【忘れられない映画#1】伴奏者(仏・1992)

長い映画観賞歴の中で、もうほとんどその存在を知られてないけど個人的に忘れられない作品というのが結構ある。それを健忘録として記しておきたいシリーズ。

「なまいきシャルロット」でおなじみのクロード・ミレール監督作品。リシャール・ボーランジュとデビューしたばかりの娘・ロマーヌ・ボーランジュが共演して話題になった一本だったが、あんまり評判はよくなかった。しかし私にとっては印象深く胸に痛い作品である。

第二次大戦中、ドイツ占領下のパリ。幼い頃から母子家庭で育ち、ピアニストにしようと実母に厳しく育てられてきたソフィ(ロマーヌ・ボーランジュ)は、地味な性格のため華がないと評されコンクールで苦戦していた。毎日のように母に「こんなに苦労して育てたのにピアニストになれないなんて」と罵られる生活に嫌気が差した彼女は、人気ソプラノ歌手の伴奏者オーディションを受け、伴奏者として慰問コンサートでヨーロッパをまわることとなった。ソフィは密かに野心を燃やし、これをきっかけにプロのピアニストになることを夢見るのだった。

慰問は戦時中のためソプラノ歌手イレーヌ、夫でもあるマネージャーのシャルル(リシャール・ボーランジュ)、ソフィの3人という最低限のメンバーで決行された。華やかで自由奔放なイレーヌは毎晩のように社交場やパーティーに出かけ、軍に目をつけられないようにと心を砕く夫・シャルルと諍いが絶えない。ソフィはイレーヌに誘われ華やかな世界を知り舞い上がるが、次第にその中にいる自分が地味で場違いなことを思い知らされてゆく。

イタリアからイギリスへ船で渡る船上で、ソフィはレジスタンスの若者に口説かれる。結婚して一緒に反戦運動をしよう、と熱く夢を語る青年に心惹かれるソフィだったが、ピアニストになるという自分の夢をどうしても捨てきれず、断ってしまう。彼は別れを告げ船を降りていった。

イギリスに渡った3人は、お互いすれ違い最悪の時を迎える。

ソフィはイレーヌに伴奏者として扱われることに不満を抱き、いつまでも表舞台に出られないことに苛立ち始める。イレーヌは新しい彼氏との関係を深めシャルルをますます邪険に扱い、シャルルはより嫉妬を募らせ精神的に追い詰められてゆく。ついにイレーヌは彼氏と駆け落ちし亡命、残されたシャルルはソフィの目の前で死を選ぶのだった。

全てを失ったソフィは一人、また大嫌いな母の元へ帰らざるをえなくなる。3人の関係が終わった直後に戦争も終わった。駅は帰還兵やレジスタンスでごった返していたが、そこで偶然、自分を船上で口説いたレジスタンスの青年と再会する。彼はソフィに自分の行動が終戦を早めたと自慢げに語り、その隣には若い妻の姿が。ソフィは駅のホームで、全てを理解し悟った表情で茫然と立ち尽くすのだった……。

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ラスト、今まで彼女の表情をアップで丹念に追っていたカメラが、彼女から目の輝きが無くなった途端(名演!)まるで突き放すようにグンと離れてゆき、ホームの人混みの中に彼女が紛れてしまって“一般人”として決定的になってゆくシーンが忘れられない。

そう、彼女は何もかも捨ててピアノに人生をかけることもできず、嫌いな母を捨てることもできず、いつか自分を引っ張り上げてくれる人を待っている子供だったと思い知ったのだ。そう、イレーヌはそれを見抜いていた。ソフィは「自分を食う勢いで自己主張する子ではない」からこそ伴奏者として選ばれたのだ。

ちょうど将来に悩んでいた大学生の時に観賞したので、当時まるで自分のことのように感じられひどく落ち込んだことを覚えている。ラストのホームで何かを悟り茫然と立ち尽くすシーンを見て、「ああ、この子の青春時代は今終わったんだ」と痛感し、彼女の代わりとばかりに劇場で号泣したことを思い出す。

おそらくソフィはもうコンクールを受けないだろう。自宅でピアノを教え、母の面倒をみながら細々と暮らすに違いない。年老いて痴呆症になってますます暴言を吐くようになった母のために結婚も諦める姿まで浮かぶ彼女の人生。自分も母子家庭で育ち、母に親孝行しろと言われ束縛されていたので、彼女の目の前に広がる暗黒たる人生に私の人生も真っ暗になったような気がした。

ラストシーンで彼女のテーマソングとでも言うべき楽曲が流れる。モールァルトのオペラ「フィガロの結婚」から、庭師の娘バルバリーナのアリア「無くしてしまった、どうしよう」である。

無くしてしまったの。
どうしよう、一体どこにいったんだろう。
ああ、見つからない。
従姉(スザンナ)は、そして伯爵は
なんて言うだろう。

たったこれだけのアリアが、私はいまだに忘れられない。
スザンナから伯爵に送られた手紙についていたピンを無くしたバルバリーナが、庭を探しながら歌う地味なアリアである。

ピアニストになる夢を無くしたソフィは、これからもずっと下を向いて探し続けるに違いない。そして見つからなくて嘆き悲しみ人生を終えるのであろう。ぜひ20代の時に見ていただきたい名画である。

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