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寅さん(映画『男はつらいよ』シリーズ)のどこが好き?|分析・考察してみる

寅さん好きの人と、たまに出会う。


私はそこまで詳しくないニワカファンだけど、昔から
「いいよなぁ……あのキャラ、あの世界観」
とは思っていて。

いったい何が良いのか、どこが好きなのか
ちょっと言語化してみようかと。

コンテンツの内容ざっくり|で、どんな話なの?

映画『男はつらいよ』シリーズ概要

まずは、コンテンツの内容紹介から。

  • 制作:松竹

  • 原作・脚本・監督(一部作品除く):山田 洋次

  • 主演:渥美 清(あつみ きよし)

  • 第1作:『男はつらいよ』(1969年公開)

  • 最終作:『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年公開)

  • 作品数:50(渥美清の死後制作されたものが2つ)

こんなに作品数があるなんて……

「主演俳優の死後も映画が作られている」事実から、ファンが非常に多いことも伺える。

「男はつらいよ」は、山田洋次脚本・渥美清主演で68年に全26話のテレビシリーズとして誕生
(中略)
最終回、主人公のフーテンの寅がハブに噛まれて死んでしまうというエピソードに視聴者からの抗議が殺到したため、脚本を手掛けた山田監督が映画化を思いつき

松竹映画『男はつらいよ』公式サイトより

という制作経緯も面白い。

確かに、寅さんが死んじゃったら悲しいよね……

シリーズ当初から愛されていたキャラクターだったんだなぁ。


主要キャラクター10人

ここでは、重要な登場人物のみ紹介する。

  • 寅さん(車 寅次郎) 演:渥美 清
    主人公、中年の独身男性。
    テキヤ(祭り・縁日などで露店・興行を営む業者)という仕事柄、日本全国を回っている。

  • さくら(諏訪 さくら) 演:倍賞 千恵子
    寅さんの妹(母が違うという設定)。
    性格は穏やかで優しく、寅さんのことをいつも案じている。

  • ひろし(諏訪 博) 演:前田 吟
    さくらに惚れて映画第一作で結婚。
    実直で真面目な人柄。裏の印刷工場(タコ社長の会社)で働く。

  • みつお(諏訪 満男) 演:吉岡 秀隆
    博とさくらの子どもで、寅さんにとっては甥っ子。
    若い頃は悩みの多い日々を送る。

  • おいちゃん(車 竜造) 演:森川 信、松村 達雄、下條 正巳
    だんご屋(「とらや」、途中から「くるまや」)六代目主人。
    寅次郎とさくらの父・車 平造の弟。
    性格は、演じる俳優によって少しずつ違う設定に。

  • おばちゃん(車 つね) 演:三崎 千恵子
    おいちゃんの妻。
    優しくてお節介で、情にもろい性格。

  • タコ社長(桂 梅太郎) 演:太宰 久雄
    だんご屋の裏で「朝日印刷」を経営する。
    中小企業の経営の大変さを嘆きがち。

  • 御前様(ごぜんさま) 演:笠 智衆
    柴又帝釈天・経栄山題経寺の住職。
    寅さんことは幼い頃から知っており、いつも先を案じている。

  • 源公(げんこう) 演:佐藤 蛾次郎
    寺男(帝釈天で雑用をする下男)。
    舎弟のように寅さんを慕うが、失恋を笑うことも。

  • マドンナ 演:見目麗しい女優たち
    各回で違うが、後藤 久美子・浅丘 ルリ子など、複数回出演した方も。
    もれなく美女で、寅さんに惚れることが多い。


おそらく、これだけ押さえておけば充分かと。
私も彼ら以外はさほど知らない……


物語のあらすじ

ストーリーについては、公式サイトより引用。

物語は、渥美清演じる主人公"フーテンの寅"こと車寅次郎が、約20年ぶりに故郷の葛飾柴又に戻ってきたところから始まります(第1作)。

以後、寅次郎の腹違いの妹さくら、おいちゃん、おばちゃんらが集まるだんご屋を中心とした柴又と、寅次郎が訪れる日本各地を舞台に、そこで出会った"マドンナ"と恋愛模様を繰り広げながら、なにかと騒動を起こす人情喜劇として物語は展開。

