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なぜ目標を達成しなければいけないのでしょう?

前回の記事

課題 今後の会社の向かう方向を社員が
不安に思う

 カルチャーを明文化し、カルチャーに合った人事評価制度を導入、そしてカルチャーにフィットした将来の幹部候補が入社してくることで、少しずつ社内に変化が起こります。中でも最たるものが、カルチャーにフィットしない人たちが居心地の悪さを感じ、徐々に退職者が増えていくことです。

 人事評価と育成、補強という工程を3~5年継続していくことで、ようやく承継以来、後継者がイメージしていたカルチャーに会社が塗り替えられていく……。その事自体は喜ばしいことなのですが、その一方で、大量に人が辞めていくのを見て、残された社員たちの間には、不安感が広がっていきます。

「これまで会社を支えてきた上司や幹部さえも辞めてしまって、本当にこの会社は大丈夫なのか?」と、思い始めるわけです。

退職する古参の幹部や同僚たちは、
辞めるに際しては「もうこの会社は危ないよ」とか
「先代と違って後継者は能力がない」「沈みかけの船のようだ」
「君も早く転職先を考えたほうがいいよ」などといった、
ネガティブな言葉を耳打ちしたり、あるいは
公言したりしているかもしれません。

 本人は親切のつもりなのかもしれませんが、残った従業員や、
胸を躍らせて中途入社した人たちにとっては、迷惑な
助言でしかありません。
 何より後継者にとっても、せっかくカルチャーにフィットした人材が社内の大勢を占めるようになったにも関わらず、社内の動揺を
抑えることができず、生産性は落ちる一方となります。

 後継者がこのタイミングで、何をすべきなのかをはっきり
理解していないと、残された従業員たちさえ、
「やはり辞めたほうがいいのでは?」という不安が支配し、
辞めなくてもよい人まで転職先を探すという行動に出ることがあります。
では、後継者が成すべきこととは何でしょう?

 それは、明るい未来を見せて従業員の一人ひとりのモチベーションを上げることにあります。

誤解 飲みニケーションで親睦を図る

 明るい未来を示してモチベーションを上げようと、まずやってしまいがちなのが、従業員や幹部との間で親睦を深めるために、社長主催の飲み会を開いたり、ランチ会を開催したりすることです。もちろん、親睦を深めることには反対はしませんが、それで従業員が抱えている不安や動揺を解消することなどできません。

 しかも、酒の席で従業員に会社に対する要望や満足度など聞いてしまうと、不満や不安が噴出することもあります。福利厚生が充実していないとか、賃金を上げてほしいとか、残業が多いなど、下手すると吊し上げに合うかもしれません。せっかくカルチャーを作ってきても、これでは台無しです。

◯トップダウンで中期経営計画を作っても失敗する

 明るい未来を見せるには、現状を正しく把握したうえで、この章のテーマでもある中期経営計画を策定することです。ただし、出し方には十分注意が必要です。
 ここで、以前紹介した失敗事例を思い出してみてください。


承継後すぐに社内改革や階級別研修システムの導入、そして
中期経営計画を打ち出した後継者の江上社長でしたが、従業員や幹部の
理解を得られずに、憔悴しきってしまったという話でした。

 江上社長が失敗した原因は、カルチャーフィットする前に、次々と施策を打ったからだと述べましたが、実はそれだけではありません。
 中期経営計画の出し方は大きく以下の3つの方法に分けられます。
 
1.トップダウン方式:経営者や場合によっては幹部を交え、
  目標を設定する。
2.ボトムアップ方式:現場社員や管理職が目標を設定する
3.バランス方式:1と2で仮決定した上で、目標を突き合わせ再考し、
  設定する
 
 もちろん、会社の状況によってどの方式が最適なのかは異なりますので、正解は会社や経営者のパーソナリティによって三者三様です。

しかし、一つだけ言えるのは、

今回のように会社を承継した後継社長が、カルチャーフィットによる
組織改革を行ってきたとき、1のトップダウン方式で中期経営計画を立ててしまうと、納得感よりも不満のほうが強くなる傾向があるということです。
 経営者が中期経営計画を設定し、各部門や事業部ごとに達成目標を設定。さらには 個人の目標まで落とし込んで設定するという一連の流れとなりますので、個々の社員にとっては、「勝手に目標を決められた」と思ってしまいます。
 当然ながら、「なぜこの数字になったんですか?」という疑問が湧き、上司など管理職に尋ねると、「会社で決めたことなんだから、つべこべ言わず頑張ろうよ」とか「給料もらっているんだから、これぐらいはやらないといけないよ」など、理由を説明せずに強制するケースが散見されます。
 中には、管理職も実はなぜこの数字になったのかを理解しておらず、「なぜ、こんなに目標が高いのかな?」ということを言ってしまうこともあり、こうなると現場はやる気と目標を達成する意欲を失うという最悪の事態に陥ります。
 しかし、こうした最悪の事態でなくとも、実は多くの企業では
中期経営計画の達成率は、どこも悪いのが現実です。

○なぜ目標を達成しなければいけないのでしょう?


 なかでも、最も印象的だったのが、管理職研修の参加者から
「『なぜ目標を達成しなくてはいけないんですか?』と新人社員から聞かれたのですが、うまく答えられなかった」といわれたことです。
 その企業では、明らかに社員が納得してない中期経営計画が設定されており、従業員の多くが不満に思っていました。それでも、口に出さずにいたようです。そのような状況で、入社したての新人が悪げもなく言った一言のようです。
 でも、私はこの新人社員の質問は、とても本質をついていると感じました。そこで、ほかの管理職研修でも参加者の方々にも、「なぜ目標を達成しなくてはいけないと思いますか?」と、同様の質問をしてみました。
・評価が高くなり、給与を上げるため
・会社に属している以上、貢献するのは当たり前だから
・達成感を感じて、仕事を楽しくするため
 などが、回答の主なものです。
ほかにも、「なんでしょうね?」「みんなやっているからですか!?」
といった回答もありました。
 結局、目標を掲げて達成する理由が従業員たちには、ほとんどないというのが実際のところです。事業の成長は経営者としては最重要課題であったとしても、多くの従業員にとってはあまり興味がありません。
 事業成長はあくまでも、経営者の都合です。売上が伸びたからといって、短期的な成果によって簡単にベースアップはできないものです。
 会社としてできることは、業績連動賞与のようなかたちでしょうが、
金額にするとそう大きくはないのも実情です。

 つまり、トップダウンで一方的に中期経営計画を作っても、
私がたくさんの企業を見てきた経験からいうと、あまり意味は
無いということなのです。

次回もお楽しみに。


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