Y

某国立大学准教授。趣味で小説を書き始めました。テキストは自作ですが、画像はChatGP…

Y

某国立大学准教授。趣味で小説を書き始めました。テキストは自作ですが、画像はChatGPT(DALLE)にプロンプトを入れて生成したものを用いています。小説に出てくる人物は架空の設定で、実際の人物を示しているわけではありません。

マガジン

  • IBN寮物語

最近の記事

IBN寮物語—花見1—

相部屋の裕紀さんとの二人部屋での共同生活が始まってしばらくすると、裕紀さんから今週土曜日の午後一時に川内南キャンパスでIBN寮の花見があるから参加するようにと言われた。残念ながらその日は先約が入っていたのだが、その先約は川内北キャンパスだったので、歩いて10分もすれば、川内南キャンパスの花見会場にたどり着く。そのため、「後で行けたら行きます」と答えた。もちろん、この答えを言った私は毛頭、花見に参加するつもりはない。  というのも、この先約というのが、新入生男子3名と新入生

    • IBN寮物語—相部屋—

      入寮審査会も終わり、大学の講義が始まって一週間ほどたった4月中旬に、新入寮生の部屋が順次告知されていった。なぜ順次なのかというと、それはIBN寮内の部屋異動の都合から来ている。まず、卒業生や修了生の多くがIBN寮内の一人部屋に3月末まで滞在しているので、その部屋に4月から入る新3-4年生は当然異動できない。4月1日から、順次その空いた一人部屋にその新3-4年生が異動していくが、それなりに荷物があり、自力で行っているので、1週間程度はかかる。この新3-4年生が異動した二人部

      • IBN寮物語—入寮審査会2—

        4月4日の午後9時に入寮審査会が始まった。新入寮生12名は全員1階談話室に居て、一人ずつ4階談話室に上がっていく。まずは、名前の早い順に初めの新入寮生が上がっていき、入寮審査会が行われる。早速猪俣がトップバッターとして行き、10分ほどすると戻ってきた。面接内容を聞くが、特に答えず、どことなく表情が曇っている。どうも新入寮生歓迎会は勝手が違うようだ。  とりあえず、一人10分と言うことは、12人で120分なので、最終の私の開始は12時過ぎになると思ったので、私は1階談話室か

        • IBN寮物語—入寮審査会1—

           新入寮生歓迎会は4月1日から三日三晩行われた。三日目にもなると、新入寮生はお互いの飲酒のレッドラインが把握できるようになり、そのラインを超えると自分で便所に吐きに行き、吐きに行けなかった者は友人が吐くのを手伝い、それでもダメな場合は救急車を呼ぶ、という仕組みが出来るようになった。また、こういった仕組みを通して、新入寮生同士でお互い助け合っていこうという協働姿勢が出来上がりつつあった。  が、4月4日の朝に3年生の東先輩が1階談話室(新入寮生の共同居住スペース)に再び現れた。

        IBN寮物語—花見1—

        マガジン

        • IBN寮物語
          16本

        記事

          IBN寮物語—新入寮生歓迎会3—

          私と猪俣が4階談話室に戻ろうとしているとき、4階の便所の流し台で、初めての手術を終えた外科医のように、手を洗っている坊主頭がいる。嘉門である。話を聞くと、嘉門は口上(こうじょう)を済ませた上に、自力で便所で吐いて、その後自分の手や口をゆすいでいたとのことだった。そして、「二人とも口上(こうじょう)まだやってなかろう。みんな待っとうよ」とまるで自己紹介を済ませていない我々をIBN寮内の寮生が待っているかのように言った。  これが口上(こうじょう)指名の怖い側面である。つい一

          IBN寮物語—新入寮生歓迎会3—

          IBN寮物語—新入寮生歓迎会2—

           鹿本が小鹿のようにプルプルと震えて立ち上がれずに腰砕けになっているのを見て、アルコールのアレルギー反応が出ていると全員が思った。鹿本は金属アレルギーを持っているので、アルコールアレルギーを持っていてもおかしくない。  と新入寮生が思っていると、先輩たちが数名立ち上がり、鹿本の手を彼らの肩に乗せて担ぎ込むように、便所に連れて行った。そして、「鹿本、吐け」と言う。鹿本も吐こうとしているのだが、うまく吐けない。そうすると先輩が「中指を立てて、喉の奥をつけ」と具体的な指示が出た。鹿

          IBN寮物語—新入寮生歓迎会2—

          IBN寮物語—新入寮生歓迎会1—

           新入寮生となった4月1日にIBN寮内で歓迎会が行われることになった。本来はうれしいことなのだが、新入寮生全員が沈痛な面持ちをしているのは「口上(こうじょう)」の件があるからだろう。  午後9時に開始された歓迎会は初め和気あいあいと始まって焼きそばなどを食べていたが、10分ほどして、2年生の先輩が一人すっと立ち上がり、「新入寮生の皆様、入寮おめでとうございます!これからも仲良くやっていきましょう。それでは、口上(こうじょう)の仕方をお見せします。」と言った。そうすると、他の寮

          IBN寮物語—新入寮生歓迎会1—

          IBN寮物語—口上(こうじょう)2—

          口上(こうじょう)の説明を聞いた新入寮生は一同顔を見合わせた。新年度初日から、自己紹介と言う名目で、違法な飲酒を強要されると思わなかったので全員驚いている。とりあえず、新入寮生同士で話し合いをすることになった。 とりあえず鹿本が口火を切った。「アルコール燃焼の化学式は知っとるが、アルコールの分解は知らん。どうしよう。」と声高に言い、頭をかいている。だめだ、話にならない。次に嘉門が話をする。「まー、やるしかないったいね」と目が座っている。どうも九州男児の変なスイッチが入

