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7人の義父が、「義父と加害」の問題に本気で向き合った話。

2019年9月、さいたま市の教職員用集合住宅で、小学校4年生の男の子が遺体で見つかるという痛ましい事件がありました。犯人が男の子の"義父"であることが判明すると、日本中が驚きの声に包まれました。

また、2018年3月には、東京都目黒区で、当時5歳だった女の子が壮絶な虐待の果てに死亡するという事件も起こりました。事件のあまりの残虐さに、目を覆いたくなった方も多いかと思います。この事件の犯人もまた、女の子の"義理の父親"でした。

度重なる義父の虐待事件を受け、今回、実際に血のつながらない子どもを育てている7人の義父が集まり、「義父と加害」という非常に語りづらい問題について、真剣に話し合いました。
本記事は、義父たちの当日の対話の内容を伝えるためのレポート記事です。
義父たちは何を想い、何を語ったのか。一人でも多くの人に、当事者の声が届いて欲しいと願っています。

被虐待経験者の方に向けた注意書き

記事を読んで頂く前に、一点注意事項がございます。
過去に継親から虐待を受けたことのある、被虐待経験者の方に関しては、「義父と加害」というテーマの性質上、記事を読んだことでトラウマが蘇ったり、体調を崩してしまう可能性もあるかもしれません。今回の参加者の中には虐待経験者はおらず、対話の中でも虐待については直接的には語られていませんが、もしどうしても心配な方は、無理に記事を読まれない方がいいかもしれません。

「本当の親じゃないくせに!」問題

▼参加者のプロフィール
・押田(進行役):「ステップパパの研究会(血のつながらない子供を育てる父親の当事者コミュニティ)」の主催者。4年前にシングルマザーの女性と結婚。長男10歳(養子)、次男2歳(実子)。
・Aさん:33歳。3年前にシングルマザーの女性と結婚。長女6歳(養子)、長男1歳(実子)。
・Bさん:29歳。1年前にシングルマザーの女性と結婚。長男8歳(養子)、妻が実子を妊娠中。
・Cさん:45歳。10年前にシングルマザーの女性と結婚。長女18歳(養子)。結婚当時、長女は8歳。
・Dさん:34歳。シングルマザーの女性と今年結婚。長男9歳(養子)。
・Fさん:42歳。5年前にシングルマザーの女性と結婚。長男8歳(養子)、長女2歳(実子)。
・Gさん:30歳。現在シングルマザーの女性と交際中で、その息子と一緒に3人で同居中。

※メンバーのプロフィールや対話の内容は、個人の特定を防ぐため、一部を変更・編集しています。

押田:さいたま市の事件では、学校で使う道具を失くしたことを義父が注意したら、息子から「本当の親じゃないのに!」と反発され、腹を立てたことが犯行の動機とされています。みなさんはこの事件を知って、何を感じましたか?

Bさん:犯人と私の年齢、また被害者の小学生と私の息子の年齢が非常に近かったので、まったく見たい気持ちになれず、正直このニュースは意図的に見ないようにしていました…。

Dさん:わかります。うちも年齢が近いので…。
でも、もしも自分の子どもから「本当の親じゃないのに!」と言われたら、かなりショックだと思いますね。怒りや悲しみの感情が湧き上がってしまうことは、わかります。

Aさん:たぶん私も、寝込んでしまって、翌日は会社に行けないかもしれません。笑

押田:ワイドショーなどでは、「本当の父親じゃない、と言われることぐらい、覚悟してから再婚しろ」という意見が多かったですね。

Cさん:私は娘から、「本当の父親じゃないくせに!」と実際に言われたことがあります。やっぱりね、ものすごくショックですよ。血のつながりがない分、「いい父親にならないと」と、何年も何年も努力してきたので。思春期になれば、いつかその言葉を言われるだろうと覚悟はしていましたが、実際に言われると、悲しかったし、やはりショックが大きかったです。ただ、それで子どもの首を締めるというのは、私には理解できませんが…。

Fさん:私も心の準備はできているつもりですが、いざ言われたとなると、感情がブレてしまうかもしれません。

Bさん:でも、「本当の父親じゃない」と言われて動揺したということは、犯人には、本当の父親になりたいという気持ちが、少しはあったんじゃないかなぁ…。わからないけど…。

