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2023ファジアーノ岡山にフォーカス39『 育成と信頼の木山式~深層~ 』J2 第28節(A)vs清水エスパルス


2023 J2 第28節 清水エスパルス vs ファジアーノ岡山
IAIスタジアム日本平

 痺れる熱さの中迎えたアウェイ清水戦。20〜28節を終え、次節は29節となる。30節が迫り、一気に終盤戦という意識が強くなってくる。それに伴い岡山の置かれていく状況の厳しさを改めて突きつけられる。それはまた清水にとっても同じことかもしれない。前任の原 靖元強化部長(現町田)の影響もあり、距離が近くなった両チームの試合。

 岡山サポーターが、負けたくないという気持ちと応援したいという気持ち、そういった相反する気持ちを抱いてるクラブが、今の岡山にとっての清水だ。残念ながら岡山の27河井 陽介や33川谷 凪、7チアゴ・アウベス、清水の31梅田 透吾といった両チームに関係のある選手が不在の中、行われる試合ということで、何処か寂しく感じる。

 しかし、一度繋がった縁や印象が大きく変わることなく、記憶、想い出として心には残っていく。過去には、石毛 秀樹や片山 瑛一といった選手も所属した通り、シーズンを重ねる毎に結びつきが強くなっていくことは間違いない。昇格に向けての試合という事で、ぶつかり合う、その激闘を振り返っていきたい。



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 タイトル画像は、sakuramochi925様の画像を拝借いたしました。木山監督が寝てしまう事になってしまった町田戦。そして、この試合も寝てしまっていたように何もできなかった岡山。という想いからイメージがマッチしたので、この画像にしました。もちろん、その先を見据えています。


1、試合寸評~完敗~


 立ち上がりは、両チームアグレッシブに入る。しかしそれ以降は、基本的に清水が徐々に押し込むようになっていく。ただ、崩す抑えるとまで行かず、両チーム決め手を欠き前半を終えた。部分的には、岡山にも良い所があったが、前半通してみれば、清水の守備の手堅さが光った。

 後半に入っても岡山は、攻撃の糸口を見つける事ができず、強度の高い守備と1人当たりのプレーエリアの広さという面で、清水が岡山を大きく上回る。本来の岡山の武器である選手1人1人のフィジカルの強さや個の力で、優勢を得ることができず、一つ一つのプレーでの敗北を積み重ねた。

 清水とサッカーが似ていた部分もあったため、ミラーゲームのように1対1が、いつも試合以上に求められた事で、1-0というスコア以上の差を感じた試合となってしまった。似た負け方として、アウェイ水戸戦という事もあり、秋葉スタイルの影響力を感じた。

 10カルリーニョス・ジュニオの個人技によって、岡山のゴール前を正面突破により突き破られた失点。岡山は、5柳 育崇を前線に上げて、最後まで諦めずに攻めたが、結果に繋がるどころか、内容でも押し返すまでは至らず、そのまま敗れた。

 試合後に、木山 隆之 監督が、ペットボトルを蹴って、器物破損により、清水サイドに迷惑をかけただけではなく、町田戦で、ベンチ入りできないという事態に陥った。自業自得で、自爆とも言える醜態だが、平常心であれば、そこにペットボトルがあっても蹴る事はないはずだ。

 そこで、今回のフォーカスでは、何故ペットボトルを蹴ってしまうほど、フラストレーションが足まり、平常心を失ってしまったのか。そこにフォーカスを当てて行きたい。


2、根底にある誤認~矛盾~


 改めて、清水と対戦してみて感じた事は、実は、岡山の守備強度は高くないという事である。岡山の選手が攻め切れなかった理由として、清水の各選手の守備範囲の広さや強度の高い守備を前に、シュートまで辿り着けなった事にある。

 つまり、岡山が練習では経験したことのない高いレベルの守備に対して、岡山が、攻撃で、優位に立てる、勝てる場面というのは、今季の試合の中で最も少なかった。そういった堅守の清水の守備を前にした時に、岡山の守備強度は、実はあまり高くないという事が分かった。

 では、何故ここまで守備がリーグで安定しているのかという事であるが、5柳 育崇と23ヨルディ・バイス、43鈴木 喜丈の3人の対人守備の個の力とチームとしての安定感のあるボール保持にあると言える。

 岡山は、ポゼッションを主体としたサッカーでこそないが、敗戦が少なく、失点が少ない理由として、DFラインから着実に前進していく力が、劇的に伸びた事にある。歴代のファジアーノ岡山の主な前進は、影山ファジを除いて、基本的にロングパスが主体である。

