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【バイリンガルの憂鬱な日常】良い人ってむずかしい

大阪で生まれ育ったわたしにとって、「良い人」という言葉は非常に扱いがむずかしい。

「良い人」とはイコール、一般的に「性格の良い人」を指すのだと思う。
性格が良いんだからもちろん良いことだし、ほめ言葉になる、のだと思う。

しかしわたしの地元・大阪では、あまりいい意味で使われていない気がするこの言葉。
大阪では「性格が良い」と言われても、「だから何?」という空気が漂ってしまう気がするのです。

なんなら「良い人」ってほんのりと、

「良い人だけど、つまらない」
「良い人だけど、おもしろくはない」
「良い人だけど、真面目でノリが悪い」

など、「良い」と言っているにも関わらず、マイナス要素が含まれていることが多い、気がする。(ちょっと、とんちみたいな話?)

現にわたしも生まれてこの方「良い人」をほめ言葉と捉えたことがないし、「良い人」を目指したこともない。

「良い人」って、某有名女性歌手の歌詞にもあるように、「どうでもいい人」と同義では…?
と思ってしまうフシもある。

はっきりと辞書に明言されている訳ではないけれど、「良い人」の持つ意味合いが、東西で微妙に違う気がするのです。

大阪でヒエラルキーの上位に君臨するのは、「おもしろい」ただ一択。
やさしいとか、イケメンとか、お金持ちとか、すべて「おもしろい」には叶いません。
もちろん、イケメンは人気があります。ただし、おもしろければの話。
お金持ちもその次くらいに人気かも。ただし、おもしろければの話。
つまり、性格の良さは大阪においてあまり求められない。
究極、「ちょっとくらい性格が悪くても、おもしろいほうが良い」という判断基準でずっと育ってきました。


高校生の頃、超イケメンだけど話がおもしろくない男子がいました。
クラスメイトの女子がそのイケメンと付き合ってすぐ別れたのですが、
「なんで別れたん?」
と聞いたら、
「わたしのトークのレベルが落ちるから」
と言っていた。
関東に、こんな理由でイケメンをふる女子高生いないんじゃないかと思う。

そして大阪では、

・やさしいけど、おもしろくはない
・頭が良いけど、おもしろくはない
・真面目で誠実だけど、おもしろくはない

こんな人たちを総じて、
「まぁ、良い人やねんけどな」
と言ったりします。

つまり「良い人」に大した価値はない。

そんな価値観で育ってきたわたしは、関東に来て「良い人概念」の違いにびっくりしました。
びっくりしたというか、今も変わらず戸惑っているという感じです。

「あの人、良い人だよね」
と言われると、

(ん?そうなん?)
(どこ指して言ってんの?)
(当たり障りのない人ってこと?)
(違うか)
(いや、それはこっちでは褒めんのかな?)

と、脳内論争が起こって着地点が見つからず、良い人迷子になってしまう。

「良い人になる」というのも答えがわからず、ぐるぐると考えてしまう。

良い人っていうのは、何を求められてるの?
多分やさしくて、穏やかで、誰の話にもうんうんと頷き、相手を傷つける発言をしないことだよねぇ。
でも人がどんな発言で傷付くかなんて、人それぞれでわからない。

だいたい、M-1史上最高得点を叩き出したミルクボーイの漫才だって、コーンフレークをディスってるわけです。
「コーンフレークを作ってる会社に失礼」
「コーンフレークを好きな人がいたら傷付くし……」
とか思って発言を控えていると、良い人?
そしたらおもしろいことなんて言えないし、「良い人=おもしろくない」ってことになるのでは?
それは大阪の人間からすると耐え難い。
結局、「良い人」って、無難な話しかしたらアカンってこと?

こうしてぐるぐる考えていると、何もしゃべれなくなってしまうのです。

これを地元の親友に相談すると、
「あたし今、新しい職場に来たから、そんな話ばっかしてんで」
と言う。

「どんな話してんの?」
「天気の話やんか」
「でも天気の話なんか、もたへんやろ?」
「あんな、きょう寒いっすねー、て言うやろ?」
「うん」
「ほんでしばらくしたら、きょうほんまに寒いっすねー!て言うねん」

そんなたくましい親友のアドバイスも虚しく、わたしの良い人問題は解決しないまま。
関東に住んで約12年が経ちました。

最後にわたしが一番「???」と思った関東の「良い人」話を。

上の子の幼稚園時代、態度の悪いヤンママについて、あるママが言った言葉です。

「あの人、ちょっと常識はないけど、良い人だよね」

いやわからんわ。
わたしにとって常識がないのは良い人でもなんでもない。むしろ悪い人です。
「良い人」ってそんな万能の言葉じゃないし、もう「悪い人」でよくない??

……と、さらに出口の見えない迷路に迷い込んだ出来事でした。

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