Dさん:たしかに、もしかしたらそういう気持ちもあったのかもしれませんね。
ただ、私が思うのは、そういうケースの場合、父親以上に、その言葉を言ってしまった子ども自身が、もっと傷ついているんじゃないかということです。
きっと、本人も一番言いたくなかった言葉だろうなぁと。
なので、どうして子どもにその言葉を言わせてしまったのか、そこまで追い込んでしまった理由はなんなのか……それが一番ショックかもしれません。ごめんなぁって感じになりますね。

押田:そういえば事件のあと、モデルのダレノガレ明美さんの発言が話題になりましたね。実は彼女はステップチャイルド(継子)で、3歳の頃から義父に育てられているらしいんですね。
彼女自身、高校生の時に義父と大喧嘩をして、「本当の父親じゃないくせに!」と言ってしまったことがあるらしいんです。
ただ、「勢いで言ってしまっただけで、本当はそんなこと思っていなかったんだ」と後悔と共に振り返っています。

Aさん:継子の立場からこういう勇気のある発言をしてくれる人がいるというのは、本当に励まされますね。
本心からそう思っている子もいるかもしれないけど、ダレノガレさんのように、きっと本心からの発言じゃない子もいると思うんですよね。いずれにせよ、やっぱりそこは大人が余裕を持って受け止めてあげないといけない。親子の関係性に自信があれば、どんな言葉も受け止めてあげられると思うんです。さいたまの事件の義父には、それができなかったのかもしれない。

自らの加害経験を語る

押田:義父の虐待事件がニュースで報じられるたび、ネット上では「また義父が犯人だ」「やっぱり血のつながりがないからねー」といった心ない声が毎回あがります。このような「義父=虐待親」といったステレオタイプなイメージは社会の偏見であると思うのですが、一方でこれらの事件には共通する課題があるような気もしています。
非常に語りづらいとは思うのですが、みなさんの中で、似たような経験と言いますか、一連の事件で語られている状況と近い状況を経験したことがある方はいらっしゃいますでしょうか?

Dさん:結婚して間もない頃、子どもに対していつもイライラしてしまったり、妻と喧嘩をすることが多かったような気がしますね…。

押田:それはなぜだと思いますか?

Dさん:あの頃は、理想の父親を追い求め過ぎていたのかもしれませんね。理想を求めれば求めるほど、現実との間にギャップが生まれてしまい、自分で自分の首を締めて勝手に苦しんでいました…。

Cさん:血がつながっていないからこそ、「いい親になろう」「いい親にならなければいけない」と思ってしまうんですよね。その気持ちがプレッシャーになり、ストレスになってしまう。

Dさん:はい。あとは、疎外感のようなものもあったと思います。元々向こうはシングル家庭だったため、妻と子どもの間の結びつきが非常に強く、後から参加した自分は、家庭の中で孤立するような場面がよくありました。

Aさん:生活習慣含めて、家庭内のあらゆることに、すでにルールができあがっているんですよね。母子の間ではあらかじめルールや文化が共有されているため、あとから入ってきた義父は、家庭内のあらゆる多数決で常に負け続ける。強い疎外感を感じて、家族から必要とされていないと思う瞬間が私にもありました。

Bさん:よくわかります。私も、「ステップパパの研究会(義父の当事者コミュニティ)」に出会うまでは、悩みを相談できる仲間が一人もいなかったので、気持ちのコントロールをできないことが多かった気がします。義父が抱える悩みというのは、当事者でないとなかなか理解してもらえないような繊細な内容が多く、相談できる相手がほとんどいないんですよね…。

Cさん:言いづらいのですが、私は実際に子供を引っ叩いてしまった経験もあります。あとで激しく後悔しましたが…。思い出すだけで、本当に嫌な思い出です。
父親になろうと焦るあまり、子供にあれこれ言ってしまったのですが、子供の側からすると、まだ本当の父親とは思っていないため、父親面した偉そうな発言に見えてしまったんですね。思春期以降は、それで何度も反発されました。

押田:勇気のある告白、本当にありがとうございます。私自身も、張り詰めていた糸が切れてしまい、言うことを聞かない息子に対して声を荒げて怒鳴り、頭を引っ叩いてしまった経験があります。やってしまってすぐに、なんてひどいことをしてしまったんだと、心の底から後悔しました。もうそれ以来子供に手をあげたことはありません。
今思えば、あの頃はまだ息子から「お父さん」とも呼んでもらえず、「はやく立派な父親にならないといけない」という焦りと、「父親として認めてもらえていない」という現実のギャップに、いつも心を引き裂かれていたような気がします。そのストレスを子供に向けてしまうなんて、本当に幼稚だったと思いますが…。

