同時同卓提供の本質を理解していますか?
宇宙一外食産業が好きな須田です。
先日2020年春の出版に向けて出版社の方と密なミーティングを重ねていたところ、同時同卓提供の話となりました。
ご担当の方が数日前に経験したことをお話ししてくださり、「実際に現場では、この場合はどのようなことが起きているのでしょうか!」と聞いてきました。
非常に面白いテーマなので、
今日は同時同卓提供についてお話ししたいと思います。
少し長くなりますが、非常に大切な内容なのでお付き合いください。
飲食業に関係している方ならば、必ず聞いているであろう“同時同卓提供”ですが、実態はどうかと言いますと、同時同卓提供は夢のまた夢です!
勿論この同時同卓提供に向き合っている企業も店舗も担当者も沢山いらっしゃいます。
しかし、多くは実現できていません。
以前、私は中華のデリバリーを運営している会社の執行役員をブレーンとしてお手伝いした経験があります。
年末の寒い時期に所沢のある施設にレストランを出店したことがありました。
オープン数日後の最初の週末のランチに臨店したところ、お店がパニック状態になっていました。
オーダー伝票は何十枚もたまっていて、お客様の表情は明らかにいらだっており、「何やっているんだ!」と叫び出しそうな雰囲気が店内に充満していました。
勿論ウエィティングのお客様も何組もいらっしゃる状況でした。
11時オープンでしたが、11時25分にはパニックになっていました。
オープンと同時にお客様が殺到し、全卓にお客様がいらっしゃる状況で満席率は85%、既に100本近くのオーダーが入っていました。
厨房を確認すると全員必死で鍋を振っていましたが、本来コントロールタワーを担うスタッフがホールでクレーム対応をしており、キッチンがノーコントロール状態でした。
あなたも同じような経験をなさったことがあると思いますので、その時の状況もスタッフの心理状態も容易に理解できる共感できると思います。
そこで、私はデシャッパーを行うことにしました。
その結果15分後には店舗は落ち着きを取り戻し、それから3時間半ランチピークは継続しましたが、一切トラブルとなることはありませんでした。
私が行ったことは、誰が何を調理しているのかを確認し、的確な調理指示を出すことでした。
店舗のレイアウトは頭に入っているので、頭の中だけでホールコントロールは可能ですから、あとは厨房スタッフと商品提供を的確に確実にコントロールするだけでした。
そこで、最初の数枚の伝票を記憶し、今それぞれのスタッフが調理している商品を確認しました。
「坂本さん、何振っています? OK 平井君、何振っている? OK 尾形君は? OK」これだけで、どのテーブルの商品を誰が調理していて、どのタイミングで提供できるかを瞬時に把握しました。
次に行ったのは、ホールのスタッフに何卓の商品が次出るから、そのテーブルのお客様に「お待たせして申し訳ございません、次お持ちしますので」と、お伝えしてくるように指示しました。
お客様にお伝えした数分後に商品を提供することを数回繰り返しました。
勿論、次に商品提供を出来ることをお伝えするという状態を全てのお客様が観ています。
観られることを想定してあえてホールスタッフにお伝えするように指示しました。
それだけで、客席ではお客様はそのシステムを瞬時に理解して頂き、パニック状態は徐々に納まってきました。
一方厨房では、次々と、次にどの商品を誰が作るかの指示を出して行きました。
「坂本さん、その後は、海老チリを3品、平井君は麻婆豆腐を2品、尾形君は五目麺を1本、宜しくお願いします!」
中華の場合は、調理を行う前にステンレスの皿に使用する食材を用意する慣習があります。
それを専門に担当するスタッフも厨房に設置していて、私の指示を聞いて瞬時に各担当者用に食材をセットしてきました。
これだけで、調理スタッフは何を作れば良いのかが瞬時に理解でき、ものの10分程度で厨房も落ち着いてきました。
この調理指示が、同時同卓に商品が提供できるように、それぞれのスタッフに別の商品を複数人前調理させ一度に数卓完了させるようにコントロールしました。
3人が一度に2卓から3卓分の調理をするように指示しました。
中華は3分あれば商品提供が可能です。
3分に1度、数卓分の商品が提供されるので、お店は落ち着きを取り戻していきました。
10分で10卓ほどは同時同卓提供を完了させることが出来たと記憶しています。
卓数は20卓程度でしたから、15分ほどでパニックは納まりました。
実はこのパニック状態を引き起こした原因は複数あります。
オープン前に行列が出来ている状況に店長がハイテンションになってしまったこと、一度に生産能力を超える客数を一度に誘導したこと、短い時間に大量のオーダーをとってしまったこと、提供時間が必要なことを最初に伝えなかったこと、たまたま3組目のお客様がビールをご注文して、ビールが冷えていなく、強烈なクレームがついて店長が対応に追われコントロールタワーが不在になり、そこから次々とクレーム連鎖が始まり、店長はますますパニック状態に陥ったこと、そして、最大のミスはデシャッパーまでもクレーム対応に駆り出され、厨房をコントロールすることが出来なくなり、商品提供が遅れに遅れ火に油を注いだ状態になったことでした。
