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ダンディズム・ノート 1 〜生田耕作『ダンディズム 栄光と悲惨』〜

「ダンディズム」なんていうとキャッキャと笑われる時代になった。先日、若者と話していて、「ダンディズム」について話してみたら、「やせ我慢ということっすかね~」と笑いながら言われて、そうかもしれないと思った。ただ、それだけじゃないと思ったけれども、それ以上話しても、オジサンの繰り言と思われたくないので、諦めた。だから、ここで、考えたことを書き記しておきたい。

「ダンディズム」は、英国のジョージ3世時代と摂政だったプリンス・オブ・ウェールズ、のちのジョージ4世の時代を生きたジョージ・ブライアン・ブランメルという洒落者ダンディの振舞いから抽出された思想のことを指す。

ボー洒落者・ブランメルと呼ばれたジョージは、1778-1840を生きた。フランス革命とナポレオン戦争の時代の英国を舞台に、ブランメルは洒落者として活躍した。

ただ、ブランメルが何か著作を残したわけではない。ただお洒落であったのみである。しかし、その人物像は、多くの人に強い印象を残し、バイロンに《ナポレオンになるよりもブランメルになりたい》と言わしめたりした。

俺もナポレオンなんかになりたくないな、と思うと同時に、ブランメルもいかがなものかと思う。バイロンはきっと軽率な奴なんだと思う。知らんけど。

でもブランメルはその服装哲学で、新たなスーツスタイルをつくりだしたりしたとされる。鋭い警句で、皮肉を言い、ああいえばこういうの精神。後の時代の皮肉屋のアイドルになった。ジュール・バルベードールヴィイ、シャルル・ボードレール、オスカー・ワイルド。まあ、めんどくさそうな連中ばかりである。

ろくに文学も残さなかった人物に対して、ロマン派含め斜に構えた文学者たちは、どうしてアレコレ書き残そうと思ったのか。そして、それを思想的なものにまで高めようと思ったのか。

で、俺は本を集めた。落合正勝とか出石尚三とか。でも、それはクラシコ・イタリアだとか背広だとかの人なので、肝心な思想的側面は見えてこない。もっとつきつめないと、と思って購入したのが生田耕作の『ダンディズム 栄光と悲惨』(中公文庫 1999)だ。

生田耕作という人は、アカデミズムのノリに対して、自分のポジションを保とうとした人物で、そのせいかへそ曲がりな作家ばかりをとりあげていた。だから文学なんて書いてないのに文学者に影響を与えたボー・ブランメルに関心をもって、この本を書いたりした。

もちろん、ボー・ブランメルのことが大好きで、めちゃくちゃに影響を受けたバルベードールヴィイの「ダンディ」ぶりの源流を問い直していったら、ここに出てきたという風情もある。

思うがままに書き散らした短文の寄せ集めと、生田自身は言っているけれども、ボー・ブランメルのことを「とりま」知るには、興味深い本だと思う。

『ダンディズム 栄光と悲惨』には何が書いてあるのか。

①ボー・ブランメル
②落日の栄光
③ブランメル神話
④冷たい偶像
⑤ウィリアム・ベックフォード小伝
⑥老いざる獅子
⑦ダンディズムの系譜
⑧付記

という目次だ。①では、ボー・ブランメルの事実的な伝記が記される。本人の自伝はないから、海外の研究者の内容の紹介とアレンジで、小伝が作られている。

ということをつらつらと書いていきたい。

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