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チャールズ・ディケンズ『オリヴァー・ツイスト』 6

味もそっけもないタイトルの付け方を工夫しようかと思い、駅までの道で考えた。

タイトルをつけて、そこから文章の内容を引き出す人。文章を書いてから内容を踏まえてタイトルをつける人。シリアルナンバーのように、インデックスとしてタイトルをつける人。私は、インデックスとしてのタイトル派であった。

しかし、確かに読み手としては、インデックス的なタイトルでは、何が書いてあるかわからない。読みたいという気持ちが喚起されない。ヘッダー写真ですら省略してあるならなおさらだ。

となると今日のタイトルはなんだろう。「号泣会見と食糧人類と悪夢」か。いや、これは昨夜洗濯物を干しながら再視聴した動画と、その後にダウンロードして読んだマンガと、それによって得た悪夢のことで、ただ時系列的に体験した出来事を並べただけで、まだインデックスだ。

「鍵をしめたかどうかの不安にいつも苛まれる」だろうか。これは私の癖というか気質で、玄関の鍵をしめたかどうかの不安が消えない。鍵をしめたか忘れていることから、ボケの初期症状なのかもしれないが、今年は脳ドックもやる。そして、このことを書いてみようと鍵をしめたときに思ったので、まあ、今日は鍵の開閉の記憶は鮮明だった。

いやしかしやはり、このエントリの主題はディケンズを読んだ感想である。雑記・雑感ならばそれらのタイトルもよしであろうが、ここではディケンズを読んだ感想からタイトルを決定しなければならないだろう。

どうでもいい話だが、音楽のサブスク視聴を始めて、シャッフルで流れてくる音楽のタイトルを当てる、というゲームがやりやすくなった。誰とそんなゲームをするかというと子どもとである。そんなとき、よくお題として出すのが、ジンギスカンであった。

子どもが林間学校の準備を始めた。それを聞くと、どうやら我々の頃と変わらず、キャンプファイヤーの時にフォークダンスを行うらしい。このフォークダンスが一体何のために行われているのはいつまでも謎のままだが、いずれにしてもマイムマイムとジンギスカンを踊るらしい。

令和の小学生にとってジンギスカンの『ジンギスカン』はやはり強烈な印象と滑稽な印象を残すらしく、「クラスメイトたちの多くはマイムマイムよりも、ジンギスカンをもとめている」と上の子どもが言っていた。思い出したが、我々の時代はジンギスカンは運動会のダンスミュージックであった。今は、USAとかThe FOXなのだろうか。フォークダンスに格下げされたのか、それとも殿堂入りしたのか、よくわからない。

70sヒットソングのコンピレーションアルバムを、子どもが小さいときに流していたので、我が家ではお馴染みのジンギスカン。ジンギスカンのみならず「モスクワ」や「マチュピチュ」、「ハッチポッチ大作戦」ではなく「ハッチ大作戦」などもお馴染みだ。昔の教育テレビの番組である「ハッチポッチステーション」と過つ「ハッチ大作戦」の翻訳はなんとかならないか。

あらすじ(9~11)


長い眠りから覚めたオリヴァーだが、夢うつつのまま例の老紳士が、豪華な細工のされた宝飾品などを取り出して愛でている光景を目撃してしまった。

老紳士は、目覚めているオリヴァーと目が合い、オリヴァーに詰問した。今の光景を見たのか、一時間前に目覚めていたのか。オリヴァーはそれを否定する。何も見ていない。

緊迫したやりとりのあと、オリヴァーは、老紳士とそこにいた少年の一人ドジャー、そして、自分を拾ってくれたベイツ(チャーリー・ベイツが本名らしい)と打ち合わせをする。オリヴァーは、この打ち合わせが何を意味しているのかわからなかった。

そして、オリヴァーは、ドジャーとベイツが老紳士から財布や時計の鎖などを「掏る」光景を見させられる。遊びだと、オリヴァーは思った。ドジャーやベイツが、他にもいた女子の仲間たちと外に出ていくと、老紳士はオリヴァーに、この遊びを指南した。オリヴァーは熱心にそれを練習した。

10
オリヴァーは、ポケットからハンカチを「掏る」練習を繰り返した。仕事のための練習だと思って。そして、外に行かせてくれるよう老紳士に頼んだ。

そして、ドジャーとベイツとオリヴァーの三人で外に出かけることに成功した。オリヴァーは、どこか仕事にいくものだと思っていた。しかし、ドジャーとベイツはぶらぶらして、そのあたりをうろつきまわっている。オリヴァーは二人が仕事をさぼろうとしているのだと思った。

