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短編小説Vol.23「遊戯の教室」

午後2時ちょうど。
退屈な授業中、昼ご飯を食べたばかりで眠くなった鹿島は眠気覚ましに、園田へちょっかいをかけ始めた。

「おい!園田!園田!」
先生にバレないように、低い声で呼びかける。
園田も眠かったのだろう、なかなか鹿島の声に気づかない。
鹿島は下に置いていた、美術で使うエプロンを丸めて園田に向けて投げた。
園田はゆっくり鹿島の方を振り向いて、
「何だよ?」
と冷静に言った。
園田は、退屈な授業の際は必ずと言っていいほど毎回、校庭を見て物思いに耽っていた。
それを邪魔されるのが内心嫌ではあったが、それを口に出すのさえ億劫なので、黙っていた。
無論それをよく邪魔してくる鹿島にはイラッとしていた。

「授業面白くないし、遊ぼうぜ。それ、こっちに投げろ!」
鹿島が、園田に向けて言った。
園田は美術で使うエプロンを丸めて、鹿島に投げ返した。

鹿島を面倒に感じていた園田であったが、授業に退屈しているのは同じだったので、その遊びに参加することにした。

先生が黒板に向かった瞬間を見計らって、エプロンを投げ合った。
先生にバレたら怒られると思いながらやる遊びは、2人の心を心地よくかき乱した。
しょうもない事をしている2人に呆れている生徒が大半であったが、仲間に混ぜて欲しい奴が1人だけいた。

「鹿島!次はこっちだ」
榎本は空気を読まず、教室の反対側からこちらを向かって声を出した。
鹿島は、瞬時にエプロンを投げた。

流石に先生もそれには気づき、
「ちょと何してるの!やめなさい」
と咄嗟に注意した。

ただ男子校に通う生徒が、女性教師の注意を聞くわけもなく、3人はさらにその遊びを加速させた。
こうなったら手のつけようもなく、教室には2個、3個と飛び交うものが増え始めた。
呆れていた他の生徒も、退屈してることには変わりはなかったので、どんどん3人の遊びに同調し始めたのである。

女性教師は一生懸命に注意するが、生徒は一向に話を聞かず、挙句の果てにはドンチャン騒ぎが始まった。

退屈は国語の授業は、完全に遊戯へと変貌した。
無駄に真面目な生徒を除いて、ほとんどの生徒は物を投る、机の上に乗る、窓を開けて大声で叫ぶなどの奇行を始めた。
女の先生を完全に舐めている態度が、十分に発露した光景に園田は満足し、自分が校庭を見て妄想していたことよりも遥かに良いと感嘆した。

このどうしようもなく身勝手で、自由な行動を繰り返すでしか、何も全身全霊でぶつかる事がない彼らは青春を知覚することができはしなかった。

ある意味で悲しい青年たちの姿でもあった。

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