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音で料理の味も変わる?顧客の心と行動を動かすBGMの効果

ポポーポポポポ♪ ポポーポポポポ♪

この文字を読んで、スーパーマーケットで流れているメロディが頭の中に流れてきた方も多いのではないでしょうか?2000年に発売された「呼び込み君」という音声再生機から流れているもので、ほのぼのとしたBGMが印象的です。

FNNプライムオンラインの記事によると、「呼び込み君」を開発した群馬電機は、曲の販促効果までは考えていなかったそうです。一方、USENの分析では、「呼び込み君」の曲は「明るい音色」「早めのリズム」「記憶に残りやすい」といった気持ちを高揚させる要素を満たしていて、それが購買意欲を高めていると語られています。

人の感情に作用し、購買意欲にも影響をもたらす音楽。店舗空間とBGMの関係について解説します。


速いテンポで売上増加、遅いテンポでリラックス感を高める

USENでは、「コンビニエンスストアのBGMのテンポによって購買行動が変わるのか」という検証実験を行っています。

USENと昭和女子大学との共同研究の結果、以下のことがわかりました。

  • 速いテンポのBGMでは、遅いテンポのBGMよりも、購入金額および購入点数の平均値が上回る

  • 購入金額を時間(秒)で割り、1秒あたりの購入金額を算出したところ、速いテンポの方が時間あたりの購入金額が高くなった

  • 店内の印象について聞いたところ、 遅いテンポのBGMを流した方が「ゆったりとした」や「落ち着いた」といったリラックス感に繋がる印象が高くなる

共同研究を監修した池上真平 専任講師は、“速いテンポのBGMを用いることで時間当たりの売上増加や回転率向上が見込め、店内の混雑緩和やレジの待ち時間短縮といったメリットが生じると考えられます。一方で、遅いテンポのBGMにも非活動的快を高め、お店に対する印象もリラックス感を高めるという効果があることがわかりました”とコメントしています。

多種多様な商品を扱い、面積が比較的広いスーパーマーケットでは、売り場によってBGMを変えることも必要になってくるでしょう。

大型店舗では売り場によりBGMを変える工夫も(画像:tynyuk/Shutterstock.com)

BGMが無意識に作用する

『行動経済学が最強の学問である』(SBクリエイティブ)では、あるワインショップで行われたBGMに関する実験が紹介されています。

ワインショップで週ごとにフランス風とドイツ風のBGMを流し、売れるワインの傾向を調べるというものです。2週間調査を行い、売り場の影響で出ないように週によってワインを置く場所を変えました。

実験の結果、フランス風のBGMを流した日には顧客の83%がフランスワインを購入しました。一方、ドイツ風のBGMを流した日には顧客の65%がドイツワイン購入し、フランスワインの購入率は35%にまで下がりました。

この実験では、購入後に顧客にアンケート調査を行いました。「実はフランスを連想させるBGMが流れていました。それに釣られてフランスワインを購入しましたか?」といった形の質問を投げかけました。購入者のうち、BGMを自覚していたのはわずか15%でした。残りの85%の人はBGMのことを意識せず、自分で主体的に選んだと思っていたのです。

BGMには刺激(プライマー)によって人の行動を変える、「プライミング効果」があるのです。

BGMがもたらす4つの効果

『心を動かす音の心理学』(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)によると、BGMが使われ始めたのは1911年頃のアメリカで、工場の生産性改善を目的に導入されたそうです。日本では1960年代からビジネスの現場で利用され始めました。

『心を動かす音の心理学』ではBGMの具体的な効果を分類し、次のように解説しています。

マスキング効果

騒音などのある音を、別の音で隠してしまう働きのことです。例えば、飲食店でBGMがないと隣の声が気になったり、空気に違和感を覚えたりします。

イメージ誘導効果

お店の雰囲気を明るくしたり、高級感を醸し出すといったお店のイメージを決定する効果のことです。

感情誘導効果

その名の通り、感情を誘導する効果のことです。音楽によって感情が動くのは、生存に関わるような原始的な機能を司る大脳辺緑系という脳の場所が反応するからだと言われています。

行動誘導効果

音楽には無意識のうちに行動を変えてしまう効果もあります。例えば、音楽のテンポは行動の速度に、音量は声の大きさに影響を与えます。音楽の要素を変えるだけで、人の行動も変わってくるのです。

アップテンポでお酒は3杯も多く出る?

