち』(レイチェル・イグノトフスキー、創元社)などがある。著書に『野中モモの「ZINE」 小さなわたしのメディアを作る』(晶文社)『デヴィッド・ボウイ 変幻するカルト・スター』(ちくま新書)など。

【書誌情報】
タイトル:『読書と暴動 プッシー・ライオットのアクティビズム入門』
著:ナージャ・トロコンニコワ
翻訳:野中モモ
解説:清水知子(東京藝術大学教授)
装丁:山中アツシ
デザイン:川名潤
仕様:304ページ、並製本、四六判変形
価格:本体2,600円+税(2,860円)
ISBN:978-4-9912211-4-9