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短編:【日本人もビックリ!】

カレーのデリバリーをしている褐色肌の外国人が、すべてインド人だという偏見を持ってはいけない!

同様に、デリバリーをしているすべての人が、道をちゃんと把握していると思ってもいけない。

写真撮影やネタ収集には持って来いのまだ全部が葉桜になる、少し前の話。駅ひとつ先の道をぶらぶらしていると、明らかに迷子の配達員を見かけた。彼は明確に困っていた。観光地であるその街で、道行く優しそうな人たちに声をかける。が、外国人から「エクスキューズミー」と言われると、誰もがサッと避けてしまう。ぶらぶら暇そうな僕は、近づいて行った。

「どうしたの?」

自転車の前カゴに銀色の保温材バッグ。そこからカレーのような香辛料のスパイシーな香り。日本語は怪しいが、エプロンにはでかでかと『アサヒビール』のロゴ。

「ゴニョゴニョ」
必死に何か言っているが、配達場所がわからず迷子になったのだろう。自転車前方についたスマホで住所を見せて来た。

いくら近所に住んでいて、常日頃ぶらぶらしている僕だって、街の道や住所をすべて把握しているワケがない。そして良く外国の観光客に声をかけられる僕は、なんとなくのニュアンスで状況理解をする特殊能力があって、住所を見せられたら速やかに、自分のスマホで検索するという習慣がついていた。

自身のスマホ画面に地図が出る。確かにその町内はこの道の右手。番地を確かめる。こういう時に、日本人の叡智を感じる。『3−6』『3−5』と書かれた小さな住居表示プレート。きっと外国から来た配達員にはアンビリーバボーだと思う。

昔取った杵柄である。かつて漫画出版社の原稿取りのバイトを経験していた。昔はスマホなど無い!小さな地図帳と現地の交番、地図看板。近づいたら一軒一軒住居表示プレートで目的地に行く。

「こっちだこっちだ…」
住所からドンドンと横道に入る。
彼のスマホをチラッと見て住所を確認した時に、お届け先は『503』とか書いてあったような…どうみても一軒家ではない。このあたりで5〜6階以上の建物はアレか、コレか…

「ここじゃない?」
配達員が玄関と向き合う。
「ここ?」
「たぶんね」
「センキュー!デリバリー、ファースト・タイム!ファースト・タイム!」
興奮気味に親指を立てている。はじめての配達で、親切なオジサンにみつけてもらって良かったね。

「がんばってね」
そう言って、その場を後にする。

もちろん頭の中では『カレーの気分』なのは、言うまでもない。

     「つづく」 作:スエナガ

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