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なぜあなたの文章は流れがギコチナクなってしまうのか:情報構造の話

(もしくは、あなたにもわかる自然な文章の流れの作り方)

文には、文を組み立てている文法的な構造(統語構造)と、話の流れに従った情報構造があります。

英語の統語構造の基本は、主語の後ろに動詞をおく、ということです。英語では文を構成する要素の役割が、文中でのその要素の「位置」によってあらわされます。動詞の前にあるものが主語です。動詞の目的語は動詞の後ろにあるものです。なので、同じ単語を使っても、位置が違うだけで、まったくその関係が変わってしまいます。

The cat chased the rat.(猫がネズミを追いかけた。)
The rat chased the cat.(ネズミが猫を追いかけた。)

主語 + 動詞 + 目的語

動詞の前に来る要素が主語と理解されます。

日本語は、助詞で、文中の要素の関係を表します。

猫がネズミを追いかけた。
猫をネズミが追いかけた。

このように、英語と日本語では、文を組み立てる仕組みが違っています。この文を組み立てる仕組みのことを統語構造といいます。

では、情報構造というのは何かというと、文で伝える内容(情報)の並べ方の仕組みです。人はコミュニケーションを通じて、お互いに情報をやり取りします。相手が知っていることを教えてあげても相手は特にうれしくはありません。「で、何?」と言われてしまいます。相手の知らないこと、新しいこと(新情報)、を教えてあげると相手は「なるほど」と思ってくれます。しかし、突然、知らないことを言われても、それが何なのかわからず、困ってしまいます。ですから、知っていることとの関係で新しいことを付け足して話をしていきます。つまり、情報構造の基本は、知っていること、既知情報(Given Information)、の後ろに新情報(New Information)を置くことです。

  既知情報 + 新情報
  [Given]    [New]

通常、話の流れが続く場合は、既知情報に新情報を付け足していきます。

  既知情報  +  新情報
  [Given]      [New]

(既知情報) + 既知情報  + 新情報
  [Given]         [Given]    [New]

(既知情報   + 既知情報)+ 既知情報+ 新情報
  [Given]        [Given]     [Given]    [New]

文という単位で見ると、文の前の方に既知情報、後ろの方に新情報がおかれます。

英語では、既知情報は、代名詞もしくは定冠詞(the)のついた名詞で表わされます。

代名詞: 前に一度出た名詞をうけて、その代わりにおくもの
定冠詞: 話し手も聞き手も具体的になんのことかわかっている(既知)もの

ゆえに、文の先頭部分にくる主語には、代名詞もしくは定冠詞のついた名詞が来るのが普通です。

さもなくば、主語の前におく句や節に代名詞を含めておくこともあります。

具体例で文章の流れを見てみましょう。

  Once upon a time, there were an old man and an old woman.
                              [ New                     ]

  The old man went to a mountain to cut down bushes.
  [ Given   ] [ New                               ]

  The old woman went to a river to wash clothes.
  [ Given     ] [ New                         ]

  When she was washing clothes, a big peach came down.
  [ Given                     ] [ New                ]

  She took it home.
  [G.][ New      ]

  The old man tried to cut the peach.
  [ Given   ] [ New                 ]   

  At that moment, a boy jumped out of the peach.
  [ Given      ]  [ New                       ]

この情報構造は、日本語でも同じです。

  昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
                      [ New                          ]

  おじいさんは、山へ柴刈に行きました。
  [ Given    ] [ New                  ]

  おばあさんは、川へ洗濯に行きました。
  [ Given     ] [ New                 ]

  おばあさんが洗濯をしていると, 大きな桃が流れてきました。
  [ Given                     ] [ New                ]

  おばあさんは家に持って帰りました。
  [Given   ] [ New                ]

  おじいさんが、桃を切ろうとしました。
  [ Given   ] [ New                 ]   

  するとその時、男の子が桃から飛び出してきました。
  [ Given     ] [ New                         ]

英語でも、日本語でも、文の前の方に既知情報が置かれ、それとの関連で、その後ろに新情報が付け足されます。統語構造は英語と日本語で違っても、情報構造は共通です。それは、人が情報を処理する仕組みが同じだからです。