 ただ、今季は、自陣でのボールロストが劇的に減った中で、ロングパスに頼らず前進にできることで、結果的に相手チームに攻められる回数が減っている。同時に、岡山が攻める回数も減ってしまった事で、スコアが動きにくいチームとなってしまっている。そこが、岡山の強さであり、弱さでもある。

 この試合でも岡山の清水のプレスを回避して、前進していく攻撃は安定感があったが、守備強度の活きる密度の高い、清水の深い所に進入した時に、そこからの崩しが清水には通用しなかった。

 清水に対して、有効であった18櫻川 ソロモンにロングパスを集めるという攻撃にシフトすれば、また違った内容や結果になったかもしれないが、この試合は、苦し紛れのクリアも多く、清水のゴールに近づけば近づくほど、清水の守備の圧が凄く、岡山が、前進(侵入)する難しさに直面し続けた試合となった。

 14田中 雄大のアジリティで突破するシーンや立ち上がりの22佐野 航大のシュートなどがあったが、どちらも単発で、継続的に攻めるということができなかった。これは、岡山のサッカーが悪いというよりは、単純に岡山の実力不足であった事が大きい。

 清水のサッカーに似たものを感じた部分こそあるが、木山ファジとなって一貫して言える事は、守備強度が、実はあまり高くないという事だ。清水のサッカーのように、確実に攻撃の芽を積む守備というのは、木山ファジとなって、最も苦手としている部分である。

 その理由として、1点差で逃げ切るのではなく、追加点を奪いに行くというサッカーを目指していることが根底にある。昨シーズンの前からハイプレスも「守備」というよりは、実は、「攻撃」であり、ボールを奪って、得点を奪いにいく事が一番の理由である。

 攻撃を第一に考えるあまり、守備を意識した部分に岡山は、隙がある。全員守備全員攻撃、ハードワークという「岡山スタイル」があるおかげで、守備に回った時でも守れている側面が強い。

 岡山のサッカーが、全体的に「受動的」であるのは、組織的な「守備」が「脆弱」であるからであり、「個」と「意識」に依存してしまっているため、高い位置や中盤に奪うという事が難しくなっている。

 チームの中で1人として、チームに合わせて守備をすることが得意であった喜山 康平と決別した理由としては、個に合わせてチームとなっていく過程で起きた動きであり、多くの方が、岡山にスタイルがないと感じるのもこの部分が最大の理由である。

 「組織的に戦うことで個を活かすサッカー」から「個を活かす中で組織的に戦うサッカー」へとシフトしていく中でのメリットとデメリットの違いが、より鮮明になってきていると感じる。微妙な表現の違いだが、この差が、木山ファジの本質である。

 岡山が敗れた時に感じるチグハグ感の正体は、個が噛み合っていない状態が表面化している状態で、逆に良い時は、個が噛み合っているから組織的に戦えているようにみえている。

 今季の木山ファジというのは、組織として、個の力というよりは、個の判断が活き易い組織作りがより完成形に近づき、選手間とのコミュニケーションが、必要最低限でも守れたり、攻めてしまってしまっている。

 この部分が、内容や手応えに感じてしまい、問題や課題クリアへの着手が遅くなってしまい気が付けば、ほぼ30節を迎えてしまっていた。サポーターが感じるチームの「熱」や「一体感」というのは、チームの意識を「共有」した時に感じる事が多く、そういった面を「個」で作り切れなかった。チームとしての強化部も補強による後押しが足りなかった。怪我や代表による離脱者の多く、「個」で「熱≒一体感」を作り出し切れなかった。

 そういった煮え切れない中途半端さや後味の悪さ、表現の難しい気持ちの試合、引き分けという試合を多く作り出してしまった。

 行き着く所は、チーム全体の「個」を牽引できる7チアゴ・アウベスや元岡山のミッチェル・デュークのような「圧倒的な個」の不足であり、残り試合こそ少ないが、ここに着手できれば、まだ1チャンスはある。それだけの下地はできている。

 岡山は、守備的なチームではなく、攻撃的なチームであり、守備を改善したいのであれば、監督交代しか道はなく、木山ファジは、攻撃的に行く中でも守備が安定した戦い方もできるチームへと成長した。後は、結果に繋げる圧倒的な「個」。ここだけなんだと清水戦を見て、改めて岡山の強さや弱さは何かを感じた試合となった。


3、抑えきれなかった感情~我慢~


 人が不満を感じる時は、様々なケースが考えられるが、木山 隆之 監督が、ペットボトルを蹴った後の事を考えられない、もしくは、その衝動を抑えられない。そういった冷静さを欠いて、感情的になってしまったのか。