スーパーマーケットやコンビニといった小売店以外でのBGMの影響についても見ていきましょう。

『サウンドパワー』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)では、飲食店における調査研究の結果が紹介されています。それによると、スローテンポのBGMがかかっているときに比べてアップテンポのBGMがかかっているときは、1テーブルあたり平均約3杯もお酒の注文数が増えたそうです。

ただし、飲食店を訪れる顧客の多くが「BGMがそのお店のブランドやスタイルにマッチすることが重要」とも報告されています。注文数を増やしたいからといってブランドイメージに合わないアップテンポのBGMを採用してしまうのは問題でしょう。

注文といった行動だけではなく、BGMは味覚にも影響すると言われています。『なぜ、あの「音」を聞くと買いたくなるのか』(東洋経済新報社)では、ユニリーバがイギリスのマンチェスター大学と行った共同研究の結果が紹介されています。

研究の結果、自分の好みのBGMがかかっているときは、料理をより美味しく感じることがわかりました。一方で、80デシベルのホワイトノイズが流れている場合だと、風味や塩気、甘さを感じにくくなることも判明しました。

この研究によると、飛行機の機内食が味気なく感じられるのも音が影響しているそうです。飛行機のエンジンの単調な低音が、塩分や砂糖、スパイスに対する味覚を鈍らせる作用があるというのだから興味深いものです。

音は味覚にも影響を与える(画像:Sanya Laneev/Shutterstock.com)

マクドナルドが店内放送をする目的

チェーン店では、ただのBGMではなく独自の店内放送を流しているところもあります。

マクドナルドでは以前、各店舗の店長がその店で流すBGMを選択していました。それが2015年にオリジナルの店内放送を流すことになりました。

この事例を取り上げた日経の記事によると、全店で統一した店内放送を流す目的は、店舗体験の向上と目的来店の創出です。

店舗体験の向上のためにBGMに施されたのは、「時間帯によって放送する曲を変える」「楽曲のプレイリストを2週間に1度更新する」「音声広告もBGMになじませ店舗体験を阻害しないようにする」の3つの工夫です。

一方、目的来店を創出するための取り組みが豪華アーティストも出演するオリジナル音楽番組「ミュージックバリュー」の放送です。出演予定のアーティストをSNSで告知することで、ファンの来店を促しています。

2023年6月にリリースされたanoと日本マクドナルドのコラボ曲「スマイルあげない」は、anoのYouTube公式チャンネルから配信され、再生回数が1,040万回を超えています。リリース時にはマクドナルドの店内放送にanoが登場し、楽曲も放送されました。

企業のメッセージやブランドの世界観を人気アーティストが独自の視点で表現するといった取り組みにも注目が集まっています。企業とアーティストとのコラボについて、3つのポイントを解説した記事もありますのでご参照ください。

マクドナルドのように、店舗をラジオ局のようにし、音楽によってエンゲージメントを向上させようとする企業は増えてきています。

モスバーガーは、2024年4月から店舗で働くスタッフの中から次世代のアーティストを発掘する音楽レーベル「MOS RECORDS」を立ち上げました。

アーティストデビューを目指している人を応援することで、人材確保にもつなげる考えです。モスバーガーの店内放送から、オリジナルの楽曲が流れる日も来そうです。アーティストとの共創という点でも、モスバーガー独自の世界観を描いていくことにもつながるでしょう。

空気のように店舗に流れているBGM。意識して耳を傾けてみると、新たな気づきが得られるかもしれません。

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