その刹那、ドジャーとベイツは、とある老人に狙いを定めると、機敏に行動した。そして、ドジャーが本を読むことに夢中になっている老人のポケットからハンカチを「掏った」のを目撃して、すべてを理解した。

一瞬にして、ハンカチ、時計、宝石、ユダヤ人のすべての謎がオリヴァーの心に押し寄せて辻褄が合った。全身の血管を流れる血がうずいた瞬間、彼は燃え盛る炎のなかに立っているような気がした。混乱し、怯えきって一目散に逃げだした。何をしているかもわからずに、地面を蹴って出せるだけの速さで走りに走った。
No.115


老人はスリに気づいた。ドジャーとベイツはすでに遠くに逃げ、分散した。それに遅れたオリヴァーだけが、泥棒!の掛け声を聞いた群衆に追いかけられることとなった。

果たしてオリヴァーは捕まった。殴られ、警察に引っ立てられていった。老人もついていった。群衆もついていった。

11
略式裁判のために、オリヴァーは警察署の留置場に入れられた。そこは汚れていた。

しかし、そのときに老紳士はオリヴァーの顔に何か記憶の断片が挟まっているように思い、それをたぐっていた。思い出せない。

治安判事のファング氏は尊大な男だった。老人に対しても、尊大に名前を聞いた。この老人は、ブラウンローという名前であった。

ブラウンロー氏は、オリヴァーを捕まえたものの、どこか同情的な気持ちになっていた。けれども、そういう気持ちの綾をファング氏は聞かず、杓子定規に裁判を進めようとする。ブラウンロー氏が何かを言おうとしても、ファング氏は割り込む。

ブラウンロー氏は、寛大な処置を求めた。オリヴァーは殴られた後遺症もあって、フラフラである。オリヴァーに付き添っていた係官は、水を飲ませようとするが、ファング氏に制止され、オリヴァーはその場に倒れてしまう。

そこにある人物が入ってきた。本屋の主人であった。本屋の主人は、オリヴァーのために、こう証言した。

私は三人の少年を見ました━━ここにいる被告と、あとふたりです。三人はこちらの紳士が本を読んでいた通りの向かい側をぶらぶらしていました。盗みを働いたのは別の子です。私は見ていました。この子はただもうびっくりして、呆気にとられていました
No.129

罪状うやむやのまま閉廷した。中庭にオリヴァーは倒れていた。ブラウンロー氏は、オリヴァーに同情した。そして、馬車の中に載せ、一緒に走り去った。本屋の主人も一緒に。

感想

やっぱり、スリの頭目ユダヤ人ということで、表象!表象!と思いますね。一元的な見方がされていた時代の名残。シャイロックとかね。

展開が早いです。前半のバンブル氏なんかに対する語り手の評価のような文章はあまりなく、活劇的にどんどんこの辺は進んで行く。

あらすじでは書いてませんが、葬儀屋のサワベリー氏いわく、オリヴァーはどことなく美少年、という設定だそうです。これもまた、表象!表象!と思わなくもないですが、90年代の文学論にはそういった表象批判が多かったわけで、その名残って奴ですね。

スリの仲間に入ったかと思うと、ちょっといい人に拾われる。オリヴァー、ツイてます。これももしかしたら、オリヴァーの持っている気品と外見ゆえなのかと思うと、不細工に生まれてしまった私などは、なんともいえない気持ちになるわけですよ。

貴種流離譚とも言えそうですが、まだ、それについては明らかになっていません。この繰り返し現れる、気品を示すキーワードが今後効いてくるのかどうか?

現代日本だとオリヴァーは歌舞伎町あたりにぶっこまれるかもしれませんが、そうなると本当に救いのない話になるね。「天気の子」ってやつ?あんまり知らんけど、あれは戻るところのあった家出でしょう。どうしたらいいんでしょうね。

戦後日本の上野や有楽町あたりを撮影した写真をネット上でみたことがありますけど、孤児となった皆さんはどうしたんでしょうね。オリヴァーのようなたぐいまれなる立身出世を遂げた人も中にはいたのでしょうか。

バブルのときは、そこまで『オリヴァー・ツイスト』の世界を身近に思うことはなかったんですけど、もしかしたら、現在はそういう世界が忍び寄っているのかもしれないですね。

なんでそんな暗い想像になってしまうんでしょうか。もっと光を!以上です。


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