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【対話】ニューエイジ運動の源流である「神智学」がコンピュータ全盛時代にこそリバイバルするべき理由

以下は、神智学にハマっている弟と、理論物理オタクで現役Androidエンジニアの兄とのディスカッションを通して生まれた議論を仮想的に再構築した議事録です。

神智学は時代遅れか?

弟:神智学に最近はまっているんだ。

兄:神智学?…

弟:19世紀中葉にブラヴァツキー夫人が創始して以来ニューエイジ運動の源流として各界に多大な影響力を誇った「神智学」のことだよ。
たくさんの新興宗教を通じてその教義の断片は伝わっているものの、現代社会においてはその本質的な体系じたいは忘れ去られていると思う。

兄:神智学か…。
実際、「神智学」と聞くと、怪しいイメージしか浮かばないね。シュタイナーの「人智学」は多少聞いたことがあるけど、情操教育重視の「シュタイナー教育」よりかは最近は藤井四段を生んだ「モンテッソーリ教育」の方が有名だしね。

弟:まあ、ルドルフ・シュタイナーはクリシュナムルティの救世主騒動を機に神智学協会を見放して、ドイツ観念論哲学に基づいた独自の体系を築く道を選んだわけだけど、
思想の骨組み自体はかなり神智学の影響が色濃いと思うよ。
それはさておき、神保町にある書泉グランデのオカルトコーナーにおいてすらも、神智学の関連本は書棚の10%に押し込められて肩身の狭い思いをしているのが現状だね。

兄:ちなみになぜ今、神智学?

弟:以前、池袋のジュンク堂書店のオカルトコーナーで出会ったグルジェフという神秘思想家の話をしたのを覚えてる?

兄:ああ、グルジェフね。人間を「三脳生物」と呼んだ異質な思想家…。彼の「人間は地球の細胞にすぎない」という思想は、アニメ「はたらく細胞」を見た後で聞くとやけに腑に落ちたね。

神智学のロゴスの流出vs. OSI参照モデル

弟:そのグルジェフの隣に、アリス・ベイリーという作家が書いた本がずらりと並んでいたんだけど、彼女が説いている階層的世界観が衝撃的だったんだよ。

兄:ほう。それはどんな?

弟:以下の図のようなものだよ。
アリス・ベイリーは神智学の系譜をひく人物だったから、ブラヴァツキ―やその弟子リードビーターが説いた世界像とおおむね共通してるね。

神智学における「ロゴス」の流出の全貌

弟:最下部の物質界から、感情だけで構成されるアストラル界、想念で構成されるメンタル界があり、それを超えると姿形なき意識体としての境地に参入していくという段階論が提示されているんだけど、

兄:ちょっと待って。
これはなんだか見覚えがあるな…。(検索をかける)
ああ、これだ。OSI参照モデル。

OSI参照モデルとTCP/IPプロトコル群

弟:なにこれ? めっちゃ似てるね。

兄:僕も詳しく覚えていないんだが、下から物理層→データリンク層→…と上がっていくにつれて、徐々に情報が高次化していくようなイメージだったと思う。

弟:神智学では、下部の物質界・アストラル界・メンタル界を経て、高位メンタル界を経て「阿羅漢」になり、そこからブッディ界に入って「菩薩」となり、神の世界であるニルヴァーナに参入していくわけだけど、
OSI参照モデルでも、下部に物理層・データリンク層・ネットワーク層が来て、4段階目のトランスポート層を経て上部の5~7段階へと移行する感じがなんとなく似ているね。

兄:めずらしい一致もあるものだね。

スウェーデンボルグvs. サイバーパンク

弟:いや、これは偶然ではないかもしれない。
神智学よりもっと前、17世紀を生きた科学者にして神秘思想家スウェーデンボルグは、霊の存在実感を「物質界と同一空間を占める別次元を走る電気信号」にたとえて表現したんだ。

スウェーデンボルグの漫画「霊界」より

兄:なんだかサイバーパンクを思わせるような表現だな。
そういえば、最近「サイバーパンク2077」っていうゲームにはまっているんだが、それにも「スウェーデンボルグ」っていうキャラクターが出てきた気がする。
でも彼については、「霊界体験記を説いた怪しいスウェーデン人」というイメージしか持っていないなあ。

弟:僕も最近になって知ったんだけど、彼は一流の科学者として、カントやラプラスに先んじて「星雲説」を提案し、生理学者として脳科学における「ニューロン」にあたる概念すらも考案していたそうだよ。

兄:今から約300年も前にそれを思いついていたのは、さすがにすごいな。
まあ、でも、意識をある種の電気信号に還元して理解する発想は結局サイバーパンクに流れ込んでいるから、
日本では「攻殻機動隊」、ウィリアム・ギブスンが「ニュー・ロマンサー」で示したような世界観が今後の支配的パラダイムになるんじゃないかな?

