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「100%ブラック企業w」という投稿の発信者情報開示請求(認容)


ポイント

 本件は、情報サイトに「100%ブラック企業w」等と書き込まれたことに対して、そのような書き込みをされた企業が発信者情報開示請求を行った事案です(東京地判令和4年7月29日令4(ワ)3808号)。

 東京地裁は、原告の社会的評価が低下したことは明白であるとした上で、違法性阻却事由も存在しないとして、発信者情報(氏名又は名称、住所及び電話番号)の開示を認容しました。

 本判決のポイントは、以下の点となります。

・口コミサイトの名誉権侵害基準として、(a) 原告の社会的評価が低下したことが明白であり、かつ、(b) 違法性阻却事由(①事実の公共性、②目的の公益性、③事実の真実性)が存在しないことを証明する必要がある。

・原告の特定可能性について、原告の正式名称が書かれていないとしても、書込みがされたサイト内のカテゴリーやスレッドのタイトルをもって特定可能と判断され得る。

・「100%ブラック企業」の解釈について、企業情報サイトに投稿された「100%ブラック企業」という表現は、一般閲覧者の通常の注意と読み方として、原告が労働法を全く順守していない違法な労働環境にある企業という事実を摘示したものであると判断された。

・労働環境に関する投稿は、事実の公共性及び目的の公益性が存在しないことが明らかとは言い難いものの、事実の真実性を否定することで違法性阻却事由の不存在を主張することになる。

1.事実関係と争点

 原告は、「株式会社XY」という商号で一般貨物自動車運送事業等を営み、秋田市内に本店営業所を構える会社です。東北地方の企業に関する情報を書き込むための情報サイトである「爆サイ.com東北版」(本件サイト)中の「秋田運輸・交通」カテゴリー内に「XY社」というタイトルを冠して掲示板が開設され、そこに以下のような投稿(本件投稿)がされました。

「和を大切に、絆アピール、極め付けはホームページに作り笑いの集合写真。100%ブラック企業w」

 本件投稿によって原告の権利(名誉権)が侵害されたことが明らかであるか否かが争点となりました。

2.発信者情報開示請求の要件

 企業情報サイトの一つである本件サイトに本件投稿がされたことによって原告の名誉権が侵害されたことが明らかである(プロバイダ責任制限法5条1項1号:※2024年改正法で情報流通プラットフォーム対処法[略称「情プラ法」]に名称変更)といえるためには、原告において、以下の事項を証明する必要があります。

(1)本件投稿によって原告の社会的評価が低下したことが明白であること
(2)違法性阻却事由が存在しないこと
  
①事実の公共性
  ②目的の公益性
  ③事実の真実性

3.原告の特定可能性

 原告の社会的評価が低下したといえるためには、対象となる法人が特定されていなければなりません。

 裁判所は、本件投稿は、本件サイト中の「秋田運輸・交通」という原告の本店営業所が所在する地名及び原告が営む業種が組み合わされて併記されたカテゴリー内に、原告の商号から「株式会社」という会社組織の分類を示す一般的名称の部分を除いた社名の主要部分である「XY社」と同一の呼称をタイトルに冠して開設された掲示板に投稿されたものであることに鑑みると、本件投稿が原告を対象とするものであることは明らかであると判断しました。

4.権利侵害の明白性

 裁判所は、一般閲覧者の通常の注意と読み方を基準にすると、「100%ブラック企業」という表現部分は、原告が労働法を全く順守していない違法な労働環境にある企業という事実を摘示したものと認められるとしました。

 その上で、同摘示事実は、一般閲覧者に対し、原告は労働者に極端な長時間労働を課すなど違法な労働環境にある企業であるとの印象を与えるものであるから、同事実がインターネット上で公開されたことによって、原告の社会的評価が低下することは明らかであるとされました。

5.違法性阻却事由

(1)①事実の公共性、②目的の公益性

 裁判所は、原告の労働環境についての投稿は、運送業界への就職を検討しているなど、原告を含む運送会社の経営状態や労働環境について関心を持つ者等にとって有益で社会的価値を有する情報であるから、そのような情報を一般閲覧者に向けて提供している本件投稿は、事実の公共性及び目的の公益性が存在しないことが明らかであるとはいえないとして、①事実の公共性、②目的の公益性を否定しませんでした。

(2)③事実の真実性

 他方で、「和を大切に、絆アピール、極め付けはホームページに作り笑いの集合写真。」という表現部分について、次のように、③事実の真実性が欠如していると否定されました。

 まず、裁判所は、上記の摘示事実を、原告が社員の和を大切にし、社員間の絆を対外的にアピールしているという事実と、原告がウェブサイトにおいて作り笑いをした従業員の集合写真を掲載しているという事実であると確定しました。

 その上で、「従業員らの笑顔が写真用に意図的に作出されたものであるか否かは画像から一見して明らかになる事柄ではなく、仮に従業員らの笑顔が写真用に意図的に作出されたものであるとしても、それらの事実をもって、原告が労働法を全く順守していない違法な労働環境にある企業であるという事実を推認することはできない」等といった理由を挙げて、「上記記事の摘示事実は真実性が欠如しているものと認められる」と判断しました。

6.裁判の結論

 以上より、本件では、権利侵害の明白性に加えて、違法性阻却事由は存在しないことが認められ、被告の氏名又は名称、住所及び電話番号の開示請求が認容されました。

さいごに

 口コミサイトに自社に対する誹謗中傷の投稿を発見した場合には、発信者情報開示請求を検討する余地があります。この場合、プロバイダにおけるログの保存期間は短く、遅くとも問題となる投稿の日から2か月以内には開示請求に着手したいところです。

 なお、同様に「ブラック企業」との投稿を行った場合でも、サイトの性質や付加された文言や文脈によっては、発信者情報開示請求が認められない場合もあるため、注意が必要です。


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