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仕事とシングル育児。両立のカギは「切り替え」「中長期的な投資の視点」――起業家・田村梨江さん

フリーランスで働きながら妊娠・出産・育児と向き合っている方への、不定期インタビュー連載。第6回は、HANGOUT COMPANY株式会社 代表取締役の田村梨江さんです。バリッバリに働きながら、シングルマザーとして5歳児の子育てもされています。

連載タイトルに「フリーランス」と冠しておきながら、この方は厳密にいうと、経営者。でも、自分自身で仕事の舵をとり、働きながら子育てをしている点では、通じる部分も少なくないはず。

なにより、大変なはずなのにいつもめっちゃ楽しそうに働いて、愛しそうに子育てしているタムリエさんの話を聞いてみたくて、オファーをしました。

子どもはほしかったけれど、イメージはできなかった

――まずは、いまのお仕事について教えてください。タムリエさんが経営するHANGOUT COMPANYとは、どんな会社ですか?

簡単に言うと、フリーランスで活躍するクリエイターやアーティストの代わりに、マネジメントなどを請け負う会社です。たとえば、SNS運用やプレスリリースといった広報業務から、依頼元とのスケジュール調整や金額交渉、個展・イベントの会場手配など、相手によって担うタスクはさまざま。私がそういうことを引き受けるから、そのぶんクリエイターには自分のやりたいことに集中して、その才能を最大化してもらいたいと思っているんです。

そのほかに自社事業として、BtoB向けオンラインウェルネスコミュニティ「BRST(ブレスト)」や、福岡県のパーソナルトレーニングジム「CRATE GYM」、スノーボードメディア「BACKSIDE」なども運営しています。

――では、妊娠前はどんなふうに働いていましたか? 息子さんはいま5歳ですよね。

とにかく忙しくて、かなりぐちゃぐちゃな生活をしていました(笑)。HANGOUT COMPANYを立ち上げたのが2014年で、妊娠したのは2016年。そのころは経営者をやりつつ、別の会社の取締役も務めていたんです。

――そんな忙しい状況で、妊娠することにためらいはありませんでしたか?

子どもがいる人生のイメージは、全然できていませんでしたね。子どもを持たずに一生を終えるんだろうなと、勝手に思っていたくらい。子どもを産んだら、自分のアイデンティティが「お母さん」になってしまう気がして……「田村梨江」から「〇〇くん/〇〇ちゃんのママ」になる恐怖がありました。だけどその一方で、ほしい気持ちもあったはあったんです。そんなあいまいな状態だったから、妊娠したときはすごくびっくりして。とてもうれしかったけど、なんだか不思議でした。

――すごくよくわかります。私は明確に「いずれは子どもを持ちたい派」でしたけど、自分のアイデンティティが揺らぐんじゃないかという恐怖はありました。

私が子どもを持つ前に書いた記事

ときにシングル育児がしんどくても、トータルでは幸せ

――妊娠中はどんなふうに過ごしたんでしょうか。

つわりがまったくなくてすごく順調だったから、しばらくは自分事じゃないような気持ちでした。ずっと普通に仕事もできていたし、そのせいか母としての意識みたいなものも、なかなか芽生えなくて。臨月に入り、地元に戻ってからようやく、少し気持ちが変わったような気がします。でも、リモートでもかなり仕事ができちゃっていたおかげで、現場から離れる不安はあんまりなかったですね。

――好きな仕事がいつもどおりできたのはいいことですね。産後はどうでした?

3ヶ月くらい実家で過ごして12月に東京に戻ってきたら、家の近くでなにやら工事が始まっていたんですよ。それが、なんと新設の無認可保育園! ちょうど募集が始まっているというから、下調べもまったくせず、すぐに申し込みました。でも、ラッキーなことにその保育園がものすごくよかったんです。英語教育をがっつりしてくれるインターナショナルスクールで、自由で楽しくてイベントもいっぱいあって、家から300mしか離れていない(笑)。保活に関しては本当に運がよかったです。

――それは本当にスーパーラッキーですね……!

それから年が明けて、夫とは別居をすることになりました。そのまま秋に離婚したので、息子はお父さんの顔を知りません。でも、子どもにとっては「いないのが当たり前」だから、早く決断したのはよかったかなと思っています。私も、自分で選んだシングルの道だから、ワンオペは覚悟のうえ。瞬間的に子育てがつらいときはあるけれど、落ち込むことはあんまりありません。切り替えが早いほうなんだと思います。

――子育てでしんどいとき、どんなふうに切り替えるんですか?

「そもそも子どもを持たない人生を歩むと思ってたのに、授かったこと自体がめちゃくちゃラッキー!」みたいな。望みどおり子育てできていてすごく幸せなんだから、ワンオペで多少つらくても、トータルで見ればプラスだよねって考えています。物事って、なんでも解釈次第だから。

子育ては子育てとして、自分の人生もまっとうしたい

――では、子育てと仕事の両立について聞いていきたいです。そもそもマネジメント業務は、多くの人とコミュニケーションや調整が発生するし、タイミングが選べないこともあるだろうし、子育てとは相性が悪そうです……

めっちゃ悪いです(笑)。なので、自分の状況や暮らしぶりを周囲にアピールして、ある程度はこちらに合わせてもらうようにしています。「子どもがいる夕方~夜はレスポンス悪くなっちゃうけど、平日はそのぶんなんでも対応しますから!」的な感じですね。

――それって、タムリエさんとクライアントに信頼関係があるから成り立つかたちですよね。周りとのコミュニケーションで心がけていることってありますか?

