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読書感想文 森博嗣 すべてがFになる

SFではあってもミステリーではない。

 ザ・理系。比較することの良し悪しを問わずに言えば、理系出身の東野圭吾作品には人情とか心情という人間臭い要素が多く、温かい血が通ってる感じがする。一方本作は、数学工学物理学の要素がほとんどで、アルミやコンクリートの人工物的なヒンヤリした感じがした。場面設定自体がハイテク仮想空間で正にSFといった印象を受けた。
 最も納得がいかないのはトリックの点。刃物で刺された人が耐えて平静を装っていた、という本書における事実。無理があり過ぎる、人体はロボットではない。人間とは、間もなく亡くなるほどの出血がある状態で立って冷や汗一つかかずに平静を装えるはずなどない。こんな無理を容認しては、本来理屈で成り立つはずのトリックが何でもありになってしまう。知識の理系への偏りによって、本来理系が本領を発揮するはずの理屈がおざなりになるという本末転倒。ミステリーの本質や如何に。

 この本をとっておこうとは思わなかった。単に私の趣味には合わなかった、ということで。

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