毎回登場する豪華なマドンナ・ゲスト陣や、日本各地の美しい風景もみどころのひとつです。

改行・太字は筆者

長い旅からフラッと寅さんが柴又に帰ってきて親戚や近所を振り回し、マドンナと出会って恋に落ち、失恋してまた旅に出る。

……雑に言ってしまえば、そんな感じ。

アンパンマンや水戸黄門と同様に、『男はつらいよ』には毎回お決まりのパターンがある。

だが、そこが良いのだ。

登場人物たちが歳を取っていく中で毎回少しずつ変化する部分も、長年のファンを楽しませてくれる。


寅さんとの出会い|柴又に聖地巡礼へ

映画好きの父が家でよく見ていたのを、幼い私は横目で眺めていた。

実家には『男はつらいよ』のビデオ(DVDではなくVHS!)がたくさんあった気がする。

中学でできた大親友とは、色々な趣味が合った。

ディズニー、ジブリ、漫画、アニメ、ピーターパン、哲学、手紙、……その中の1つが寅さんだった。

もし彼女がいなかったら、そこまで寅さんを好きになってはいないだろう。

大学生の頃、ふたりで柴又へプチ旅行に出かけた。

寅さんの銅像を見て、ブラブラ歩いて、だんご屋さんで食べて、川べりに座ってのんびり話して。

行った場所や話した詳細までは覚えてなくても、

  • とてもワクワクドキドキ

  • 良い作品を愛せて、良い友達とそれを共有できて、嬉しい

という気持ちだけは今も鮮明に覚えてる。

そういえばトランク風のバッグにずっと憧れていて、高校時代に似たような色と形のバッグを買ったことがある。あれも寅さんの影響だったかもしれないな。


何に惹かれるのか? 寅さんの魅力の数々

私はいったい『男はつらいよ』のどこに惹かれているんだろう?

ちょっと考えてみた。

しみじみとした主題歌・世界観

この「ジャーン」というメロディーで始まる有名な曲(Youtubeの14秒から始まる部分)。

誰もが一度は耳にしたことがあるのでは?

なぜか懐かしさを感じる曲調で。私はほんの数年しか昭和を生きてはないのだけど、
「こんな感じだったのかなぁ……」
と思いを馳せたくなる。


おいちゃん、おばちゃん、タコ社長、御前様、……皆すごーく個性的なキャラクター
鉄板のセリフもあるから、寅さんファン同士で盛り上がれるのも良いところ。

最近はもうすっかり核家族の時代で、親戚付き合いもほとんどない。
私の実家は近所付き合いがほとんどなく、こんなに濃密な人間関係を知らない。

いざ巻き込まれたら超面倒で鬱陶しいとは思うが、やっぱり少しだけ憧れる。

ここ数年で私が擬似的な長屋付き合いのような生活をしているのは、そのせいもあるのかも。

先日は酢の貸し借りをして
「そう、これだよこれ! 私がやりたかったのは!」
と感じた。


大好きな名言たち

寅さんのセリフには、名言が多い。

ヤケのヤンパチ日焼けのなすび、色が黒くて食いつきたいが、あたしゃ入れ歯で歯が立たないよ……ときたもんだ!

たいしたもんだよ蛙の小便 見上げたもんだよ屋根屋のふんどし

結構毛だらけ猫灰だらけ

腹切ったつもりだ!ね!どう? こんないいものが2000円!
(中略)
よーし!1000円!! 今日は貧乏人の行列だ!
よーし!500円だ! 持ってけ泥棒!

よぉ、青年。相変わらずバカか?

労働者諸君!

それを言っちゃあ、おしまいよ

名言なのか迷言なのかは分からないが、私は大好きだ。

特に、2番目と3番目に挙げた口上はよく父が話していて、寅さん由来ということも分からないくらい、私にとっては身近な言葉だった。

言葉そのものには大した意味はないが、とにかく語呂が良くて面白い。企業のキャッチコピー・CMでよく聞く言葉と一緒だと思う。

こういうノリで育ってきているので、ついうっかり
「それはハラスメントでしょ……」
という時代錯誤の言葉を言いかねないのが少々困ったところ。

夫からは
「歩くハラスメント」
「二度と大きな会社で正社員はできないかもよ、今の会社は相当ハラスメントに気をつけてるからね」
などと言われてしまい、ショボーンである。


いやー、親しい間柄だからこそ言える言葉もあると思うんだけどなぁ……
クローズドな場で、お互いに理解した上で使うしかないか。
別に私も、誰かを傷つけたいわけではないし。


寅さんというキャラクターの妙

ファンの中には「寅さんの性格、志向、気質」に惹かれる人も多いのではないだろうか?

口は悪いがサッパリしていて、見ていて気持ちが良いからだ。

  • トランクひとつで旅に出る潔さ

  • 格好を気にしないというクールさ

  • どこにでも出かけていく度胸

このあたりを鑑みると、意外と寅さんってロックな人間だよなーとも感じる。

それでいて綺麗な女性にはめっぽう弱くて、すぐメロメロに。
しかし他人にあと一歩踏み込む勇気がなくて、女性から言い寄られても逃げてしまう。
その結果、どの女性とも結ばれることのない切なさが漂う。

とは言え、そもそも寅さんは恋人を必要としていない感じもする。

親に捨てられた過去もあり、母的な人間(「大いなる母」的な存在)に惹かれるのではないか?
さくらや団子屋連中の「いつでも受け入れてくれる」ところに、母性や故郷感を感じているのかもしれない。