できるときは100%以上の気持ちで返すこと、ですかね。打ち合わせに子どもを連れて行くしかないときはご迷惑をかけるかもしれないけれど、ほかの部分では相手のリクエストに100%以上応える。あと、子育てでいろんな制限があることを、申し訳ないと思いすぎない。周りに気を遣いすぎて萎縮すると、パフォーマンスが落ちちゃうじゃないですか。それってただの悪循環だから。だったら、ご迷惑をかけていることは認めつつも、気持ちを切り替えて仕事をバリバリ進める。それが私のやるべきことだと思っています。

――確かに、そういうメリハリは大事ですね。とくに大変だった時期とかありますか?

子どもが1歳くらいのときかなぁ。保育園も行きつつ、夜はシッターさんを頼んだりもしてたけど、出張は連れて行くしかなくて。でも、飛行機とか新幹線に乗ったら、赤ちゃんだから大騒ぎしちゃう。周りに申し訳なかったし、そうやってめちゃくちゃ働いているのに仕事もさばききれなくて、本当に大変でした。

――それだけ大変な思いをするならいったん仕事を減らそう、とはならなかった?

なりませんでしたね。仕事が好きだから、子どもを理由にあきらめたくなかったんです。子育てはしているけれど、それはそれとして、私は私の人生をちゃんとまっとうしたいし。だから、困ったときは何かやり方を模索するようにしていました。それでうまくいく手段が見つかったら、後に続く人たちの希望にもなる、みたいな使命感もあったと思う。

子どもが2歳くらいのときには、4日間の名古屋出張に連れて行ってみたら、案外なんとかなったんですよ。もちろん現場に同伴すると仕事にならないから、現地で一時預かりを探して。そのやり方で、いろんな子連れ出張をしています。

――現地の一時預かりは、どうやって探してるんですか?

東京でお願いするときと一緒ですよ。ネットで探して、できるだけ口コミをチェックして。でも当日ぶっつけだから、子どもと相性が合わないことはあります。沖縄で預けた施設はとてもよい方が見てくださったんですが、おもちゃが乏しくて……朝預けてから夜までずーっと楽しめずにいたらしく。かわいそうなことをしたなと思って、私もメンタルをやられましたね……。でも、同じように預けてめちゃくちゃ楽しく過ごしていることもいっぱいあるんです。だから「今回は本当にごめんね。次からはおもちゃがどれくらいあるかもチェックするからね!」という感じで、次に活かしています。

時間とお金の遣い方を「中長期的な投資」の視点で考える

――ここまでお話を聞いていて、無認可保育園にシッターさん、出張先での一時預かりと、お金の問題がついてまわるなと思いました。

そうですね、仕事を続けるためにお金がかかっちゃうのはもう仕方ないです。でも、投資的な目線で考えれば、間違っていないと思っています。預けるためにお金はかかるけど、そうやって確保した時間で仕事をすることで、将来のキャリアや報酬につながる。個人事業主ならなおさら、そういう視点で物事を考えたほうがいいですよね。

――わかります。私も、長男が0歳のときはシッターさんに預けて働いていたので、費用が月々10万円以上かかったりしました。でも、たとえ収支がプラマイゼロになったとしても、実績は残りますもんね。

そうですよね。時間とお金の遣い方を、中長期的な目線で考えたほうがいいなって思います。その瞬間は子育てと両立するのが本当に大変かもしれないけど、人生は戻ってこないし。

――「働く=短期的にお金を得ること」だけを目的にしないほうがいいのかもしれませんね。私も一年目はシッター支出が多かったけど、以降は子育てしながら年収を増やせています。中長期的にはプラス。

あきらめないで探せば、いろんな工夫もできますしね。そうやって親が楽しそうに生きていたら、子どもにもいい影響があると思います。

あと、必要経費つながりでいえば、家事代行サービスもなくてはならない存在です。週に一回お掃除に来てもらっているんですが、部屋が勝手にきれいになるだけで、気持ちのゆとりが全然違うんですよ! すべての部屋の掃除と洗濯物たたみ、水回りやおもちゃの片づけなんかもやってもらって、月に5万円くらい。これは本当に、去年遣ったお金で一番いい投資だったんじゃないかなと思ってます。

――そのほか、助けられているサービスなどはありますか?

サービスじゃないけど、保育園のママ友にはいつも本当に支えられていますね。私自身は自分からママ友を作れないタイプなんだけど、息子が誰にでもガンガンいくタイプだから、自然と仲良くなって(笑)。どうしてもシッターさんや一時保育が確保できないときは、「〇〇くんと一緒に、うちの子も連れて帰ってもらえませんか?」って、息子を預かってもらってるんです。で、仕事が終わったらその子の家に子どもを引き取りに行く。もちろんお互い様だから、逆にうちが預かるときもあります。

――ありがたい関係性ですね。そして、誰にでもガンガンいく息子くんが頼もしい!

私は子どものころすごく人見知りだったんだけど、息子は真逆なんですよね。それこそ、私の仕事で連れまわされているのもあって、いろんな大人と接しているから、コミュニケーション能力がどんどん磨かれている感じがします。

――では最後に……産前に危惧していた「自分のアイデンティティが揺らいじゃうかも」問題は、どうでしたか?

揺らぐもなにもなかったです。母になったところで、私は私という一人の人間として、ちゃんと成長し続けなきゃいけないんだなと思うようになりました。子どもを産む前は、極端に言えば「母は子どもに対する全責任を負わなければならない」「母親をまっとうしなければ」みたいなイメージを持っていたんですよ。でも実際に生まれてみたら、息子は一人の立派な“個”だった。子どもは子ども、自分は自分なんだなと、かえって強く感じるようになりました。だから、私と息子の別々の人生を、これからも楽しんでいきたいと思います。

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