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わたしはもう大人だから。

件の赤子は愛されている。
この前も書いたが、最近件の赤子が大人の真似を始めた。拍手や挙手など簡単なものであるが、0から1を生み出すのは偉大なる行いだ。当然周囲の大人たちは口々に褒める。
「えらい」
「かわいい」
「かしこい」
そして頭をくしゃくしゃと撫でたり抱きしめたりする。
赤子はそうされるのが嬉しくてニコニコと笑ってから、同じ動作を何度か繰り返して見せる。その度に大人たちがまた褒める。
わたしもそんな大人たちの1人なのだが、たまに胸が苦しくなる。妬みなどではない。

眩しい。

無邪気に大人たちの真似をして、褒められれば無邪気にそれを受け取って、無邪気に同じことを繰り返す。その純真さが、眩しい。
大人たちから強い愛情を注がれている光景もまた、眩しい。

わたしは親にうんと愛されてきた方だ(父はあまり関わってきてなかったらしいが)。わたしが赤子と同じ頃にも、周りにいた大人たちがわたしの成長を喜んで口々に褒め、撫でまわし、抱きしめただろう。
そうしてよかったと思えるような人間にわたしは育っただろうか?
この身に受けた愛情を返せないと気が済まない。わたしはもう大人だから。

件の赤子を見て、そんなことを考えてしまう。わたしはもう大人だから。

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