こんな風に、いろんな論点で考えることができそうだ。


「ヒーロー」ではない主人公でどこか哀愁が漂うことも、他の物語とは一線を画している。

「妹・さくらのために良い兄になりたいが、俺はそんなことができるタイプじゃない。普通の社会人になろうとしても到底無理だ。
だから一緒にはいられない、定職にも就かずただ1人で流浪に生きていく人生なんだ」

というメッセージを、寅さんはいつも発している。

社会のはみ出し者で、他の大多数とは違う生き方のマイノリティ的存在としての寅さんの姿。

……そこに私は1番共感している気がする。

子ども時代にテレビを禁止されて圧倒的な疎外感を感じていたせいか、マジョリティ側でいたくない気持ちになるのだ。

でも流浪の生活もまた、そう悪くないもので。

寅さんを見ていると、
「一期一会の出会いと別れも素晴らしい」
「生きていりゃ悪いことも辛いこともあるけど、たまーにすごくいいこともある。そんな日のために生きてるのかもしれないよね」
という風に感じられる。

(後者は、実際に寅さんのセリフで似たようなものがあったはず)

辛いことも時々あるこの世の中で、とても優しい眼差しだと思う。


甥っ子・満男との信頼関係もすごく素敵。

満男の成長する姿と、寅さんの成長しない(変わらない)姿の対比。

真面目一徹のサラリーマン・ひろしと、流浪の寅さんとの対比も面白い。



でも何より、さくらの言う
「お兄ちゃん!」
というセリフが私は大好き。彼女の演技は本当に素晴らしい。

ただ、ここにハマりすぎると
「倍賞千恵子が常に "さくら" にしか見えず、『ハウルの動く城』などの他作品を全く楽しめない」
というデメリットが出てくるので注意でもある……


その日暮らしへの憧れ

父はよく言っていた。
「定年になったら、寅さんみたいに色々な場所に住んでみたいなぁ」
……と。

どこまで本気だったのか分からない。
もちろんそんな状態にはなっておらず、彼は今も故郷に定住している。

とは言え、旅好きなこともあって無意識下での憧れの存在ではあるんだろう。


そう、寅さんのように流浪の民で生きるのは簡単ではないのだ。

手続き的にも色々面倒だろうし、定住するよりも金銭的な負担は多くなるはず。
皆が皆そうはできないからこそ、多くの人達の憧れにもなりうる。

今の時代で言えば、トランク一つで旅をするミニマリストやノマドワーカーのよう。ある意味、時代を先取りしていたのかも?



定住しない生き方は、固定化された人間関係に縛られないのが大きなメリットだ。少々孤独さも漂うが、圧倒的な軽やかさがある。

家族を持ってしまうと、なかなかそんなことは叶わない。できるかもしれないが、周囲の理解がなければまず難しい行動だ。

普通の生き方をしている人は
「自分もそうだったらなぁ……」
と、寅さんに密かな想いを託しているのかもしれない。

"寅さんが自分の代わりに色々なところに行ってくれる"ような感覚で。


成功していないが幸福な人々

現代にはびこる
「成功しないと幸福じゃない」
的な思想。

偉人や成功者を持ち上げ褒め称える風潮も、毎日ひしひしと感じる。

でも本当にそうなのかな?
今の時代に特有の、偏った見方ではないか?

自己肯定感というか、

「まいっかこんな自分でも」
「日々はまぁまぁ楽しい」
「たまには良いこともあるさ」

という考え方を持つことは、メンタルを保つ上で大事だと最近よく思う。

だって皆が成功者になることはできないから。

もし全員が成功していたら、今度は成功度合いやスピードなどの競争になるだろう。


寅さん好きの親友から、ファンへひと言

ちなみに、私が親友に

「この前知りあった人、寅さん好きなんだよ! すごくない? 嬉しいよね。なんか伝えたいこと、ある?」

と聞いたら、こんな返事が返ってきた。

「ええー!
どのマドンナが1番好きですか〜?!笑
あー!選べないですよね分かりますう!」

って今度伝えといて👍

ファンの皆様、どうかな……?

よかったらコメント欄やTwitterなどで教えてほしい!


まとめ

寅さんは、私にとっての古き良き昭和を象徴するもの。
『ALWAYAS 三丁目の夕日』ではなく断然『男はつらいよ』派である。

寅さんのセリフの言葉尻を捉えれば、確かに差別的表現などもあるかもしれない。
時代に合わせて直した方がいい部分も、もちろんあるだろう。

でも良い部分は今にも充分活かせるし、時代を超えて愛される素晴らしい作品だ。

気になったら1作だけでも見てほしい。1つ見れば大体の流れがわかるので……それで気になったら全部鑑賞しよう!

というか、私も全作は見ていない。いくつかを断片的に覚えているくらい。
詳しい人の解説付きで見てみたいなぁ……


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