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抗がん剤(抗悪性腫瘍薬)~総論~

一般的に、悪性腫瘍に対する治療は①手術、②化学療法(抗がん剤)、③放射線治療、である。他の臓器に転移がある場合、手術加療が難しく化学療法が選択されることが多いが、化学療法は「根治を目指す」というより「進行を抑制する」といった側面が大きい。

ただこの化学療法、非常に薬剤の種類があり、自分が一体何の薬を投与されているのかよく分かっていない人も多い、というか大半である。そこで今回から抗がん剤について(消化器癌で用いられるものが中心)まとめていく。

抗がん剤の種類

よく用いられる抗がん剤としては、①代謝拮抗薬、②アルキル化剤、③プラチナ(白金)製剤、④抗腫瘍性抗生物質、⑤トポイソメラーゼ阻害薬、⑥微小管阻害薬、の計6つがは代表的である。

抗がん剤は何に作用しているのか?

一言で言えば、「細胞が増殖する過程を阻害することで、腫瘍増殖を抑えている」。細胞は、1⃣核酸の原料を合成する→→2⃣DNAを複製する→→3⃣分裂する、といった過程を経て増殖していく。

1⃣核酸の原料を合成する:①代謝拮抗薬

核酸を構成する塩基には、プリン塩基とピリミジン塩基の2つがあり、 プリン塩基にはA(アデニン)とG(グアニン)が、ピリミジン塩基にはC(シトシン)・T(チミン)・U(ウラシル)がある。分裂の際には、まずプリン・ピリミジンが合成され、そこから核酸が合成される。その核酸を利用してDNAが作られるのだが、このプリン・ピリミジンから核酸を合成する際に「葉酸」というビタミンが必要になってくる。代謝拮抗薬は、プリン・ピリミジン合成であったり、葉酸の作用であったりを阻害する働きがある。

2⃣DNAを複製する:②アルキル化剤、③プラチナ製剤、④抗腫瘍性抗生物質、⑤トポイソメラーゼ阻害薬

細胞が分裂する際には同じDNAが2つ必要となり、そのためにDNAを複製する必要である。その複製を阻害するのがこれらの薬であり、どのように阻害するかで色々な抗がん剤が作られているが、具体的にはアルキル化薬はDNAをアルキル化することで、白金製剤はDNAに架橋形成することで、抗腫瘍抗生物質はDNAに組み込まれることで、トポイソメラーゼ阻害薬は複製に必要なトポイソメラーゼを阻害することで、DNA複製を阻害する。

3⃣分裂:⑥微小管阻害薬

実際に細胞が分裂する際に必要な「微小管」の働きを阻害することで、分裂を阻害する薬である。

参考:濃度依存性と時間依存性

上記6つの薬剤は、細胞分裂の中で、周期に関係なく効果を表すもの(細胞周期非特異的)と、特にS期やM期など特異的に効果を示すもの(細胞周期特異的)とがある。細胞周期非特異的なものは濃度依存性に、細胞周期特異的なものは時間依存性に作用すると言われており、濃度依存性=大量単回投与、時間依存性=少量分割投与が望ましい。具体的には、代謝拮抗薬であるS-1は連日の内服が、トポイソメラーゼ阻害薬であるイリノテカンや微小管阻害薬であるパクリタキセルは毎週投与が行われることが多い。
・①代謝拮抗薬:合成を阻害する→S期に作用する。
・⑤トポイソメラーゼ阻害薬:分裂前のS期、G2期に作用する。
・⑥微小管阻害薬:分裂期であるM期に作用する。
他の②アルキル化薬、③白金製剤、④抗腫瘍抗生物質は細胞周期非特異的である。

用語解説

核酸

核酸には、デオキシリボ核酸(DNA)と、リボ核酸(RNA)とがある。DNAは「A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)という4種の塩基と糖、リン酸で構成されるヌクレオチドが、30億個の対となって結合したもの」であり、二重らせん構造をしている。下図の中では、色がついている部分が「塩基」にあたる。そのDNAの中で、タンパク質を合成するもとになる、生命の設計図ともいえる情報を持つ領域を「遺伝子」といる(ただし、遺伝子はDNA全体の僅か2%に過ぎない。)

DNAの構造式(https://nsgene-lab.jp/dna_structure/double-helix/より引用)

トポイソメラーゼ

2重らせんになっているDNAを複製するためには、ほどいて1本にしたり、また2本に戻したりする必要がある。このDNA立体構造を維持、変化していくのに必要な酵素がトポイソメラーゼである。なお、トポイソメラーゼにはI型とII型があり、I型はDNAのらせん構造を1本のみに、II型は2本両方ともに作用して切断・結合させる作用がある。トポイソメラーゼ阻害薬によってDNAの切断・再結合がうまくいかなくなったがん細胞は正常な分裂ができなくなり、アポトーシスが誘導される。
・I型トポイソメラーゼ阻害薬:イリノテカン、ノギテカン
・II型トポイソメラーゼ阻害薬:エトポシド

微小管

二重らせん構造をとっているDNAだが非常に長いため、普段は特殊なたんぱく質を中心に固まっている。この固まった状態を染色体と呼び、必要な時に必要な場所だけが緩んで、少しだけほどける仕組みになっている。細胞分裂時、この染色体を2つに分ける働きをするのが微小管である。

細胞分裂周期

細胞分裂には「細胞周期(もしくは増殖サイクル)」と呼ばれる周期がある。DNA合成期であるS期、DNA合成前期のG1期と後期のG2期、分裂期のM期とがある。

https://genetics.qlife.jp/tutorials/How-Genes-Work/cell-cycleより引用


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