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憑羽に寄す

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奇病をわずらい隠される若者は、久しぶりの外出を許される。目的は「白い怪物」の確保だった。【完結・全24話】
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記事一覧

憑羽に寄す:終 憑羽たちに寄す

 すぐ傍で、枝鳴りが聞こえてくる。  森の中をイスラは歩く。革靴につづいて、金属板の硬い…

憑羽たちに寄す:二十二 幸い

 イスラの戻った廃村に、人の姿はなかった。あれだけとどろいていた、猟犬の声ひとつ聞こえな…

憑羽に寄す:二十一 誰も殺さないために

 イスラは目を開けた。  若葉に覆われた藪の中は草いきれに満ちている。枝の間を縫って折り…

憑羽に寄す:二十 狩場の準備

 一夜が明けて、ほとりの町にも日が昇る。  刷毛で引いたような雲を抜け、白金の光が差すに…

憑羽に寄す:十九 開演間近

 それから、星が少しだけ動いたころ、ネストレは靴を整え終えた。  イスラは井戸の縁石のそ…

憑羽に寄す:十八 作戦

 草を踏む音が近づく。  まるく広がる灯りの中に、徐々に、大男……ネストレの姿が現れた。 …

憑羽に寄す:十七 貴い血の娘

 ルチアが井戸の傍らに座り込んですぐ、イスラは腰から携行灯を外した。ごく小さく絞って火を入れる。  ゆらゆらと動く灯りから顔を上げれば、向かい側で、ルチアが膝を抱いている。金色の髪がぼやけたぬくい橙の灯りを重ね塗りされて、陰影がちらちらと細かく揺れている。  頭のかたちに沿って編み込まれた髪は、なかば解けかかって、頭の片側に房を垂らしたままになっている。金糸の房の端々に、棘めいたほつれが飛び出している様は、硬質な破片が並んで突き出しているようにも思われた。  硝子でできた宝冠

憑羽に寄す:十六 常ならぬ者

 目的の場所はすぐに見つかった。イスラは屋根をつたって、南棟の突き当りを中庭へと滑り降り…

憑羽に寄す:十五 決別

 足音を殺して、イスラは二階への階段を上がる。  関の脇に儲けられた宿所に入ったところで…

憑羽に寄す:十四 関所への道

 日が落ちていく。森の木々と屋根の境を黒々と染めていく、大きな日の夕方はなんとも不気味だ…

憑羽に寄す:十三 岐路

 草の擦れる音、自分の足音が、上滑って耳に届かない。  すでに馴れてしまった森の道を歩き…

憑羽に寄す:十二 支払った対価

 青灰色の朝霧が草のなかにまで満ちている。ひといき呼吸をするごとに、水の粒が肺の腑まで満…

憑羽に寄す:十一 オノグルの関にて

 ケレスト最南端の関所、オノグルの関は、ティーア邸下街とほとりの街の、ちょうど中央あたり…

憑羽に寄す:十 子どもの訊ねたかったこと

 手元を照らす橙が暗くなる。手元から顔を上げて、イスラは部屋の隅の薪へと左手を伸ばした。  楔のかたちに割られた木片を並べてくべ、ついでに木の皮を細く裂いて暖炉へと放り込む。  火の勢いが戻るにつれて、埃の焦げる臭いがする。夜半になって雨が降り始めたらしく、どこかしらおぼつかない空気は湿っていて、静かだった。  イスラは改めてひざの上に乗せた長靴を持ち上げる。  靴の底に仕込まれた薄い鉄板と、ばね仕掛けの刃が左右ひとつずつ。靴に沿う細い鞘に収まった、手先から肘ほどまでの刃渡り