SPORTS SENSINGスポーツ科学研究室

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マガジン

  • Sports Biomechanics Geek

    体系的ではなく,トピックスを選択し,少し数学的・物理的に突っ込んだ話題を取り上げる.個人の感想です.

  • 動かして学ぶバイオメカニクス

    読者が全身の逆動力学解析(力,トルク等の解析)のプログラムをご自身で実行し確認できるようになることを目標とする.

  • IMUによるモーションセンシング

    IMU(慣性センサ)は,一般的には加速度センサと角速度を計測するジャイロセンサの組み合わせで,さらに地磁気センサを含む場合がある.これらのセンサによって運動を計測し,身体運動などを計測する場合などにモーションセンサなどと呼ばれることがある.ここでは,その使い方,数理,特性などについて述べていく.

  • 筋肉と筋電計測

    筋電計測の実際について述べます.

  • フォースプレートによる床反力計測

    フォースプレートの計測原理,フォースプレートで計測される物理量の意味など

最近の記事

Sports Biomechanics Geek #7 〜多関節運動の代表値#1 曲率の力学〜

多関節運動のような多自由度で複雑な運動などを,運動の本質を代表する一つの代表値で記述することができれば便利である.しばらくの間,身体運動やバイオメカニクスの解析などで有効な代表値の物理量について述べていく. たとえばボールを質点とみなしたとき,その運動軌道は身体の多関節運動とボール間の力学的な相互作用の結果,末端のボールに力が作用し運動の軌道が変化し続ける.このとき身体側の運動に注目が行きがちだが,すべての身体の相互作用の結果がボールの運動の変化に集約されていると考えてよく

    • Sports Biomechanics Geek #6 〜下肢や体幹の回旋運動は自然な運動?〜

      物理法則は厳密な拘束を与え,それによって原理上,運動の軌道も一位に規定してしまう.がちがちに硬い拘束だ.これに対して,「運動パターン形成」は緩い拘束で,冗長性を許し厳密さに欠ける.これまで述べてきた運動の「自然さ」は,後者の緩い基準による拘束だ.しかし,それ故,このような緩い拘束によって,環境に適応することができるとも言える.身体運動における自然さは一つの理由で定まらないが,多くの場合,力学的な伝達や効率が誘発しているだろう.「自然さ」などと述べると,科学とは相反する用語にも

      • Sports Biomechanics Geek #5 〜スイング運動の回旋運動における自然さ〜

        投球動作(ただしファストボール)のリリース前後の前腕の回内運動や,ゴルフスイングのインパクト前後のシャフト軸まわりの回転運動のように,スポーツのスイング運動のリリースやインパクト近くで回旋運動が目立つ.バイオメカニクスの研究者の中には,このような回旋運動は,わざわざ肘関節に回内のトルクを与えずとも発生する「自然な運動」では?と考える人もいる.確かに,多くのスイング動作ではそのような回旋運動がともなうので,そのように考えるのは自然な発想だ.ではそれは本当に力学的に自然に発生する

        • Sports Biomechanics Geek #4 〜トレーニングと競技の力学的近さ〜

          トレーニングにおいて挙上重量が増加しても,競技力が向上しなくては意味がないだろう.「強度」が増加しても競技力が向上するかはわからない.トレーニングでは特定の運動能力向上を目的とすることが多く,競技の力学的特徴が実際の競技に近くなるように適応することも重要だ.そこで本章では,「強度(力)」に「速度」を加えて,競技とトレーニングにおける運動の力学的特徴を表現することで,運動の「近さ」を考える.これにより,トレーニングの強度と量を記録していくとともに,その力学的特徴も調べることでト

        Sports Biomechanics Geek #7 〜多関節運動の代表値#1 曲率の力学〜

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        • Sports Biomechanics Geek
          7本
        • 動かして学ぶバイオメカニクス
          31本
        • IMUによるモーションセンシング
          6本
        • 筋肉と筋電計測
          2本
        • フォースプレートによる床反力計測
          7本
        • モーションキャプチャーによる運動計測
          4本