もう一つ注目すべきなのは、既知情報を表現するのは、必ずしも主語ではないということです。様々な表現が使われます。多様な表現を駆使して、文の始まりの部分に既知情報が来るように工夫をしています。逆に言えば、既知情報を前に置くために、統語構造を踏まえたうえで、多様な表現を使いこなす必要があります。

時には、統語構造と情報構造が矛盾することがあります。そうした矛盾を解消するために使われる手立てがあります。受動態がその一つです。

次の文は、桃から生まれた桃太郎の話の続きです。

  The boy was called "Momo Taro."
  [Given] [ New                ]

  男の子は桃太郎と呼ばれました。
  [Given] [ New                ]

動詞のcallは、統語的には、二重目的語をとって、「主語 + call 人を 何と」という配置にしなければなりません。そうなると、「主語 + called the boy "Momo Taro"」という語順にしなければなりません。しかし、情報構造の話の流れからすると、桃から出てきた男の子について話をつづけるので、The boy を前に持ってきたいわけです。統語的には動詞の後ろに目的語としておくべきものを、情報構造的には、動詞より前におかなければならない、という相矛盾する二つの条件を解決しなければなりません。そこで、受動態という仕組みが使われます。

統語的には目的語だったものを、主語の前に置く、しかし、ただ前に持ってきたのでは、主語として扱われてしまうので、困る。そこで、目的語を入れ替えていますよというのが分かるように、動詞部分を、be + 過去分詞 という普通ではない形にして、主語としておかれているものは、訳アリですよ、ということが分かるようになっているわけです。これで、文頭部分に既知情報を置きながら、統語的には目的語の役割をするものが主語の位置におかれるということが分かる仕組みになっているわけです。

能動態を受動態に書き換えたり、受動態を能動態に書き換えたり、文法のトレーニングをしましたよね。でも、両方とも同じ意味内容を伝えるのだったら、二ついらないじゃないですか。一つでよいはずです。しかし、二通りで表現できる仕組みがあるのは、統語構造と情報構造とが矛盾することになってしまう場合に、その矛盾を解決するためです。

従属節を使った複文も同じ理由です。文法的には、従属節を前においても、後ろにおいてもよいと習いましたよね。しかし、いつでもどちらでもよいわけではありません。話の流れにあうように、つまり、話の流れから、既知情報を含む節の方を前に置くように配置します。それを間違えると、文法的には間違いではないのに、なんだか不自然な文になってしまいます。

ここまで、話の流れは、原則、既知情報に新情報を付け足すという配置で展開されるという説明をしてきました。ところが、逆に、話の流れを切って、新しい流れを作る必要がある場合があります。
そういう場合には、文頭に新情報を持ってきます。

文頭に新情報をおくことで、新しい流れ(新しい部分)が始まるわけです。

  In 1992, John came to Nagoya.
  He was an English teacher.
  He worked very hard.

  In 2001, he met a nice woman.
  Her name was Mary.
  She was born and raised in Nagoya.

上の3つの文は、1992年にJohnが名古屋に来た時の話が展開しています。ところが、4文目で、文頭に In 2001, という時を表す副詞として働く前置詞句が置かれています。「2001年に」というのは、新情報です。それまでの、1992年からの話の続きというよりは、新しい場面の展開となります。この in 2001というのは、howeverやthereforeなどの、いわゆる「つなぎ言葉」ではありません。単に時を表しています。時を表す副詞は原則、文末におかれます。

He met a nice woman in 2001.

という文末の位置が原則として時の副詞を置く位置です。ところが、その原則を破って、文頭に置かれました。文は普通主語から始めますが、主語よりも前におかれました。原則を破ることが許されるには、理由が必要です。その理由というのが、話の流れの展開を示すため、という目的です。「in 2001」という副詞には、文と文の接続関係を示すという機能はありません。接続関係を示す機能自体はないにもかかわらず、文頭に置かれることで、単に修飾している文の時間を表すのではなく、文脈の中での「時間関係」という接続関係を表す表現として使われているのです。

まとめると、

  1)同じ流れの場合は、新情報は後ろに付け足す
  2)新しい流れを作るには、新情報を文頭におく

というのが情報の流れの原則です。

情報構造にあわない文を書くと、文法的には正しい文のはずなのに、なんだか流れが不自然な文章になってしまうので、注意しましょう。

以上、杉浦正利


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