          IBN寮物語—口上(こうじょう)2—

          IBN寮物語—口上(こうじょう)1—

           入寮して数日が経過し、4月1日のエイプリルフールを迎えた。仙台は朝から雪が降っており、(半地下室にある)一階談話室から見上げる道路にも雪が積もっていた。室内に目を転じると、猪俣はすやすやと眠っており、北王子も眠っているが、なぜか奴の右手の隣には木刀が置いてある。嘉門も眠っているが、彼の足元にはロックピックハンマーがやはり置かれている。そして、鹿本はアレルギーのために夜中にくしゃみを多くしたのであろう。枕元には白いティッシュが敷き詰められており、遠目から見ると鹿本は棺桶の中で

          IBN寮物語—口上(こうじょう)1—

          IBN寮物語—猪俣、見参—

           鹿本、嘉門、北王子という超攻撃的なフォワード陣と一階談話室で会話していると、続々と新入寮生が入ってきた。最後に入ってきた寮生が猪俣であった。  猪俣は福岡県出身で経済学部に所属しており、髪の毛は茶髪で二重まぶたであり、福岡弁をとにかく話す。猪俣はこれまでの新入寮生の中で最も垢抜けている。ただ、猪俣という名前が示す通り、猪突猛進型の人間で、思ったことをそのまま全力でやってしまうことがあり、その点でやはり変人である。例えば、IBN寮には共同風呂があり、大人が体育座りすれば6人は

          IBN寮物語—猪俣、見参—

          IBN寮物語—北王子、見参—

           鹿本がピルクルを持って、1階談話室に戻ってきた。そこで嘉門と話している。後日談ではあるが、この二人は理学部で最も奇抜なツートップとして理学部内で知られることになる。理学部は奇人の巣窟と言われているため、そこで奇抜であるということは、奇人中の奇人といえる。一般の新入生約2000名がこの2人と遭遇する可能性は約千分の1であるが、IBN寮内の新入寮生12名では6分の1となる。つまり、日常的に奇人に遭遇するのである。  さて、そうこうしていると、1階談話室の扉が開き、新入寮生が入っ

          IBN寮物語—北王子、見参—

          IBN寮物語—嘉門、登場—

           鹿本がピルクルを買いに行くといって、一階談話室(IBN寮の半地下の部屋)を出てしばらくすると、一階談話室の扉が開いて、「シャース(こんちわーす)」と挨拶してきた。新入寮生イレブンの新たなメンバーである。  彼は嘉門と言い、福岡出身で、鹿本と同じ理学部の地学(地球科学)系である。嘉門は坊主頭で、肌が黒く焼けており、引き締まった体系をしているので、高校球児のようである。ただ、嘉門が高校球児と異なることは、鹿本に劣らず彼も相当の変人であるということである。  まず、嘉門は、地質に

          IBN寮物語—嘉門、登場—

          IBN寮物語—鹿本、登場—

           一階談話室(IBN寮の半地下の部屋)は畳で20畳ほどある和室の大部屋だった。サッカーのミニゲーム程度なら出来そうな大きさである。実際、ここには私を除いた11名の新入寮生がイレブンとして1か月間生活を共にすることになる。  とそのとき、一階談話室の扉が開き、新入寮生が入ってきた。名前は鹿本と言い、鹿のように丸い目をしており、細身であるが、キューピーマヨネーズのような体形をしていた。鹿本は岡山から来ており、理学部の地学(地球科学)系とのことだった。本当は理学部の物理系で素粒子の

          IBN寮物語—鹿本、登場—

          IBN寮物語—半地下の生活—

           IBN寮(小学校の廃屋)から出てきたのは小柄な男性であった。法学部の3年生という彼は受け答えもしっかりしており、玄関先の受付でいくつかの事務手続きをてきぱきとこなしてくれた。廃屋に住んでいるとは言え、住人は礼節を守っているようであり、これなら自分もIBN寮でうまくやっていけそうだと少し希望の光が見えてきた。  手続きが終わって、あとは自分の部屋に行くだけになり、部屋番号を聞くと、「無い」と言う。一瞬言い間違えたと思ったので、いやいや、今手続きが終わったので、部屋番号を教えて

          IBN寮物語—半地下の生活—

          IBN寮物語—入寮初日—

           大阪から東海道新幹線に乗り、東京でMaxやまびこという新幹線に乗り替えて、仙台に向かっている。初めて親元を離れることと自立した生活をすることで不安と期待が自分の中には混じっていた。IBN寮についたあとは、不安が自身の感情の全てを埋め尽くすことになるとも知らずに。  仙台駅で八木山動物園前行きのバスに乗る。布団などの荷物は既に送っているので、旅行バックが一つあるだけの軽装である。八木山神社前で下車し、IBN寮を目指す。途中いくつかの建物を見たが「〇〇ハイツ」という名前でIBN

          IBN寮物語—入寮初日—

          IBN寮物語—はじめに—

           本書のタイトルを読んで、技術革新や企業成長を成し遂げた天才技術者や敏腕経営者の話を聞けると思った方は大いなる勘違いをしているので、読むのをすぐにやめてほしい。本書のタイトルはIBNであり、IBMではない。IBN寮というのは、「トンペイ」という某国立大学にある寮を省略した名前であり、その寮生活の話が本書のテーマだからである。そのため、ここで出てくる話はその寮で悪戦苦闘する奇人や変人の話であり、そういった話から有益な知見を得ようとすることは誤りである。実際、筆者自身が本書に実益

          IBN寮物語—はじめに—