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ポロネーズという舞曲

ポロネーズという音楽形式があります。ポーランド由来の舞曲。一般的にはショパンのピアノ曲として知られていますが、本来なら踊るためのものです。

ポロネーズの特徴は同じ三拍子でも、ワルツとはだいぶ違います。三拍子の一拍目の裏拍で音が跳ねるのが特徴です。

「タータタ、タッ、タッ」という具合。二拍目と三拍目の裏拍を鳴らしていいい。

「タータタ、タタ、タタ」

楽譜にするとこんな風。二拍子のポロネーズもあるそうですが、踊るには三拍子がいいですね。

このように一拍目で細かいリズムを刻むのもポロネーズ。

「タタタタ、ター、ター」

マズルカ同様に、二拍目に強拍が来るのが、オーストリアのワルツとは違うところです。同じようには踊れません。

素晴らしい動画を見つけたのでご覧下さい。

ポロネーズと言えばポーランドの作曲家フレデリック・ショパンですが、ショパンのピアノ曲はあまりに複雑で踊れません。ショパンの作曲は聞くためのポロネーズ。

上記の動画では、ロシアのチャイコフスキーのオペラ「オネーギン」の有名なポロネーズが踊るための音楽として選ばれています。こうして実際に踊るポロネーズを見られるのは楽しいですね。

器楽音楽のためのポロネーズ

ポロネーズと言えば、ショパンの英雄ポロネーズや幻想ポロネーズが思い浮かび、軍隊ポロネーズの冒頭の跳ねるリズムがすぐさま脳裏の木霊するような方はきっとピアノが大好きな方ですね。

もちろんそれで一向に構わないのですが、ポロネーズはショパンの専売特許でもなんでもなく、ショパン以前にも数多くの作曲家によって芸術音楽のために作曲されていた音楽スタイル。

踊りの時代と言っても過言ではなかったバロック音楽の時代には、バロックの代表的な作曲家であるヘンデルやヨハン・セバスチャン・バッハもポロネーズを作曲しています。

大バッハの最も有名なポロネーズは、フルートをソロ楽器とした管弦楽組曲第二番。

鍵盤楽器のためのポロネーズもあります。

子供たちの学習用に書かれた「アンナ・マグダレーナのクラヴィア曲集」からの一曲。

この動画では第三小節目にポロネーズのリズムが出てきます。緑の部分がショパンなどでお馴染みのポロネーズのリズム。最初の二小説はポロネーズの導入部。こういうポロネーズもあるのです。

またバッハの長男のヴィルヘルム・フリーデマンの代表作は「12のポロネーズ」という鍵盤楽器のための音楽。

でも1770年代に作曲されたヴィルヘルム・フリーデマンの代表作は全然ダンス音楽的ではない、マニエリスムなポロネーズ。

十二曲のうちの偶数番号には遅いテンポでの短調作品なので、聴き込んでいると瞑想的で引き込まれてしまいます。ショパンの先駆と言えるでしょうか。

楽譜を見るとポロネーズなのが確認できますが、多声音楽で鍵盤楽器で全ての声部が和音化して響きがブレンドされてしまうとポロネーズには聞こえません。でも良い曲です。

踊るための音楽を得意としたシューベルトは、ヴァイオリンのための素敵な音楽を書き残しています。貴婦人らが舞い踊る舞踏会にふさわしいシューベルトらしい名曲です。

先輩ベートーヴェンも円熟期に単発でポロネーズというピアノのための作品を書いています。作品番号89で、第七や第八交響曲や戦争交響曲と同時代の作品。

ポーランドの作曲家フレデリック・ショパン

でもポロネーズの真骨頂はやはりフレデリック・ショパン。

ポーランド人作曲家ショパンは、自国の伝統的な舞曲形式のポロネーズを縦横無尽に使いこなして、七曲の完成された完璧なポロネーズに加えて、ショパンの第三ピアノ協奏曲ともいうべき「アンダンテ・スピアナートとポロネーズ」作品22を作曲しています。

スピアナート spianatoは、英語で言うところのsmooth やevenで、なめらかにルバートしないで弾くこと。後半のポロネーズで音が跳ねまくりますので、前半は楽譜に書かれた通りのアンダンテという意味でしょうね。音楽は対比されることで音楽的効果が極まります。この曲、大好きです。

個人的に思い出深いのは、ショパンが7歳の頃に作曲したポロネーズ。

この頃からショパンは民族主義を意識していたのだなということのわかる佳曲です。それにしてもすごい神童ぶりですね。

バッハの作曲にあるように、ポーランドという国の舞曲であるポロネーズは、ショパン以前にも知られていたものですが、ショパン以降は、マズルカなどと共に、ショパンの音楽を通じて、世界的に知られるポーランド音楽の代表となるのです。

チャイコフスキーのバレーのためのポロネーズ

でもですね。このリズムを好んだ作曲家がお隣ロシアのチャイコフスキー。

「白鳥の湖」とほぼ同じ頃に書かれていた第三交響曲ニ長調のフィナーレにはポロネーズが登場します。故にこの曲に付けられたあだ名は「ポーランド」。名付けたのは作曲家ではなかったのですが。

ポロネーズ舞曲のスタイルによる壮大な勝利の歌ですね。

交響曲第三番は、有名な悲壮交響曲を含んだ後期三大交響曲ほどには演奏されませんが、20世紀アメリカのバレー界を牽引した振付師ジョージ・バランシン (1904-1983) の創作したバレー「ジュエルズ Jewels」の三つの宝石のうちのダイアモンドの舞台の音楽に選ばれています。

バレーのフィナーレには、交響曲第五楽章のポロネーズが壮大に鳴り響きます。バレーなので、ポロネーズのリズムで踊っているわけではありませんが(演出次第では可能なはず)、本当にチャイコフスキーの音楽はバレー音楽として使用するのにピッタリです。

ですので、わたしにはポロネーズといえば、ショパンよりもチャイコフスキーを最近は思い浮かべたりもします。

子供の頃はフルートでバッハのポロネーズを奏でていました。

わたしにはポロネーズはなんだかとても懐かしい音楽なのです。ワルツよりも、メヌエットよりも、タンゴなどよりも。

ほんの小さなサポートでも、とても嬉しいです。わたしにとって遠い異国からの励ましほどに嬉しいものはないのですから。