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短編:【No Movie,No Life.】

僕には30年続けている“こだわり”があって。というか短いスパンでのこだわりはたくさんあって、例えば、土曜日は昼から餃子を作り夜はガンガンお酒を呑む。これは3年くらい続けたのですが、ある時に見たテレビ番組で「最強の完全食が餃子」という特集があり、確かに肉・野菜がしっかり入って、炭水化物の薄い皮に包まれた、素晴らしい食事で、主食がビールで、米食を制限していた僕にとっても完全食だと信じていた。この頃はスライサーとおろし金の二刀流で、毎週毎週週末にキャベツを切って、長ネギも細かくして、挽き肉と混ぜ、時にはエビを入れるなど、料理をすることがとても楽しく、多忙な毎日の気分転換に最適だった。ある年に、葉物野菜がとても高値となり、小麦の値段も高騰し、餃子の皮が信じられない値段となった時から、自分で作る餃子が店頭で買って来るモノよりも割高であることに気がついてしまい諦めてしまった。

週末の金曜日にカレーを食べる。ご存知、海軍カレーである。船や潜水艦で何日も過ごす海軍の皆様が、曜日感覚を忘れないためにと始めた風習。仕事漬けだった僕も、毎週金曜日の昼飯にカレーを食べるようにした。これは4年続けた。これを始めた当時は近所に、とある公共施設の社食があったため、500円でちゃんとしたカレーが食べられた。しかし転職を機に、安価で美味しいカレーが食べられなくなり挫折。いまでは700円を出しても、まともなカレーが食べられない。餃子同様に、材料費の高騰によって楽しみを奪われたカタチとなった。

さて話を巻き戻そう。30年続けている楽しみ。多分、タイトルを見てピンと来た方も多いだろう。かつてレコード店のキャンペーンコピーだった、No LIFE。音楽が無ければ人生はつまらない、そんな所だろうか。僕はさほど音楽に興味は無く、逆に、映画が唯一の娯楽と言っても過言ではない。
そんな僕のこだわりが、週末には最低でも3本、多い時には10本以上、映画作品を鑑賞する。フリー時代であれば、平日でも時間があれば映画館に逃げ込んで、集中して鑑賞ができたのだが、会社員になると土日休日に限定される。しかし週末の映画館は混んでいて、さらにはうるさくて、ポップコーンの匂いで鑑賞までの気持ちが滅入ってしまう。そこで僕の強い味方が“WOWOW”だった。いまならば他のサブスクもあるだろうが、見ない会社をいくつもサブスク契約してしまうと無駄な出費が増えてしまう。もちろん、BS、CS放送で他もあるのだが、上記と同じ理由で、ひと月に何本観るか判らないことへのランニングコストはかけたくない。だから1社だけ、映画に特化した有料衛星放送。

僕は、いまのマンションに越してすでに20年になる。つまりは前の住居でWOWOWの契約をした。引っ越した後もちゃんと視聴できていた。ところが、今年に入って急に視聴できない日が続いた。

共同アンテナの老朽化、不具合。雪や台風並みの強風、激しい雨。正月にも発生した大きな地震。様々な要因が重なって、観られないのだと思っていた。

ところが最大の理由が、それを管理する人がいないという人為的な理由だった。マンションの場合、管理会社に連絡するのだが、管理会社からJCOMに連絡、管理人や住人の不在時には対応できないから先延ばしにされる。マンションの多くの住民はBS放送など関心がないようで、不満の声を挙げない。故に誰も直さない。

2週間以上、映画が観られない僕は、心と気持ちのリセットも出来ず、逆にストレスが溜まってしまった。修理に来たJ:COM担当者は、我が家の前に設置基盤を替えたと言う。その2日後、また視聴が出来なくなった。もう管理会社に言っても何も解決ができないのだから、直接J:COMに連絡。するとその原因として見えたことがあった。しかし、それを解消するためには、さらに月3,000円プラスのランニングコストが必要だと知った。

なんだろう。WOWOWの契約、J:COMの契約、マンションの管理費用と重ね重ね月々支払っている費用でやっと観られる映画なのに、さらに追加でお金を払えと言う。僕から楽しみを奪っておいて、この仕打ち。…なんだろう…

呆然として、途方に暮れて、僕は月曜日なのにカレーを食べて、水曜日には餃子を食べた。そして過去に録画していたBlu-rayを引っ張り出して、平日仕事終わりの深夜に1本ずつ映画鑑賞するようになった。

さあ新年度が始まった。それでも僕の人生には新しいことは何ひとつない。希望に満ち、期待に胸踊らす毎日のために、僕らからこれ以上楽しみを奪わないで頂きたい。ささやかだが、それだけが願いだ。

     「つづく」 作:スエナガ

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