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おでんはおかずになるのだろうか。カフェで食べたおでんの話。

東京に住んでいた頃、近所にふらりとよく行くカフェがあった。お茶も、仕事も。読書も、夕食も、晩酌も。なんでも叶う、懐の広い店だった。

郊外にありそうな窮屈感のない広さの、でもチェーン店とは違うインテリアに凝ったちょっとお洒落な内装。

なのに、定食屋かラーメン屋の兄ちゃんみたいな陽気で元気な店員さんがいつもいた。そのギャップが、ちぐはぐ感が、なんとなく居心地をよくしてくれていた気がする。

整って、コンセプトが通っている店も好きだけど、場所によってはなんだか緊張してしまうこともあるし、なぜかお店の期待に応えたくなってしまい、いい客を装って、くつろげないこともたまにある。たまに。さじ加減ってむずかしい。


そのカフェでは、冷える季節になってくるとスペシャルなメニューが登場する。それが「おでん」だった。

昆布の出汁が効いたしみしみのおでん。大根にちくわ、はんぺん、昆布にたまご、そしてソーセージも。どんぶりにぎゅうぎゅうに詰められてやってくる。その味はもちろん、なぜかその愛らしいおでんの見た目に魅了されてしまい、季節になると何度か通った。

そのカフェのおでんを最後に食べた日。引っ越し前にすべりこんだ。

たしかその店で初めておでんを食べたのは、仕事の帰り道。ベンチャー企業に勤めていた頃。つまり一生終わらないだろう仕事を抱え、パソコン持たずに外出するなんて休日でも怖くてできなかった頃。元気によく働いていた(笑)。

案の定、その日もやらなければならないことは終わっていないまま一旦帰路についていて、やばいやばいと思いつつ、家に着いたら寝てしまいそうだった。少しでも楽しい気分で仕事をしようとそのカフェに駆け込んだ。

メニューを見ると「おでん」が。しかもビールセットもある。おでんビールと仕事を天秤にかけながら、散々迷い、業務時間後だしいいじゃないかと、おでんとビールを頼むことにした。

おでんとビールと仕事。おでんのおかげで、終わらない仕事時間がスペシャルなものに感じた。パソコンを開いていても、おでんが横にあるとなんだかとっても幸せだった。

実はそれまでおでんは自ら進んで選ぶことはない一品だった。お酒とは合うけれど、白米とは合わない(と思っている)。あまりおかずにならないから。しかしその日からおでんは救世主のような、特別な存在になった。


あの店のおでんセットはまだ健在だろうか。寒くなると、そんなことを思い出しながら、食べたくなる。

今年こそは家でおでんを食べようと、心に決めた2023年1月上旬。見事にその夢を叶えた。ソーセージ入りのぎゅうぎゅうなおでん。気合いをいれて前日から仕込み、一日寝かせて。はふはふほおばるその時間に、満たされた気持ちになった。「おでんはおかずになるか」という話題で、盛り上がりながら。

今年の冬、もう一回くらい食べられるだろうか。また食べたい。

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