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恋愛短編小説 「青い星」


その日は、夜空に星々が輝いていた。

自宅のベランダで寝転びながら空を眺めていると、一際輝く青い星を見つけた。ふと、心の中に潜んでいた遠い記憶が呼び起こされる。あの夏の日、僕と彼女が星空の下で交わした約束を。


星が降りそそぐ夏の夜、遠くには蝉の声が響いていた。僕たちは河川敷のベンチに座り、空に広がる無数の星を見上げていた。「青い星に願いをかけると叶うんだって」と彼女が言った。その言葉に心躍らせながら、僕も一緒に星を探した。彼女は僕の手を握り、少し照れながら、「ずっと一緒にいようね」と約束した。

その約束は、まるで星のように遠く、手の届かないものとなってしまった。大学を卒業し、僕たちは就職という現実に直面し、徐々に連絡は少なくなり、互いの生活は変わっていった。彼女が他の誰かと新たな人生を歩み始めたことを、SNSで知った日のことは今でも鮮明に覚えている。

それから数年、僕は時々ベランダに出て、星空を眺める。星が美しく輝く夜には、彼女と交わした約束を思い出す。彼女が幸せなら、それでいいと思うようにしているけれど、心の奥には消えない寂しさが残っている。

今夜もまた、その星が僕に話しかけるように輝いている。「忘れないで」と。僕は深呼吸をして、星に手を伸ばす。当然届くはずもなく、しかし、そんな自分が少し愛おしく思えた。

「君がいなくても、僕はここで生きていくよ」と、星に向かって囁いた。この言葉は風に乗って、どこか遠くへと消えていく。

僕はふと、彼女と初めて出会った日を思い出した。同じような星空の下、偶然を装って声をかけたのが始まりだった。彼女の笑顔、その日の服装、話した内容まで、すべてが昨日のことのように思い出される。

人生が僕たちをどこへ連れて行くのかは分からない。でも、あの夏の夜、星に願いをかけたこと、彼女と手をつないだ温もり、二人で交わした約束は、永遠に僕の心の中に生き続ける。

星空の下での約束は、時間が経っても色褪せることなく、僕の胸を締め付ける。それでも、この痛みが僕にとって大切なものであることを、星が教えてくれる。彼女がいなくとも、僕は彼女と見た星空を一人で見上げ続ける。そうして、少しずつでも前に進んでいくんだ。

夜風が涼しく、星が瞬く。遠くで蝉が鳴き止み、新たな季節の訪れを告げる。僕はまた、新しい日々を生きる力を、星からもらうのだった。





時間を割いてくれてありがとうございました。

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