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今の仕事を始めて間もない頃、外部の営業会社経由で、事業開発関連の研修の依頼があった。

「斬新なアイデア」を出すための研修の依頼

その営業会社の担当の人が言うには、研修を実施したいと言っているマネジャーの方が自分が翻訳した『プロダクトマネジャーの教科書』を読んだことがきっかけだったらしい。

営業担当の人曰く、そのマネジャーの方が「現場の社員からなかなか斬新なアイデアが上がってこない。だから、特に事業開発の中でもコンセプトデザインの部分を中心に考え方やツールを教えてあげてほしい。そうすれば、彼らも変わると思う。」と言っているということだった。

本来であれば、そのマネジャーの方に自分が直接ヒアリングする時間を取るべきだったが、営業担当の人に「これ以上の話しは出てこないと思うし、開催まで時間がないので、とりあえず研修の実施案を送ってください」と言われ、それを鵜呑みにしてしまった。

そこで研修を1日で行い、後日、研修で検討した内容を整理して、マネジメント陣にプレゼンテーションを行うという設定にした。

研修の実施と驚きのプレゼンテーション

研修当日、「なかなか斬新なアイデアが上がってこない」とレッテルを貼られていた社員の方に基本的な考え方を伝えたあと、コンセプトを出すグループワークを進めていくと、興味深い、しかも実現可能性もありそうなアイデアがどんどん出てきた。

出てきたアイデアのブラッシュアップに向けたアドバイスをして、後日実施するプレゼンテーションを楽しみにしていると伝えて、その日の研修を終えた。

プレゼンテーション当日。複数のグループがプレゼンテーションを行った。

その内容を見て愕然とした。

研修中に出てきた「斬新なアイデア」がものの見事に姿を消していたのだ。

ホワイトボードと付せんを使ってメンバー同士で活発に考えていた「斬新なアイデア」が、いつもの社内の書式に乗せられ、いつものマネジメント陣に向けて説明をするタイミングで、「いつものアイデア」に変わってしまっていた。

斬新な尖ったアイデアは、ツルンとした当たりさわりのないアイデアに磨き込まれていた。

良いものを出させるのではなく、良いものが上がってくる仕組みをつくる

その時になって、自分の浅はかさに気がついた。

その会社が抱えていた課題は、現場の社員が斬新なアイデアを出せないことではなく、「斬新なアイデアを出せない組織」になってしまっていることだった。

研修後、今回の結果を踏まえた自分の仮説を説明し、プロジェクトのスコープを「イノベーションを起こせる社員を育てる」のではなく「イノベーションが起きる組織にする」ことに変更し、マネジメント陣も交えた取り組みを進めていくことになった。

前にも紹介した『イノベーション実践論』には、こんな記述がある。

CTOは下から上がってきたものをみて、良いものを選定しようとするのではなく、良いものが上がってくるようなマネジメント体制を構築することが本来の仕事となる。そしてこれは、企業イノベーションの成否を決めるのに決定的に重要な要因といえる。
(出所:『イノベーション実践論』34ページ)

まさにここで書かれているようなことをマネジメント陣が実践できていなかったことが、この組織の問題だったのだ。

スコープを間違えないためにできること

プロジェクトではいろいろなことが起きる。

その「いろいろなこと」を可能な限り事前に想定しておくためにも、プロジェクトマネジメントの体系にしたがい、開始時点でリスクの特定や対応策を考えておくことはとても重要だ。

しかし、そうやって特定するリスクも、そもそものプロジェクトのスコープ(範囲)の設定が間違ってしまっていると、間違ったスコープの中でのリスクしか出てこないことになる。

そうならないためにも、わかりやすい問題の現象に飛びつくのではなく、そして人づての情報で安心してしまうのでもなく、自ら現場に足を運んで、丁寧なヒアリングをとおしてスコープを検討するという基本をおろそかにしてはいけない。

そして、その際に『イノベーション実践論』で紹介したようなことを事前に頭に入れておくと、大きな助けになる。

(この案件は、我ながらとても反省する一件となり、以来、上で書いたようなことを自分で徹底するきっかけになっています)

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Photo by Jon Tyson on Unsplash

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