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陸上長距離走競技選手とストレングス&コンディショニング

多くの先行研究によって陸上長距離走競技パフォーマンスは、最大酸素摂取量、乳酸性作業閾値、ランニング効率という3つの生理学的要因により決定されることが明らかにされていますが、近年では、ランニング効率がより重要な要因であると考えられるようになり、特に競技レベルが高くなればなる程、その重要度も高くなる(1)と考えられています。

そこで、ランニング効率を改善するという視点から長距離走競技選手にとって必要とすべきストレングス&コンディショニングプログラムを再考してみました。

●何故ランニング効率が重視されているのか?(個人的見解を含む)

古くから持久系競技能力を評価する指標として最大酸素摂取量が重視されてきましたが、最大酸素摂取量が同一レベルにある競技者間においても競技パフォーマンスの違いがみられることから、持久系競技能力に関係する更なる生理学的要因の検討が行われるようになりました。

そこで注目され始めたのが乳酸性作業閾値(LT)です。

最大酸素摂取量は無気的能力の良し悪しの影響も受けると考えられることから無気的能力の影響を受けない最大下能力の指標として乳酸性作業閾値(LT)が注目されてきた訳です。

ところが実際の競技はLTを超える強度で行われることからLTレベルが必ずしも強度パフォーマンスを決定する要因ではないと考えられるようになりLTを超える強度での能力指標として血中乳酸蓄積開始点(OBLA)も活用されるようになりました。

LTもOBLAも優れた指標ではありますが、これらは運動強度を漸増させた時に出現する点を評価しているに過ぎず、必ずしも一定持続時間の持久系競技能力を適切に評価している訳ではないと考えられることから、最大下強度における一定持続時間運動能力を評価する指標としてランニング効率が注目されるようになったのではないかと考えられます。

●ランニング効率とは?

ランニング効率は最大下強度の一定持続時間運動中の酸素摂取量を評価(2)したものであり簡単にいえば車の燃費の良し悪しと同じであるといえ、ランニング中の燃費が良ければ、それだけ速く長く走れるのではないかという考え方に基づく指標になるといえます。

従って、ランニング効率が良い程、競技パフォーマンスも高いと考えることが出来る訳ですが、LTを超える強度でのランニング効率の評価は無気的代謝の影響を考慮しなければならないことから、その評価が複雑になりLT以下の運動強度でランニング効率を評価する場合が多いので、上述の通り実際の競技においてはLTを超える強度で行われるという点で持久系競技能力の評価としては不十分ではないか?とも考えられています。

そこで、近年では、ランニング効率をエネルギーコストという視点から評価しようとする試み(3)がなされており、今後、持久系競技能力を評価する有益かつ最適な指標として活用されることが期待されるているのですが、いずれにしてもランニング効率の良し悪しは強度パフォーマンスと密接な関係にあることは間違いないと考えられます。

●ランニング効率に影響を及ぼす要因

ランニング効率は体格、筋組成、心臓血管系能力、代謝能力、ランニングフォーム、等、様々な要因の影響を受けるとされていますが、より大きな影響を及ぼす要因はバイオメカニクス的要因である(4)ことが先行研究で報告されています。

従って、個々のバイオメカニクス的要因を改善することがランニング効率の改善に繋がると考えられる訳です。

参考までにですが、ランニングにおけるバイオメカニクス的要因を検討する上では、ストライドやピッチ、ランニング動作中の関節角度、角速度、等で表されるキネマティクスと地面反力、関節トルク、等で表されるキネティクスの両側面から検討することが重要となり、この両側面は密接に関連しています。

ところで、ランニング動作は支持局面と空中局面で構成されるといえますが、Heiseらは支持局面がランニング効率に大きく影響する(5)ことを報告していることからランニング効率を改善するためには支持局面におけるバイオメカニクス的要因を改善することが重要であると考えられます。

●支持局面のバイオメカニクス的要因を改善するために

ランニング動作における支持局面は接地時に身体を安定させるため、離地時に推進力を産み出すため、に大きな力発揮を必要とすることから当然、下肢筋力が大きく関係してくるといえます。

従って、ランニング効率を改善するために支持局面のバイオメカニクス的要因を改善する上で下肢筋力の向上は不可欠であるといえるでしょう。

特に、ランニング動作における接地局面で大きい推進力を得るためには高い下肢伸展筋力が必要となり、下肢筋群(下肢筋腱複合体)の筋と腱の構造から考えても殿筋群がより主要な動力源として機能するといえることから殿筋群の筋力強化が不可欠であるといえ、更に、キネティクスという視点で考えれば下肢伸展筋群の爆発的筋力の強化が重要になると考えることが出来ます。

また、現役の陸上長距離走競技選手の考え方や意見等も踏まえて考えると、ランニング動作における支持局面のバイオメカニクス的要因を改善する上では足関節にフォーカスする必要性も出てくると考えられます。

すなわち、接地時の足関節の角度や接地から離地に至る過程で必要となる足関節底背屈運動にも焦点を当てる必要性が出てくると考えられる訳です。

ランニング動作における接地局面の足関節のバイオメカニクス的要因を改善するためには、下腿筋群をターゲットとするプライオメトリックトレーニング(例えば、Ankle Hop)が非常に効果的な運動になり得ると考えられます。

それは、下腿筋群(下腿部筋腱複合体)の筋と腱の構造的特徴(筋に対して腱が長い)から考えた場合、下腿筋群に対してはプライオメトリックトレーニングが有効であることからも支持されるのではないかといえます。

●まとめとして

ランニング効率を改善する上ではランニング動作における接地局面のバイオメカニクス的要因の改善が重要となり、そのためには股関節伸展筋群、特に殿筋群のウエイトトレーニング及びプライオメトリックトレーニング、下腿筋群のプライオメトリックトレーニングが有効である。

更に下肢伸展筋群の爆発的筋力の向上という点から考えればO-Liftが導入出来れば、より効率的なトレーニングが実施出来るので尚良しといえる。

【運動種目選択&配列(例)】
・W-up
・Ankle Hop
・Power Jump
・DL
・Rev. Lunge
・Good AM
・OH Press
・Pull up
・In n' Out


(1)Daniels J, Daniels N:Running economy of elite male and elite female runners. Med Sci Sports Exerc 24;483 - 489,1992.

(2)Cavanagh P R, Kram R:The efficiency of human movement –a statement of the problem. Medicine and Science in Sports and Exercise 17;304-308,1985.

(3)Fletcher J R, Esau S P, MacIntosh B R:Economy of running: beyond the measurement of oxygen uptake. Journal of Applied Physiology 107;1918-1922,2009.

(4)Williams KR, Cavanagh PR, Ziff JL:Biomechanical studies of elite female distance runners. Int J Sports Med 8;107-118,1987.

(5)Heise GD, Smith JD, Martin PE:Lower extremity mechanical work during stance phase of running partially explains interindividual variability of metabolic power. Eur J Appl Physiol 111;1777-1785,2011.

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