        記事

          Sports Biomechanics Geek #3 〜トレーニングの力学的評価〜

          トレーニングの方法やバイオメカニクスに基づいたトレーニング論の書籍などを見ていると,物理的に曖昧であったり正確でないものが目立つ.このため,本稿はトレーニンングの力学的側面にフォーカスし,評価方法などの物理的意味を問い,整理をおこなった.ただし,新しいトレーニング論や方法論について言及するものでもなく,目新しさはない.従来の方法を否定するわけでもない.しかし,もしこのような整理をブラッシュアップし,計測環境やソフトウエアなどが整備されれれば,競技の練習も含めて,運動の強度・量

          Sports Biomechanics Geek #3 〜トレーニングの力学的評価〜

          動かして学ぶバイオメカニクス #31 〜ヤコビ行列#5

          ここでは静力学から動力学への拡張を行い,モーションキャプチャやIMUを用いた身体運動の解析に適した多体系の運動方程式を導出する.途中の導出を読み飛ばして,最後の結論だけ確認いただいても構わない. この結論は,あたりまえだが第14章で導いた合成の運動方程式と一致することになるが,ここで述べるヤコビ行列で整理することで,より直感的かつシステマティックに合成の運動方程式を導出することを可能とする.高自由度の多関節系の運動方程式を単に合成することで導出するのはつらいが,本章での述べ

          動かして学ぶバイオメカニクス #31 〜ヤコビ行列#5

          動かして学ぶバイオメカニクス #30 〜ヤコビ行列#4

          3次元空間で身体運動の解析を行う場合,ヤコビ行列を関節角度で記述する方法はロボットと異なり都合が良くない.そこでここでは,外積を利用し身体運動解析に適したヤコビ行列の表現方法に改める.この導出まで長い道のりだが,最終的に得られる結果はいたって単純でむしろわかりやすい.ここで述べる形式を利用すれば,直感的に関節に作用するトルクベクトルがイメージできるようになるだろう.丁寧に導出を行うが,もしすべてを理解できなくても,ぜひ外積の物理的,幾何学的意味だけは理解し,最後に述べる結論を

          動かして学ぶバイオメカニクス #30 〜ヤコビ行列#4

          動かして学ぶバイオメカニクス #29 〜ヤコビ行列#3

          ヤコビ行列はたとえば手先の位置と関節角度の関係を記述する多変数ベクトル関数の微分から数学的に導かれることをこれまでに示してきた.これは手先と関節間の速度関係(微分運動学)を記述するが,それだけでなく,手先に作用する力と関節に作用するトルク間の釣り合い示すの静力学関係も記述する.この手先空間と関節空間の関係を運動学と力学の両方で記述できるこのヤコビ行列はきわめて有用で,全身運動を直感的に理解する上でも重要なツールとなる.このことを理解するために,もうしばらく複数の章を記述するこ

          動かして学ぶバイオメカニクス #29 〜ヤコビ行列#3

          動かして学ぶバイオメカニクス #28 〜ヤコビ行列#2

          前章まではヤコビ行列の数学的背景を中心に述べた.身体運動におけるヤコビ行列は,手先速度と関節速度間の関係を記述することで,速度レベルでの運動の(座標)変換を担う.これは冗長自由度を論じるベルンシュタイン問題にも関係する.一方,ヤコビ行列は速度のみならず力の伝達や変換の役割も担うことができ,実はベルンシュタイン問題は議論を運動学から力学に転換すれば解消する.これらの議論は,次章以降で述べるの手先力と関節に作用するトルク間の静力学関係へ発展し,議論されるが,本章では数理的な議論の

          動かして学ぶバイオメカニクス #28 〜ヤコビ行列#2

          動かして学ぶバイオメカニクス #27 〜ヤコビ行列#1

          おそらくロボティクスの講義ではヤコビ行列について学ぶ機会があるだろう.ロボットにおいて,これは足先や手先と各関節間の運動学的・静力学的関係を記述する関数行列を意味する.一方,バイオメカニクスを専攻してもヤコビ行列を学ぶことはないかもしれない.しかし,身体運動の意味を考える上で実は必須の概念で,ヤコビ行列は身体運動(ロボットでも)において,全身の姿勢の意味を抽象的に議論する上では欠かせない数理的な道具だ.身体運動においてそこには多くの意味があるが,その中でも最も重要な意味をあえ