この時、ホールでは何が起こっていて、厨房で何が起こっていたのかと言いますと、実はクレームの多くは商品が出て来ないという単純なことではなく、各テーブルにバラバラに商品が出て来ることで引き起こされる心理的負担が原因で起きているパニックでした。
具体的には、3卓と5卓と7卓に麻婆豆腐定食が、2卓と8卓にはホイコーロー定食がというように、同じ商品が違うテーブルにバラバラに出るといった状態で、食事の完了が見えない状態でした。
ですから、商品が届いたお客様は他の同席者を気にしながらゆっくりと食事をして、スタッフに「こちらの方の商品はまだですか!」と、クレームに近い強い要望を言い、待っている他のお客様も気を使いどうぞ気になさらずお先にと言いながら、明らかにイラつきその雰囲気をテーブル全員が共有し、店内のあちらこちらで同様なことが発生し、店内に伝播していき増幅されてしまいました。
厨房では、同じ商品のオーダーがテーブルごとに入っており、調理スタッフは“効率が良い”ので、同じ商品をまとめて調理するようになっていました。
なので、同じ商品があちらこちらのテーブルに出てしまい、同じテーブルのお客様が同じタイミングで食事を楽しみ終わらせることが出来なく、それがクレームの本質でした。
ですから私は、同じ商品のオーダーをそれぞれの厨房スタッフに調理指示を出し、一度に数卓のオーダーを完了させるように調理コントロールを行い、商品提供の前にお客様に告示をすることでパニックを納めました。
同時同卓提供の大切さの概念は当時の厨房スタッフ全員が理解していたと思います。
有名店の料理長クラスが何人も揃っていましたから、同時同卓提供を知らないとは思えません。
でも、同時同卓提供の本質を理解しているのかというと疑問が沸いてきます。
もし、理解していればこのパニックは、ここまで酷くはならなかったと思います。
同時同卓提供が出来ないと、何が起きてどのような心理状態なるのかを解説します。
先に商品を提供されたお客様は、通常同席者に遠慮してすぐに食事を始めません、その状況を見て同席者は気を使い「お先にどうぞ」となります。
ここで、お互いが気まずさを共有し、気まずさは共有することで増幅されてしまいます。
次に先に商品が届いたお客様は、同席者を気遣いゆっくり食事をします。
それを見て同席者はどうぞ気になさらずとなり、それを言われたお客様は益々気まずくなり、「こちらの商品はまだですか!」とスタッフに言うこととなり、「あっ、気を使わせてしまった」と、同席者は感じ益々雰囲気が悪くなります。
反報性の原理が作用し、この雰囲気が悪くなることに耐え切れなくなり、クレームとなっていきます。
反報性の原理とは、「人から何かしらの施しを受けた時、お返しをしなくては申し訳ないという気持ちになる」ことで、これは人類が特に日本人は本来強く持っている義理や人情のことを指します。
そこで、何かを返さなければとなりますが、実際には何も出来ないので気まずさが増長しクレームへと不満へと変貌します。
これが客席で起こっている本質です。
ここにお子さんが絡んでくると状況は更に最悪になります。
母性本能に勝つことなど絶対にできません。
厨房では、客席でお客様がどのような感情になっているのかを考えることもなく、そこに注意を向けることなくただひたすら、同卓同時を全く無視し同じ商品をただひたすら調理しまくり、結果、客席のパニックを増長させてしまいます。
ここに、問題の本当の原因があります。
厨房スタッフの立場では、同卓を優先するよりも同じ商品を調理して、それを終わらせる方が優先度は高くなります。
何故か?
それは、修行時代から親方にそのように教わっているからです!
同時同卓提供を知っていながら、それを完全に無視して調理都合を優先して調理を続けます。
何故、お客様の都合よりも調理都合を優先するのか、真剣に弊社の料理長に聞いたことがあり、その時の答えから多くの事に気付かされ学びました。
それは、その方が、格段に効率が良いからだと主張しました。
その方がいいと親方から教わった、実際にその方が効率的だ、須田さんが間違えていると言われました。
同じ商品を調理して次々と終わらせると、結果的に早く調理作業は完了すると主張してきました。
また、同じ調理工程を何度も行うことの煩雑さが無駄だ非効率だとも言っておりました。
いっぺんに炒飯を終わらせ、麻婆豆腐を終わらせ、海老チリを終わらせる方が効率的だと主張しました。
そこにお客様の都合もテーブルの状況も、ホールスタッフが感じるプレッシャーも共有していません。
同卓を一度に完了させる方がテーブルを早く回転させられること、実際には同商品調理は提供時間が長くなり、効率が良いということは間違いであること、教わってきたことは見当違いであることを、具体的に時間軸を説明しながら納得するまで何度も何度も説得しました。
その結果やっと同時同卓提供が可能となりました。
余談ですが、当時の私のお店は37坪67席の規模で、ランチの最高売上は37万弱です。
休日ランチのたった4時間で324食販売して達成できた売上です。
同時同卓提供を完璧にこなすことが出来て、テーブル回転率を極限まで高めることで、この結果になりました。
厨房スタッフ3名ホールスタッフ3名デシャッパー1名、プラスして私が洗い場担当での結果でした。
当時の優秀なスタッフに、本当に感謝しております。
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