Fさん:溜め込んだものをうまく発散できず、溜め込み続けてしまったんでしょうね。ステップファミリー(子連れ再婚家庭)は構造的にストレスを抱えやすいので、義父たちもどこかでガスを抜けるようにしておかないと、何かのタイミングで爆発してしまうのかもしれません。特に男性は、人に悩みを相談できないタイプの人が本当に多いですよね。

Cさん:もし誰かに相談しても、「そんなの全部わかってて結婚したんでしょ?」と言われるだけなんじゃないかと、不安になるんですよね。結婚前は、どんな困難も乗り越えられると自信に溢れていたんですが、実際にやってみると、それまで何の経験のない人間が、いきなり人の子の親になるというのは本当に難しいと痛感しました。

Gさん:事件の犯人を擁護するわけではありませんが、さいたまの事件も、目黒の事件も、義父が無職だったという点が共通していますね。私も経験がありますが、失業というのは本当に人間から心の余裕を奪ってしまいます。失業がもたらす心理的なストレスや劣等感が、それまでの日常の中で蓄積していたという背景もあったのかもしれませんね。

Aさん:気持ちに余裕があるということは、何より重要ですよね。そう考えると、誰にでも加害に手を染めてしまう可能性はあるんだと思います。私たち自身も、他人事ではありませんね。

ステップファミリーに必要な支援とは?

押田:これまでの話を振り返ると、ステップファミリー(子連れ再婚家庭)は、一般的な家族に比べてストレスや困難を抱えやすい構造を持っていそうだということがわかってきました。主な課題点としては、「理想の父親・家族像と現実の間のギャップ(それに対する焦り)」、「(再婚による)異なる文化やルールの衝突」などの問題が挙げられました。

Cさん:「相談相手の不在と、孤立化」という問題もありそうですね。

押田:例として見てきた一連の虐待事件は、失業による心理的なストレスや、加害者自身の過去の被虐待経験など、複数の要因が折り重なって引き起こされたものと考えられますが、その中の一つの要因として、ステップファミリーという家族形態の複雑さと、そこから発生する悩みやストレスも挙げられるような気がします。
虐待事件に関わらず、悩みを抱えたステップファミリー当事者に向けた、なんらかの社会的な支援があってもいい気がしているのですが、みなさんはそのあたり、どう思われますでしょうか?

Bさん:必要だと思います。私は、周囲に同じ立場の人がいなかったため、インターネットや書籍で情報収集をしていたのですが、義父の悩みに関する情報はほとんど見つかりませんでした。シングルマザーや、発達障害、LGBTなど、マイノリティの人たちが抱える悩みに関する情報は、昔に比べて手に入りやすくなってきていますが、義父や継親の悩みに関する情報はまだまったくと言っていいほどありません。
結局、当事者コミュニティに参加するまでの間は、誰にも相談することができなかったため、全ての問題を自己解決するしか方法がありませんでした。

押田:本当に驚くほど見つかりませんよね…。私が当事者コミュニティを立ち上げたのも、情報がまったく見つからなかったため、自分で作っていくしかないと思ったのが理由の一つでした。特に男性の場合、そういった情報発信が本当に苦手なんですよね。

Cさん:たとえば里親の場合、里親になるための研修を受ける機会があるらしいんですね。同じように、継親の立場になる人にも、継親になるための勉強会などに参加する機会があるべきなんじゃないでしょうか。それぐらい、継親になるというのは難しいことだと思っています。

Fさん:実子が生まれた時に、保健所で育児のための講習を受ける機会がありました。ステップファミリーのための講習というものがあってもいい気がしますね。

Dさん:たしかにそう思います。また、個人的には、今日みなさんとこうして話をできただけで、だいぶ気持ちが楽になりました。知識を得ることも重要ですが、自分と似た立場にいる人に、共感してもらうということも大切だと思います。「うん。うん。」と共感してうなづいてもらえるだけで、頑張ろうという気持ちになれると思うんですよね。

Aさん:自分だけじゃないんだ、と思えるだけで、救われますよね。

Cさん:だからこそ、当事者コミュニティのような居場所は必要だと思います。同じ当事者として共感をしたり、先輩経験者から知識を共有してあげたり。当事者の実体験というのは、いま苦しんでいる人にとっては本当に貴重な情報リソースなんですよね。