          動かして学ぶバイオメカニクス #27 〜ヤコビ行列#1

          IMUによるモーションセンシング #6 〜バイアス誤差のキャリブレーションモデル〜

          キャリブレーションモデルについて補足する.ここので議論は,ようするに加速度センサに限らず,ジャイロセンサでも地磁気センサでも,バイアス誤差は発生し,バイアスは感度の影響を受けるというお話で,キャリブレーションモデルも適切に選択しないと,正確に補正出来ないということを示す.単にセンサを用いるだけなら,今回のお話は気にならないかもしれないが,適切にキャリブレーションを行うことの大切さを理解していただけると嬉しい. 4章の後にこの話題を取り上げるべきであった.前回(5章)の話題か

          IMUによるモーションセンシング #6 〜バイアス誤差のキャリブレーションモデル〜

          筋肉と筋電計測#2 〜計測と解析〜

          筋電計測を行った後の解析は,さほど難しくない,筋電信号は正負のギザギザな波形だが,その絶対値を計算して,さらにその包絡線のような滑らかな曲線を得ることで,平均化した振幅を計算することになる.なお,筋電信号に関する文献は古いものが多く,時定数,整流化などアナログ回路で処理することが前提の文章が多い.しかし,いまどきの筋電センサはデジタルが基本で,これでは時代にそぐわない.ここでは,少し書き換えるだけだが,簡単なPythonコードを含めて具体的な解析方法を示していく. 表面筋電

          筋肉と筋電計測#2 〜計測と解析〜

          IMUによるモーションセンシング #5 〜ジャイロセンサの基礎〜

          ジャイロセンサは物体の角速度を計測するセンサである.しかし加速度センサと異なり,3次元の角速度の計算原理はかなり複雑化することから,ジャイロセンサの計測原理も複雑だ.意外と角速度の意味を正しく理解できている人は少ないかもしれない.3次元空間において角速度は角度の時間微分とは考えないほうがよい.確かにそれは回転運動の速度,つまり角度変化の勾配を反映するが,それはむしろ座標軸の運動の時間微分であって,2次元で成り立つ角度の時間微分の考え方が3次元空間ではなりたたない.3次元空間で

          IMUによるモーションセンシング #5 〜ジャイロセンサの基礎〜

          IMUによるモーションセンシング #4 〜加速度信号のキャリブレーション〜

          MEMS型IMUは出荷された状態では,キャリブレーションは行われていないに等しい.そのまま使用すると恐ろしく誤差があるということに気がついている人はあまりいないかもしれない.こここでは,みなさんも自分でできる加速度センサのキャリブレーション方法について述べていく.加速度センサのキャリブレーションに関する方法は数多く発表されているが,ここでは比較的簡便で正確な方法の一つを示す. 今後,このキャリブレーション方法を実装したセンサをリリースする予定で,ご要望があれば,旧タイプのモ

          IMUによるモーションセンシング #4 〜加速度信号のキャリブレーション〜

          IMUによるモーションセンシング #3 〜加速度信号と座標系〜

          前章では加速度とは速度変化を示すグラフ上ではその速度曲線の接線の傾きであることと,それを計測する加速度センサはどちらかというと力センサとしての信号を出力するということを述べた.本章では,微分や加速度の数学的意味について復習をした上で,座標系と加速度の関係について述べる. IMUを含むモーションセンサはウェアラブルセンサとも呼ばれ,計測は簡単だが,一方で運動学的な理解が不足すると解析で苦労する.単に加速度の大きさを知りたいという場合は簡単だが,剛体の加速度を対象とすると複雑と

          IMUによるモーションセンシング #3 〜加速度信号と座標系〜

          IMUによるモーションセンシング #2 〜加速度センサは力センサである〜

          IMUを構成する加速度センサとジャイロセンサ.このうち加速度センサはバイオメカニクスではそれ以上の意味を持つ.ここでは,身体運動の計測を意識し,その特性について述べていく. ここで,もっとも注意すべきは,加速度センサは加速度を計測するセンサとして捉えがちだが,その本質は加速度に作用する力を計測するセンサであるということだ.加速度線センサは実は加速度を計測するセンサではないと述べるとギョッとするだろうが,さほど間違いではない.理解せずに加速度センサを利用すると,かなり痛い目に

          IMUによるモーションセンシング #2 〜加速度センサは力センサである〜