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読書感想文 今邑彩「そして誰もいなくなる」

名門女子校である天川学園の開校百周年記念式典で上演された演劇部によるアガサ・クリスティ作「そして誰もいなくなった」の舞台で最初の犠牲者役の生徒が本当に毒を飲んで死んだ。

その後、演劇部の生徒が次々と「そして誰もいなくなった」をなぞるようにして殺されていく。勿論生徒側も警戒はしているのだけど、それを掻い潜って凶行は重ねられていく。

その上、被害者となった生徒たちの自宅に、彼女たちの過去の罪を告発する手紙が届く。

犯人の狙いは何なのか?

演劇部の部長を務める江島小雪は事件に対する推理を巡らせ、犯人の可能性が高い人物にたどり着くも証拠がないため、警察がまともに取り合ってくれるか分からない。

そこで、証拠を掴むために顧問の向坂典子と共に一計を案じる。果たしてその結果は?

そして事件は大きく動き、犯人も明らかになり、一件落着……ではなかった。

実は事件の背後には、法で裁くことのできない「真犯人」と言うべき人物がいた。

向坂典子が脚本・演出を手掛けた「そして―」は「裁かれざる犯罪を誰がどう裁くのか」というテーマを前面に押し出していたようだ。

同じ問いを江島小雪もまた投げ掛ける。

本当は助けることができた人間を助けず見殺しにした人間は、まぎれもなく殺意があったとしても、犯罪とは言えないのか?と。

マザーグースの見立て殺人を描いた「そして―」の見立て殺人を描きつつ、「そして―」のもう一つのテーマである「法で裁けない罪」もしっかりフォーカスしていて、最後まで目が離せない。

個人的には物語のその後を想像させるラストが特に印象的だった。

クリスティの古典的名作を踏襲しつつ、「あの部分をこう書き換えるのか」、「物語にこう落とし込むのか」と読後、両作の内容を思い返して、比較して思わず「はー……」と感嘆の溜息が漏れ、しばらく物語の余韻に浸った。

本作は「そして誰もいなくなった」を読んでいなくても十分に楽しめる。だけど、読んでいたらもっと面白い。そんな作品。

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