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#5 ゆるい幸せがだらっと続くと、悪い種が芽を出す:劇場

こんにちは!すがっしゅです。

「ソラニン」第5回です。ご紹介するのは、又吉直樹さんの「劇場」。
これめっちゃくちゃ好きでして…。

又吉さんと言えば、「火花」が芥川賞を取り一気に注目を集めましたが、
個人的には、(「火花」も超最高だったのですが)、この「劇場」を推したいな、と思ってます。


★夢を追う最中、彼女ができる話

主人公は、演劇作家。学生時代に演劇にのめり込み、自分のやりたい演劇をやるために、大学も行かずに上京。一緒に演劇にハマった親友と二人で劇団を立ち上げます。意気揚々と公演をはじめますが、全く人が集まらず、一気に貧乏生活。
「大衆受けする演劇」だけはやりたくない。あくまで自分がやりたい演劇を貫き探求する。そのポリシーを曲げずに演劇に打ち込むも、ネットでは酷評され、集まった数人の劇団員には一斉に辞められ、心身ともにボロボロでフラフラ歩いてたところを、街で通りかかった女子大学生と出会い、なんだかんだで仲良くなります。笑

そしてなんだかんだで彼女の家に転がりこむことに。同棲生活が始まり、
言葉には出さないものの、実質お付き合いが始まります。今までは一人で夢を追っていた彼ですが、一緒に生活する彼女ができたのです。


★居心地が良すぎた生活

彼女との生活は、彼にとって居心地の良いものでした。書いた台本を見せると「スゴイ!」「天才!」と感動してくれるし、演劇や創作に関して独自の哲学を語っても「スゴイ考え方!」と褒めてくれます。何をやっても笑ってくれる彼女と過ごすのは、居心地が良いものでした。

ただ、居心地が良すぎた一方で、彼が感じるのは焦燥、負い目、嫉妬。
・演劇では相変わらず結果が出ない。稼げない。
・お金も彼女がくれるし、食べ物は彼女が作り置きしてくれている。
・負い目があるのに、それを食べ、もらったお金で演劇雑誌や小説を買う。
・雑誌の中の売れてる演劇作家を見て、「大衆向け」と批評し、嫉妬する。
・彼女の男友達にも嫉妬。知らないところで悪口を言われてるかもと不安になる…。

そして、その負の感情のはけ口になるのは、彼女。
イライラをぶつけて、ケンカし、不安になり、仲直り、の繰り返し。
状況が変わらないまま、二人とも年を取り、彼女は大学を卒業。
彼は相変わらず、何も変わりません。

居心地が良すぎた彼は、好き勝手に演劇をやり、彼女の笑顔や褒める言葉によりかかるだけ。彼女には、焦りとストレスがどんどん積み重なります。

居心地が良すぎた生活が、彼の夢も、その生活自身も、蝕んでいくのです。


★「やりたいことをやること」と「好きな人と一緒にいること」

好きな人とずっと居心地の良い家で過ごしていると、
ついその幸せな環境に甘えてしまうものです。

「この生活さえあれば、もういいや」と開き直って、彼女と自分の生活を守っていく方にシフトし、働き口を探すのなら全然OKなのですが、

やりたいこと・叶えたい夢は絶対に捨てられない、諦められない。
でも彼女との居心地の良い生活も守りたい。となるとハードルは高いもの。
そんな不安定な生活の中で「一緒にいること」を選択する(現実的に言うと、結婚する)ことは、彼女にとっては難しいものです。

どっちも手に入れるために死ぬ気で頑張ることができれば良いのですが、
居心地の良い環境だからこそ、甘え切って、頼り切って、
だらだらと彼女との同棲生活に安住してしまう。
でも夢への思いは捨てきれない。
そうなると、「やりたいこと」と「好きな人と一緒にいること」
どちらかを捨てるしかなくなるんですよね。

両方を手に入れるためには、居心地の良さに安住してはいけません。
本気で、死ぬ気で頑張って、やりたい事で食っていくしかない。


★劇場で実現できることは、人生でも実現できる。

この「劇場」は、そうした男の弱点と決意を描いた作品です。

「夢を追う」ということって、
何かと「トレードオフを迫られる感」があるなぁ、と思っていて。
夢を追えば、
・安定した収入は捨てなきゃならない
・( ↑ 故に)結婚を捨てなきゃならない
みたいな。
夢を追う代わりに、諦めなきゃいけないことも多いですよー
ということが一般に言われることが多いなと思います。
(言ってくるのは夢を諦めた人たちだと思ってますが)

確かに「夢を追う」ことは大変で、犠牲にすることも多いと思います…。
二兎追うものは一頭も得ず、といいますよね。
だけど、
それってただ諦めてるだけ、というか、甘えてるだけだと思うんですよね。

恋愛を大事にしながら、夢を叶えることだってできるはず。
ただ居心地の良さに安住してるだけ。
パートナーからもらうエネルギーを、夢に向かう力にできず、
ただ自らの「安心」に変えているだけ。

私はこの甘えを、「ゆるい幸せ」と言い表しています。
※マガジンの名前にもした、映画「ソラニン」(マンガ原作)の主題歌「ソラニン」(ASIAN KUNG-HU GENERATION)から引用してます

このゆるい幸せ。居心地が良いからだらっと続いちゃうのですが、
それでは、いつか必ず、どちらかを失います。
どちらも失うかもしれない。
なぜなら、そのゆるさは「依存」になり、「負担」になってしまうから。
だらっとしたゆるい幸せが続くと、必ず悪い種が芽を出してしまう。

だから、二兎追って二兎得ればいいじゃないか!と思うんです。
ゆるい幸せにおぼれずに、夢を叶えるために努力し続ければ、
きっと両方手に入れられるはずです。

作中に、「劇場で起こることは、実際にも起こり得ることやねん」という趣旨のセリフがあります。その通りやと思います。
頭で描くストーリーは、必ず現実のものにできるはずです。


「劇場」を読むと、そんな、
「叶えたいこと全て叶えて見せる!」という決意を新たにさせられるような感覚を感じさせられました。本当に素晴らしい作品だと思います。

一文一文が超リアリティあって、最後の4ページ読むだけで泣けます。笑
唯一リアリティがないのは、そんな浮浪者がばったり女子大学生と付き合えるか…?という点だけですかね。笑
(まぁ小説は、ちょっとリアルから浮いてるくらいが丁度いいかと!)


以上。ぜひ読んでみてください!
「ソラニン」第5回「劇場」でした。読んでくれてありがとうです!

ではまた!

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