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短編小説 「イチゴパフェは最強なんだから」


「また一週間の仕事が終わった。神様、ありがとう。この瞬間が来るまで耐えた価値があるって思えるから」

私はユカリ、24歳でコールセンターで働いている。耳に残るクレームや無理な要求、常に高いテンションで対応しなくてはならない仕事。でもそのすべてが許容できるのは、週末のこの時のため。

カフェの扉を開けると、甘い香りと共にコーヒーの香りが鼻をくすぐる。私の定位置、窓際の席に座り、メニューなんて見ずに「いつもの」を頼む。

はい、私の人生で一番大事な、その「いつもの」が運ばれてきた。深いガラスのカップに、真っ白なクリームがふわりと層になって、その上には熟れた赤いイチゴが散りばめられている。そして、その最上部に輝くグラサージュ。美しい。だが、その頂上にどうしても受け入れがたいものがある。ちょこんと座っている、緑のミントの葉。

毎回思う。なぜこの完璧であるべきイチゴパフェの上に、ミントの葉が必要なのだろう。緑が赤と白のコントラストを引き立てるため? 香りを足すため? どれも私にとっては納得がいかない。

スプーンを持ち上げると、避けようにも避けられない緑の存在が目に入る。一口目からその香りが空気を満たす。顔をしかめながら、その葉をスプーンで優雅にかき分ける。そして、ティッシュに丁寧に包んで、テーブルの隅、目立たない位置に移動させる。

ああ、そうするだけでこのイチゴパフェの真価が引き出される。

だけど、なぜ多くのカフェはミントの葉をトッピングにするんだろう。ほんのりとしたその香りが、何かしらの高級感や新鮮さを出すつもりなのか。でも、私にとっては邪魔者なんだ、完璧であるべきイチゴパフェの一部として。
こんなに美しい赤と白のハーモニーに、緑なんて必要ない。そんな疑問と戦いながら、スプーンにイチゴとクリームを乗せて口に運ぶ。ミントの葉がいなくなったおかげで、イチゴの甘酸っぱさとクリームのまろやかさが純粋に味わえる。

そう、これがイチゴパフェ。

未来の結婚相手には、このイチゴパフェを理解している人が必要。ミントの葉が邪魔である理由も、ただ単に「邪魔だから」という浅い理由ではなく、イチゴとクリームの調和を乱す存在として、しっかりと理解している人がいい。そう、イチゴパフェを心から尊重できる人。

ただ、今は、この瞬間が私にとって特別な時間。ミントの葉を一手間かけて取り除いた後のパフェは、その名の通り完璧。クリームとイチゴ、それぞれが調和して一つの美味を作り出している。

ストレスなどという無粋なものは、この壮絶な甘さと風味の前ではどこかへ消え去ってくれる。




時間を割いてくれて、ありがとうございました。

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