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敗者だから伝えたい こうして会社は倒産しました ⑦

~泣いて馬謖を切る~

 自分の体験した全て実話の倒産劇。何かの参考になれば幸いです。
前回までのあらすじ。日配問屋のB社で得意先のバイヤーと結託して在庫を秘密裏に販売する不正事件が起こりました。

 不正は意外な部分から判明して、大きな騒動になっていきます。

不正販売の発覚

 不正販売が発覚したのは、得意先のまさに朝市をしていた店舗の日配担当社員からでした。彼は自分の担当である部門の売上を上げるために毎日試行錯誤するような勤勉な人物でした。

 ある日の早朝に店の前を通ると、朝市が行われています。本部のバイヤーが販売しており、みると彼の担当部門である商品が店舗より安い価格で販売されています。

 しかし彼は「本部が店舗の売上増強のために販売支援しているのかもしれない」と感じたので、それが悪事とは思わなかったのですが、気になったのは、「この自分の分野の売上は自分の部門売上に入っているのか?」ということでした。

 朝に安くで大量に売れば、自分が担当として仕入れた商品が売れない可能性があります。しかしそれが開店時間外なら顧客層が同じではないので、プラスの売上と考えることができます。

 しかし確認したところ、それらの売上は自分の担当売上に計上いません。不正販売なのだから当たり前です。それは納得できないということで、店長や本部に「朝市の売上も自分の分に加算して下さい」と交渉します。

 店長が調べると、店舗の売上にも入っていません。本部が調べれば、会社の売上にすら入っていません。しかも仕入にも入っていません。

そこで、店の敷地で開店前に勝手に販売していることが判明しました。

人材不足

 さあ本部に発覚したので、バイヤーは本社の役員から呼び出されます。
・B社から在庫を勝手に持ってきてもらっていた
・B社センター長とバイヤーの二人で売った
・売上は二人で分けた
という事実を把握します。
刑法的には、窃盗罪、建造物侵入罪等に該当するでしょう。

 バイヤーは起訴しないことを条件に諭旨解雇されました。
事実上の懲戒解雇のようなものです。

センター長の処遇

 B社にも当然連絡が来ます。そしてバイヤーが解雇されたことも知りました。B社のY社長は、センター長の解任及び減給で、平営業に降格処分していました。

 個人的には甘すぎる処分ではないかと思いましたが、センター長ほどの知恵者がいないB社の現状として、重要な人物であるということも理解はできます。

 その時私の携帯電話が鳴り、得意先の専務から本部への呼び出しとなりました。いそいそと、得意先本部の応接室に入ると、専務と二人きりになり、粛々とお話をされました。

そのときの話の概要です。
「バイヤーはわが社にとっても破格に能力があり、彼のおかげで食品部門は著しい成長ができたことは事実で非常に感謝していた。しかし社内で不正なことを行った事実は容認できるものではなく、企業統治の意味からも解雇処分する以外に選択肢は無かった。
我々は、泣いて馬謖を切った。君の会社は降格で済ませると聞いた。
それでは我々として、今後の取引継続に支障があると考えている」

泣いて馬謖を切る

 「泣いて馬謖を切る」とは、三国志に出てくる話です。
知らない人向けに簡単に言うと、

 諸葛孔明が最も認めていた「馬謖(ばしょく)」という孔明の有能な愛弟子が、戦いにおいて命令を無視したために、多くの部下を亡くし、大敗につながってしまった。そのため、孔明は国の法を守ることを重視し、馬謖を死罪にしたのです。

 つまり、得意先の専務が言うことを平たく言うと、自分も能力がある社員を不正でクビにしたのだから、お前のところもクビにすべきだろ。
というわけです。

 社長と私は話し合い、元センター長にも話をした上で、彼も退職することになりました。私は解雇せざるをえない意見でした。Y社長は、最後まで何とか残れる手段を探していました。

 ルール違反者には厳しく対処するという姿勢は非常に大切です。しかし彼は会社に大きな利益をもらたしていた人物であり、彼を失うことは実質再建中のB社にとって、非常に大きい損失であったことも間違いありません。

 また、この事件は当社の在庫流出による被害の方が大きく、被害が大きい方が加害者に寛容な接し方をしているという変な状況でした。

倒産社長が伝えたい経営の教訓


社長には決断が最も大事

 ガバナンス重視で解雇するにしても、能力重視で残留させるにしても、決断が大事で、決断したら振り返らないことも大切です。
 この事件で有能な従業員が欠けた結果は、競合他社が勢力を増すことにつながりました。しかし解雇しなければ、巨額な取引を失うことになるので、資金に困る会社としては、選択肢などありませんでした。

 得意先は多くの人材がいたのですが、B社は人材が豊富ではありませんでした。泣いて馬謖を切った三国志の蜀は、最終的に負けて無くなるのです。


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