①1つは、思い描いたことができているのに結果がついて来ない時。

②もう1つは、想い描いたこともできず、結果もついて来ない時。

 この試合には、関しては様々な意見があり、上記の2ケース以外の事も理由であることも考えられるが、私は、前者の①であると考えたい。

 失点のシーンに関しても岡山の選手の判断の隙から失点することは、木山ファジになってから何度もある事であり、「そういうチームである。」と認識していかないと、岡山の守備や攻撃、サッカーはとてもではないが、見るに堪えない筈だ。

 こういった個の判断に救われた試合もあるが、今季の栃木戦のオウンゴールやプレーオフでの先制点を許した時のように、組織の中で考えると、人によってはありえないミスと感じる失点パターンがあるのも木山ファジだ。

 恐らく、ここは、選手か監督が変わらないと直せない「個性」に近い。木山 隆之 監督からすれば、そこを抑える事により、「個性」が消える事を嫌う傾向にある。だからこそ、木山ファジは、選手の自立と成長を促し、ミスを恐れないチームとなった。

 2023シーズン。思う様な結果が出ていない事もあるが、自由度の高い「個人戦術」で、相手に勝てる部分もあった中で、勝つためにもう少しだった。そういった試合が多かった中で、清水戦は違った。

 岡山が、本来武器にしたい「個の力」を「個の力」で捻じ伏せられてしまった。「個の力」を岡山史上最も愛する監督だったからこそ、この悔しさは、想像以上ではないだろうか。歴代の監督は、岡山が「個の力」で負けている事を前提にしているからこそ、開き直って、守備からのアプローチで、チームを作り、組織的に戦って来た。

 木山ファジは、その「個の力」をベースとしたチーム編成と戦い方を選択してきた。「頂」という目標設定で、開幕を迎えたように、私達サポーターが思っている以上に、選手の可能性を信じてスタートした筈だ。

 木山 隆之 監督は、人に対して不満を、あまり口を出さない(ぶつけない)監督だ。試合中にあまり選手に対して、怒ったり、指示を細かく出さないのは、やはり「選手の可能性への信頼」と「選手の成長を促す」という2つの理由が大きい筈だ。

 成長の促せる指導者の特徴としては、過度に指示を出さず、その人の「気付き」の機会をしっかり作る事にある。人にもよるかもしれないが、32福元 友哉が、プロ初ゴールを決める事ができたのも、木山 隆之 監督であったというのも大きいかもしれない。

 木山 隆之 監督は、選手の成長の機会を創出することができる監督でもあり、選手の成長に気付ける監督でもある。

 歴代の監督のように、監督のカラーに合う選手という括りで選手を選ぶことも押し付ける事もなかった。9ハン・イグォンのように、実力があっても活かせなかった選手もいるが、41田部井 涼、44仙波 大志、14田中 雄大、22佐野 航大、48坂本 一彩といった若い選手が、実力者が揃うJ2でも戦えているのは、木山 隆之 監督だからである。

 結果だけ考えれば、確かにもっと合理的な戦い方はあるはずだ。そこに気付いていても、隙があっても、今の岡山の戦い方を選択できる、我慢できる監督。それが、木山 隆之 監督だ。

 だからこそ、この試合の木山 隆之 監督の不満の最大の理由は、岡山の選手が、清水の選手に対して、「個の力で通用しなかった部分が多かった事」。選手以上に木山 隆之 監督は、選手の可能性を信じているからこそ悔しかったのではないか。

 口に出さないからこそ、溜め込んでいたものが、暴発してしまった。そう考えると、腑に落ちる。木山 隆之 監督にとっても心の休息は必要である。

 清水に迷惑をかけてしまった事は、岡山サポーターの1人として、謝罪したい。それだけ、許されない行為ではあったのも事実。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいである。ただ、それだけ清水が強く、岡山が弱かった。そういった試合でもあった。

 少しでも岡山が清水に追いつけるように、岡山サポーターの一人として、岡山をこれからも信じて応援していきたい。

 無駄な試合、無駄な過ち、無駄なプレー、無駄な敗戦、無駄な失敗。無駄で終わるかどうかは、当事者次第である。

 首位の町田に対して、今回の清水戦での経験をどう結果に繋げて行くか。ラストチャンスの8月。勝負の8月ステージの開幕だ。暑いだけではなく、熱い8月となって欲しい。

 何か起きるなら町田戦だ。毎試合そういった気持ちで、スタジアムに足を運んでいる。そういった方も多いのではないか。そういった方々と、一緒に応援できる本日(2023年8月5日)の試合も楽しみである。

文章・図=杉野 雅昭
text・figure=Masaaki Sugino


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