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社員が自ら動かない……トップダウン企業の後継社長が直面する「難題」と「解決策」

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課題 全員が自ら考えて動くことを忘れている

経営者1人の決断で事業や人を動かす、トップダウン経営により
勝ち上がってきた企業は多くあります。
会議の場での話し合いや検証といった無駄を排除することで効率的かつ
スピーディーに会社経営を行う。
かつて地域の中核企業の多くはこのようなマネジメントスタイルで
地道に成長を続けてきました。これは市場の成長時には
有効なマネジメントスタイルです。

なぜならば、市場の成長期においては正解があり、正解に合わせて製品・
サービスを提供すればいいからです。

一方で今の事業環境は、成熟・衰退期となっており、トップダウンの
マネジメントスタイルが合わなくなっています。
正解がない中で、間違って量産・効率化してしまうと無駄が発生します。
よって正解を探しながら進めるマネジメントスタイルに変更することが
求められます。

従業員は先代の威光についてきている

従業員は、これまで創業社長の指揮命令系統の下で働いてきたため、幹部を含めてすべてが「社長頼み」という発想が根づいてしまっています。

1代で会社を立ち上げて地域の中核企業にまで育ててきた創業社長の場合、多くは、カリスマ性もあり「社長の言うとおりに動けば間違いはない」
「自分の判断で余計なことはしないほうがいい」など、
トップダウンで会社全体が動いていたため、従業員一人ひとりに
「自ら考えて動く」という習慣が身についていません。

先代社長の時代は、戦国時代の武将のように軍配を右に振れば部隊が右へ
動き、突撃の合図で一斉に突進していくように、カリスマ社長の指示に
よって皆が動くというのが、いわば会社のカルチャーのようなもので
あったわけです。

では後継者がトップダウンで指示を与えたらどうでしょう。
先代ほどのカリスマ性も信頼感もない後継者ですから、従業員は
指示されないと動きませんし、指示されてもなかなか動かないという
停滞感が生まれ、後継者の多くは頭を抱えることになります。

かといって、後継者が幹部の一人ひとり、従業員の一人ひとりに対して
「こうしろ」とか「こうしてほしい」などの指示を出すのは非効率的ですし、あまり効果はありません。

また、先代社長の時代には、カルチャーというものを意識したことがない
従業員がほとんどでしょう。カルチャーを前面に出して、
自社のカルチャーにフィットした人材を採用するようなこともなかった
はずです。あるとすれば企業風土や社風など、もう少し曖昧な定義です。

「ウチは社員を家族のように大事にしています」や
「風通しが良く、社員同士も仲がいいんです」
「自由闊達に、意見を言えるような雰囲気です」
といった企業風土や社風を語る企業もありますが、
私からすると「カルチャー」と呼ぶには、掘り下げが浅いといえます。
社員に共有され行動指針となるにはインパクトが弱く、実態を伴いません。

自社のカルチャーか、自分のカルチャーか?

また、そもそもカルチャーで採用をしてきていないので、実際には社員の
意識はバラバラです。それでも会社が成長してこられたのは、
繰り返しますが、創業社長にカリスマ性があったからで、
後継者がそのまま真似ることはほぼ不可能といえます。

では、すでに成長期から成熟期に入った会社を託された後継者は、
どのように会社を舵取りしていけば良いか。
それは、これまで会社が培ってきた企業風土や社風という曖昧な表現を、
カルチャーとして定義して明文化していくことです。
それが経営者としてまず行うべき仕事です。

これまでとは異なる方向や速さ、距離で会社を舵取りし、進んでいくことになります。後継者よりも長く会社に勤めてきた幹部や従業員のなかには、
おもしろくないと感じる人もいるでしょう。非協力的であったり、
抵抗勢力が生まれたり、何かと苦労することも予想されます。

それでも、先のジム・コリンズの言葉
「『何をすべきか』ではなく『だれを選ぶか』からはじめる」
べきのように、「だれを選ぶか」を決めるフィルターとなるのが、
カルチャーです。極端にいえば、カルチャーが合わない、
合わせたくない人には、ご退場願うくらいの気概で取り組む
必要があるのです。

誤解 死ぬほど働けば勝手に人望はついてくる

なかなか動いてくれない幹部や従業員になんとか動いてもらおうと、
〝新人〞である後継社長は率先垂範。朝は誰よりも早く出社して、
現場や営業、さまざまな課題解決に向けて奔走します。
もちろん、一生懸命頑張ることは大切ですが、それで社員たちがついてくるようになったり、自ら行動するようになる……
というのはドラマの中だけの話です。

現実世界では、相変わらず指示待ち状態が続きますし、何かと理由をつけては、「やりたくない」「動きたくない」と、働いてはくれません。

結局、社長が一生懸命動いている姿を見せても効果はなく、ひたすらもぐら叩きゲームのように目の前の課題、目についた課題に取り組んでいく。それでは何も変わりません。そして、そんな後継者の無理が続けば、自分自身も疲弊して、やる気と自信を失ってしまうだけなのです。

現場を経験すれば現場を理解できるわけではない

そうなってしまうのは、経営について学びの場を与えてこなかった先代経営者にも責任があります。特に世代格差からか、先代の価値観は現場主義や経験主義に偏っている傾向が見られます。

先代にとっての「学び」とは、とりあえず現場を見て、自ら経験して、失敗しながら学んでいくことが良い手法であり王道でした。だから後継者に対しても承継する前は、とにかく現場を踏むこと、現場で多くの従業員と触れること、そして失敗しながら学ぶことを求めるわけです。

そして、その弊害として後継者は目の前のさまざまな課題が目についてしまい、承継後に取り組むべきはそうした現場で感じた課題を解決することだと、刷り込まれていってしまうのです。

しかし、今は違います。先代が経験学習であったのに対し、現在では経験前学習という学び方が一般的になっています。経験する前に、十分インプットして、シミュレーションをしてから実践に移すことが習慣化されているわけです。

例えば、レストランに行くのも、インターネットで検索して、料理や店内の様子、店主や料理人の評価・評判を十分に下調べしてから決めるのが当たり前です。決して飛び込みで知らない店に入るリスクは冒しません。

特に、1980年代から90年代前半に生まれた世代は、ミレニアル世代とも呼ばれ、子どもの頃からパソコンやインターネットに触れているため、この経験前学習が身についているのです。

つまり、学び方そのものが先代経営者とは異なり、現場を経験する前にワンクッションおく余裕のある学びを求めています。もちろん経験前学習で会社経営のすべてを学べるわけではありませんし、そのことは後継者も十分わかっています。それでも、現場での経験ではなく、その先を知りたいという欲求が強く、先を知らないことにとても不安を感じるのです。そして、会社内において先を学ぶ場がないことが大きな問題なのです。

カルチャーに対して自分を合わせるべきではない

このように、承継前に現場主義で学んできた後継者は、自分が我慢して現状のカルチャー(企業風土や社風)に合わせていくしかないと感じてしまいます。

しかし、結果的にそうした会社や組織は少しずつ崩壊していきます。なぜなら、我慢して経営を続けても、自分とは価値観の合わない幹部たちから突き上げられたり、あるいは優秀な営業パーソン、現場の責任者が辞めていってしまったりすることが多いからです。そうした優秀な従業員たちは、先代社長には恩義を感じていますが、後継者に魅力を感じず、また会社の行く末を察知することに敏感だからです。

結局、後継者は自分のカラーを出すことがないまま、長いスパンで、
少しずつ組織が崩壊していくことになるのです。

次回は解決策について解説します。



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