〖 エッセイ 〗兄という生き物
私には6歳年上の兄がいる。
兄はひとこといって変人だ。
だいぶ変わっていると思う。そんな兄に日頃の不満は募るばかりだ。
第一に家事をやらない。
おそらく、家事は女がやるものだと思っている。
今のご時世に一番反感を買う考え方だ。
母に洗濯も洗い物も料理もやらせている。
母は足腰が悪いので結局、私が大部分をやることになる。
一度、お願いだから洗い物ぐらいして!と頼みこんだことがあるが、1日だけやって終わった。
3日坊主ならぬ、1日坊主である。
そしてやたら小言がうるさい。
みそ汁飲むと「薄っ。水みたい。」とかいう。
こっちは健康気遣ってるんじゃい!
豚キムチ丼が食べたいというので母が作ってあげたら、
「思ってた味じゃないな。こういう感じじゃないんだけど」とかいう。
じゃあ、自分でつくれや!
そして根っからの頑固なのである。
今度は豚肉炒めが食べたいというので作ってあげたら、鶏肉っていったじゃんというのである。
母も私も兄が豚肉でといっているのを聞いているのだがいいや、そんなこといってないの一点張り。
自分の間違えを意地でも認めないのだ。
2対1でこっちが勝っているのですが?
そんなわけで私は旦那に不満を持つ主婦とはこういうものなのか、と結婚をしていないのにもう既に毎日のように経験している。
これから兄の奥さんになる人は気の毒である。
第二に全く神経質ではないくせに、ちと細かい。
細かすぎるだろ!と思ったのが、母が兄の車を借りたときのことだ。
母が帰ってくると、
「ちゃんと距離測って、その分燃料いれてよね。」
と一言。カッチーン。
どこの家族に車借りて距離測れという家族がいるのだ。普通に満タン入れてね、でよくないか。
いい方があるだろう、いい方が!
また別の日の出来事。
「買い物してくるけど何かいる?」と聞かれたのでちょっとしたものを頼むときがある。
次の日になるとテーブルの上にレシートが赤丸して置いてある。
高い買い物ならまだしも100円ちょっとくらい大目にみてくれんのか…。
ちゃっかり母が頼んだものも請求してある。
まぁこれは、頭がいいのでやりくり上手ともいえる。
貯金もかなり蓄えがあるようだ。
そのくせ金ない金ないと騒ぎ出す。
金がないのは貯金がほぼないこっちじゃ!
何を基準に金がないといっているのか謎だ。
そして第三に短気だ。
さっきのことに「細かいなぁ」などといったら、すぐ機嫌が悪くなる。そしてゾウのようにドスドス音立てて歩く。子どもか。
私は身体が丈夫ではないため、出先で体調が悪くなるときがある。するとやっぱり機嫌が悪くなる。
むすぅっとして大丈夫?の一言もなく、だんまり運転している。
思えば兄は子どもの頃から短気だった。
その証拠に兄が5歳くらいのとき母とボール遊びをしているビデオがある。
「もっとこっち!もっとこっち!もっと後ろ!」
とやたら母に指図している。その度に母は場所を移動する。「いいからここでやろうよ!」とその都度母はいうが全く聞き耳を持たないのが兄だ。
てかボール遊びに場所なんかどうでもよくないか。
しばらくは和やかに遊んでいたが、少し気に入らないことがあると「もういい!」とボールを放っぽりだしてどこかへいってしまった。
全く今と変わらんではないか…。
また他のビデオでは家族で遊園地に行ったときのものがある。
当時私は3歳ぐらい兄は9歳ぐらいだっただろうか。
兄と私が電車のアトラクションに乗った。景色を堪能しつつ、動物の人形が所々にいて楽しませてくれるというものだった。
「みてみて!」と兄が動物のお人形がある方を指したが、私は全く逆の方を見ていた。
通り過ぎ、「今のすごいね!」と振り返った兄は全く違う方を見ている私を見て、
「バカッ!!そっちじゃねぇ!」
と思い切り頭を引っ叩いた。
私は何がなんだか分からずキョトンとしていた。
あれ?これって私も悪い?(書きながら思う。)
まぁ何がいいたいのかというと要するに兄の気性の荒さは子どもの頃からだったということだ。雑なまとめ方になったが。
兄を怒らせると気まずくなる期間が長い。
以前、兄とケンカして半年も口を聞かなかったことがある。
それはそれでめんどくさいので、なるべく兄が怒るポイントを覚えておいて、うまくやるようにしている。
ここまでだと兄はめんどくさい人間のように思われるのだが、驚くなかれ、外では人気がある。
兄は外面だけはいいのである。
職場では好青年と思われ、皆に慕われている。
特におばちゃんたちに厚い信頼を寄せている。
仕事もでき、愛想も抜群にいいのだ。
家で自己中な振る舞いをしている兄とはまるで違う。
ずっずるい。
お前はうまるちゃんか。
こんな息子だったらよかったのに、とかおばちゃんたちにいわれているらしい。
おばちゃん、絶対にやめておいた方がいい。苦労するぞ。
家では全然違いますよーといってやりたくなる。
なんだろう。この悔しさは。
だから私はいい人が信じられない。
愛想のいい人、私は大好物?なのだが、もしかして、裏では兄みたいなのかな?と掻い潜ってしまうのである。
兄みたいに家では短気で自分勝手なのかなと(ただの悪口)
おかげさまで人間不信だ。
そんな兄だが意外な一面もある。可愛いらしい物が好きなのだ。
“カービィ”やら“すみっこぐらし”やらのぬいぐるみを部屋に飾っている。
私がそういう類の可愛いマスコットなどを持っていると「ちょうだい〜」と横取りしようとする。
そしていつもカービィのマグカップで飲み物を飲んでいる。
………
これが俗にいうギャップ萌えというやつなのか!?
これでは憎もうにも憎めんではないか!!
そんなこんなで私は兄との向き合い方を本気で悩んでいた時期があった。
興味本位でスピリチュアルカウンセラーの方に相談してみたことがある。
カウンセラーの方に
「変わっているのは兄だけではなく、あなたもかなり変わっていることを自覚すること。
さすれば許せるところもでてくるでしょう。」
といわれた。
やばい。痛いところを突かれた。自分を棚に上げていたが、自分自身も変わり者だということをすっかり忘れていた。
そして「変わっている家族の元で育っているので、変わっていて当然です。」といわれた。
なるほど!と腑に落ちたが、ちょっといい方ひどくないか。
それからというもの兄にイラっとしたときは、これらの言葉を思い出して踏ん張るようにしている。
あぁ。兄のことを思うと今日も私は胃が痛い。
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