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映画『幕あい』

2019年/製作国:フランス/上映時間:16分
原題(フランス語) Entracte 英題 Intermission


本作の監督インタビュー(少し作品映像あり)

※予告編が見当たらなかったため、上記の動画としました

ストーリー

 映画館へとやってきた主人公のヤシーヌと友人2人は、新作映画『ワイルド・スピード ICE BREAK』を鑑賞したいのに手持ちのお金が足りません。
 そこでヤシーヌは悪知恵を働かせ、リバイバル上映されていたモノクロのクラシック映画『自転車泥棒』のチケットを安く購入することにより映画館へと入場し、『自転車泥棒』上映途中に抜け出して劇場を移動することにより『ワイルド・スピード ICE BREAK』を鑑賞してしまおうと画策します。
 しかし、当初全く興味のなかった『自転車泥棒』がヤシーヌの心を捉え・・・


レビュー(ネタバレあり)
 
まだ狭い世界に生きている、よくある思春期の最後に訪れた、その後の人生を大きく変えることとなる「芸術(映画)」との劇的な出会い。
 その過程をわずか「16分」にて切り取って魅せる短編映画の傑作、『幕あい』。
 新たな世界との『遭遇』、これまでの自分からの「卒業」、感性の響き合う人物との幸福な「出会い」、それまで共に過ごして来た友人達との決定的な「決別」、そして新たな人生への「旅立ち」を、ユーモアを交えつつも、切なく、美しく、そしてちょっぴり甘酸っぱく描いた本作は、とても素敵です。
 多くの映画好きが経験したであろう思春期前後の「人生のターニングポイント」となる作品との出会いを、本作ほど瑞々しく捉えた映画を、私は他に知りません。
 
 労働者階級の(それもかなり低所得の)家庭に育ったであろう主人公のヤシーヌが、たった1本の映画鑑賞を境に、その父親からの人生への干渉(支配)を退け、針路を自分で選択することの出来る人間へと成長してゆく予感を抱かせる内容に胸が熱くなります。
 また詩的、且つ美しいラストショットは『ワイルド・スピード ICE BREAK』のひとつ前のエピソード『ワイルド・スピード SKY MISSION』へのオマージュに違いありません(娯楽作である『ワイルドスピード』シリーズを見下していないところもまた素晴らしい)。
 そして見逃してはいけないのは、ヤシーヌの歩いてゆく先は光に照らされているということです(しかもヤシーヌは「左」へ、友人たちは「右」へ向かってゆく)。
 
 ちなみに私も全く同じ人数による、帰りの分かれ道まで同じような状態の『映画』体験をしたことがあるため、主人公が自分の分身であるかのように感じ、思い切り感情移入しながら鑑賞してしまいました。
 大好きで、忘れられない作品です。

その他

 本作鑑賞時、丁度ピエール・ブルデューの『ディスタンクシオン』を読んでいたのですけれども、自分の好みや意思により選択してきたと思い込んでいた趣味や食べ物、服装等の様々な人生の選択が、実は育った環境や習慣に大きく左右されていたことを知ることとなり、とても驚きました。
 しかしながらそういった「環境」や「習慣」の持つ強力な鎖を一瞬で断ち切り、その後の人生に自由と推進力を与えてくれる力を持つのは、やはり芸術であったり、素敵な人との出会いであったりすると、本作を鑑賞し強く確信しました。

 

アートワーク(ポスター)



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