弟:サイバーパンクは、現代世界における最強の実業家であるイーロン・マスクの思想のバックボーンでもあるよね。
イーロンはこの宇宙が高次元宇宙存在によって行われているシミュレーションであると仮定する「シミュレーション仮説」を支持し、日本では茂木健一郎氏がもっぱらそれを提唱しているものの、あくまで物理学の範疇に留まり、人間存在の根本的疑問や宗教的衝動については不可知論的スタンスでまったくタッチできていない点を歯がゆく感じている。

兄:ああ、茂木健一郎氏の「クオリア」をはじめとした議論は、イギリスのノーベル賞物理学者ロジャー・ペンローズ氏の強い影響を受けているね。
ペンローズの「皇帝の新しい心」で展開される「量子脳理論」では、脳の量子化学的性質と意識エネルギーとのかかわりについての考察が展開されている。

弟:サイバーパンクも、ある種の霊的な世界観を描いてはいるんだけど、やや物理的身体を軽視しているのと、ディストピア的な世界像が前提な部分にゆがみを感じるんだよね。

兄:まあ、サイバーパンクに独特の趣を添えるのは、その「身体論」ではあるわけだけどね。メルロ・ポンティら哲学者が指摘した「身体論」の問題意識は、近年のAI研究でもにわかに存在感を増してきているものではあるね。

チャクラvs.マザーボード

弟:身体論といえば、最近はチャクラの開発にハマっているんだ。

兄:チャクラって、言葉は聞いたことがあるけど、具体的にはあまりよく知らないなあ。

弟:僕も神智学の「エーテル体」についての記述を読む中で最近知ったんだけど、人間の身体には以下の7つのチャクラがあって、それぞれが大宇宙から固有のエネルギーを受信しているらしい。
一つ目のチャクラは会陰部に位置して、生命力の源として機能し、
二つ目のチャクラは丹田あたりで、生殖エネルギーと関連、
三つ目のチャクラは膵臓あたりでで、達成能力と関係、
四つ目のチャクラは心臓あたりで、人間関係とかに関係、
五つ目のチャクラは咽頭に位置して、視聴覚系のコミュニケーションをつかさどり、
六つ目のチャクラが松果体あたりで第三の目みたいな感じ、
最後に頭頂部に第七チャクラがあって、ここが宇宙からのエネルギーを受信する場所らしい。

人体の「チャクラ」の構成

兄:ちょっと待って。
これ、マザーボードに似てないか?

弟:マザーボードって、パソコンの基盤みたいなやつだっけ?

マザーボードの概観

兄:そうそう。
で、そこからCPUとか、HDDとか、メモリーとか、光学ドライブ、マウスやキーボードとかにつなぐためのポートが出ている。

マザーボードの構成

弟:じゃあ、このポートがチャクラに該当するということ?

兄:オーディオジャックなんかは視聴覚をつかさどる咽頭チャクラ、液晶ディスプレイは視覚をつかさどる第三の目とかとも関係するのか?

弟:生命力の根源である第一チャクラは電源ポートとも考えられるな。

兄:単なるこじつけとも言えるが。

弟:まあ、このあたりについては、まだ僕もチャクラの勉強を始めたばかりだから、これからもっと対応関係が見つかるかもしれない。

サイケデリクス×コンピュータ

兄:それにしても、偶然とはいえ、これだけの一致が見つかるのは面白いな。「情報科学」というパラダイムは、20世紀の物理科学とは明らかに異質なパラダイムだから、その言語が神秘の世界にも通じる可能性は大いにあり得る。

弟:つまり、「語りえぬものについては沈黙せねばならない」とした前期ウィトゲンシュタインの沈黙は、コンピュータ科学の語彙でもって破られるということ?

兄:むしろ、コンピュータ全盛時代にこそ、神智学という教義体系の中で表現された概念を適切に表現する語彙がそろったようにも感じるね。
この新しいパラダイムにおいて、20世紀の世界観において「世界を説明する神話」の役割を担った物理化学とは、「宇宙のレンダリングエンジンの仕組みの解明に特化した研究」にすぎないのかもしれない。その背後で動く多種多様な「コンピュータ・プログラム」については一切解明しうるものではないことは当然だな。

弟:そう考えると、ハーバード大教授ティモシー・リアリーをはじめとするサイケデリクス・ルネサンスの旗手たちがその晩年に「コンピュータ」に希望を託し、ヒッピー上がりのスティーブ・ジョブズがAppleコンピュータを立ち上げたのは、偶然ではなさそうだ。
彼らはサイケデリクス的世界観を表現しうるに足る語彙を整備するための必然的な準備を行っていたのではないか、とも考えられるね。

(続く)




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