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【小説】#10:芦沢央『火のないところに煙は』

著者:火のないところに煙は
タイトル:芦沢央
読了日:2023/1/19


あらすじ


作者である芦沢央さん自身が体験したこと・人伝に聞いたこととして5つの怪談が繰り広げられる。

「染み」
「お祓いを頼む女」
「妄言」
「助けてって言ったのに」
「誰かの怪異」

第一話「染み」では作者自身が体験した怪奇現象を紹介している。
第二話「お祓いを頼む女」では友人が体験した怪異を語る。
第三話「妄言」は仕事仲間が書く機会を失ったネタを、第四話「助けてって言ったのに」では編集者が仕入れた話が繰り広げられる。
最後に第五話「誰かの怪異」は一般大学生が経験した怪異が紹介される。

一見別の事象とも取れるこれらが最終話にて驚きの関係性が語られる。
しかし、それら怪異の謎はこの作品を通じて解明されることはなく、むしろ読者たちと共有し「この謎について知っている方はいませんか」と尋ねるような終わり方をする。

ミステリとしてはタブーを犯しているような本作品ですが、ミステリのようでありながらホラーでもある。
どんなタブーかはネタバレになりそうなので割愛します。
とはいえ、あまりホラー作品を読んだことがないという方は特に新感覚の読書体験をすることができる作品です。


感想


まず、タイトルに惹かれて読みました。
「火のないところに煙は」
最後まで書かないことによって「ん?」と疑問を持たせることができるのではないでしょうか。まんまと引っかかった人がここにいますし。

ホラー作品だと思って読み始めたのですが、ミステリ要素も強めですね。
しかし実はこの作品、ミステリ作品を読み慣れている人にとっては読了後に大きなモヤモヤが残りますがそれもまた怪談の醍醐味かもしれませんね。
また、作者の体験や人伝に聞いたことがベースなのでリアリティがあります。
以前紹介した貴志祐介さんの『黒い家』もホラー作品なのですが、こちらはガチサイコパス殺人鬼が登場します。
なので本作品と比べたら恐怖感は段違いです。
しかし、流石にこれまでの人生でガチサイコパス殺人鬼に会ったことも話に聞いたこともなかったのでリアリティという面では勝るでしょう。

ちなみに僕は霊感とかそういった類の感性や体験は一切ございません。
幽霊も科学的に立証されるまで信じません。いるかもしれないしいないかもしれないとかいう一番ズルいポジションにいます。笑
突然ですが、先ほど作者の体験や人伝に聞いた話がベースと述べましたが、この作品は実はフィクションです。
確かに作者が体験したことが語られることもあるのですが、それをホラー作品っぽく成り立たせるためにあたかもリアルかのように色々付け加えているんです。
そう言った手法のことをモキュメンタリーと言うそうです。
ドキュメンタリーならよく聞くんですけどね。
自分としては初めてのタイプの作品だったしページ数もそこまで多くはないのでサラッと読めたし、とても楽しかったです。


余談


モキュメンタリーという言葉は初めて聞いたので少し調べてみました。
英語だと mockumentary と書くそうで、mock「擬似」という意味の単語とdocumentaryを組み合わせた造語だそうです。
意味は「フィクションをもとに作られるドキュメンタリー風の表現方法」だそう。
ゴジラも例の一つっぽいですね。
当然ゴジラが現実世界に現れるわけがないとわかってはいるもの、それは現代の人々がゴジラという映像作品を知っているからであって、何も知らない人々にゴジラが襲ってきていると伝えるニュース映像を見せられたら一部の人は信じてしまいますよね。
フィクションをあたかも実際に起こったことかのように表現する手法です。

本作品でもホラー作品を手掛けるということで、読者に一層恐怖感を与えるためにあえてリアリティを持たせてあります。
所々実体験が組み込まれていて、作者が2回ほど車に轢かれかけたとか、それをTwitterでつぶやいただとかあたかも現実であるかのように錯覚させることができます。
読んでいる最中も「実際にこういうことってあるんだな〜」なんて呑気に考えていました。
ところがどっこいただ作者の手のひらの上で見事に踊らされてただけでしたと。。。

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