Dさん:悩みを共有できる場所があること、仲間がいることを、苦しんでいる人たちに教えてあげたいですね。

子どもの幸せのために

押田:そろそろ時間がきてしまいました。今日はみなさんの大切なお話を聞かせて頂き、本当にありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

押田:なお、対話を終える前に、あらためて今日の対話の目的を振り返らせてください。
今回、「義父と加害」というテーマで対話をしましたが、この対話の目的は、義父の悩みを解決することではなく、子どもたちを幸せにすることだと考えています。
事件を振り返るとわかるように、結局、最後にしわ寄せを受けるのはいつだって子どもたちなんですね。だからこそ、子どもたちを守るためにも、私たち自身が加害のメカニズムをしっかりと理解し、自らの加害の可能性に真剣に向き合い続ける必要があると思っています。今日のこの対話が、そのきっかけの一つになれば幸いです。

Dさん:本当に、誰にでも起こりうる話ですよね。

押田:今日は本当にありがとうございました。なお、今回「加害」というやや暗いテーマだったため、お口直しではないですが、最後にどなたか、最近あったお子さまとのホッとするエピソードを聞かせてもらってもいいでしょうか?笑

一同:笑

押田:かなり無茶振りですいません。笑

Aさん:では、私の方から。笑
一年ほど前、私にとっての初めての実子が生まれました。子どもが生まれたことはすごく嬉しかったのですが、同時に、血のつながりのない長女が、家族の中で疎外感を感じてしまわないかが非常に心配でした。
そこで、ある日長女をこっそり呼び、「他の人には絶対に秘密だけど、実はお父さんは、君のことが世界で一番好きなんだ」と伝えました。娘は照れたような表情で、とても喜んでいました
血のつながりがないからこそ、娘に孤独や不安を感じさせないよう、自分の気持ちをきちんと伝え続けようと思っています。

Bさん:素敵ですね。実は私も、息子と養子縁組した日を、二人が親子になった記念日として、毎年お祝いしているんです。

押田:ステップファミリーの中で一番不安を抱えやすいのは、継親以上に、子ども達なんですよね…。そんな傷つきやすい子ども達の気持ちを優しくケアしようとする姿勢、本当に勉強になります。お二人とも、最後に素敵なエピソードをありがとうございました。

(対話終了)

最後に

1年前、さいたま市の9歳男児殺害事件の犯人が、32歳の義父であることを知り、背筋が凍りついたのを覚えています。当時私自身が、9歳の息子を育てる32歳の義父だったためです。

↓当時の想いを綴った記事

思えば私は、あの事件以来「義父と加害」という問題についてずっと考え続けてきました。どうしてもこの問題を、他人事として済ませることができなかったのです。

今回、「義父と加害」という問題について、当事者が正面から語り合うという、かねてより実現したいと思っていた企画をようやく形にすることができました。
「加害」という非常に繊細で語りづらいテーマだったにも関わらず、臆さず胸の内を語ってくれた当事者のみなさまには、あらためて感謝いたします。勇気のある告白、本当にありがとうございました。

「語ることは、加害性から降りること」。むかし知人に教えてもらった言葉です。今回義父たちと対話をして、私ははじめて、この言葉の本当の意味がわかったような気がします。
オンラインで開催された、わずか2時間のささやかな対話でした。
しかし、ここで語られた言葉が、きっと誰かの救いにつながると信じています。


なお、今回の企画は、「ステップパパの研究会(血のつながらない子供を育てる父親の当事者コミュニティ)」が主催しました。参加者も全員、当コミュニティのメンバーです。
「ステップパパの研究会」の活動に興味のある方、参加を希望される方は、公式noteをご確認ください。

今回「加害」に関する対話を行なうにあたって、友人のkarma(風間暁)さんが書かれた加害に関する記事から多くの示唆を得ています。対話の場のデザインを考えるにあたっても、色々と相談に乗って頂いて本当にありがとうございました。

また、受刑者同士の「対話」による更生プログラム(TC)について取材した「プリズン・サークル」というドキュメンタリー映画からも、非常に大きな影響を受けました。「加害」や「対話」というキーワードに興味のある方は、ぜひご覧になってみてください。

↓この文章を書いた人。
https://twitter.com/i_oshida

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