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ゲームの盤面に女を上げるな―『ジョーカー・ゲーム』感想

*本文では敬称は全て省略させていただきます。

こんにちは、ダマシと申します。

みなさん『SPY×FAMILY』は読んでますか?

推しは「じなん」ことダミアンです

私は更新があった際は必ず読むくらいには好きです。アニメも面白かったですしね。

そんなスパイファミリーの映画が12月に公開されるということでそれに便乗して今回レビューしていこうと思うのがこの、

スパイ繋がりと評価があまり良くなかったので選びました

『ジョーカー・ゲーム』になります。

本作は柳広司原作の小説がもととなった映画でして、かくいう私はシリーズ作品を全て読んでいるくらいには大好きな作品です。

そんな作品が映画化すると聞き当時の私は楽しみにしていたのですが、予告編を見た瞬間「あっこれヤバそうだぞ」と思い見るのをやめました。

あれから8年。レビューするために近所のTSUTAYAでレンタルし実際に視聴した私はこう思いました。

「ああ、あのときの認識何も間違ってなかったな」って。

というわけで今回は一人の原作ファンとして怒りのレビューを行っていきます。いつものことながら口悪くレビューしネタバレもしますので苦手な方はブラウザバックをお願いします。

あらすじ

仲間をかばい誤って上官を殺害してしまった陸軍士官の青年(亀梨和也)だったが、死刑になる直前「結城」と名乗る陸軍中佐(伊勢谷友介)が現れ、自身が率いる陸軍のスパイ機関「D機関」へスカウトされる。

陸軍の機関でありながら自分以外のメンバーは全て一般人という異質な存在であるD機関の中で青年は技能を身につけ、あるとき任務を命じられる。

それは新型爆弾(おそらく原子爆弾)の設計図「ブラックノート」をアメリカ大使館から奪取するというもので、青年は「嘉藤次郎」の名と経歴を与えられ任務に就くこととなった。

しかし同時にイギリスの諜報機関もブラックノートを求め動き出し、アメリカ大使館で働く謎のメイド、リン(深田恭子)も怪しげな動きを見せる…。

誰が味方で、誰が敵か。究極の頭脳ゲームが今幕を開ける。

感想

原作の魅力がある前半

個人的には前半80点、後半マイナス500点という感じの作品でした。

まず良かった部分を言うと、前半、中盤までは間違いなく良かったと思います。

暗い屋外で厳しい訓練を受けている陸軍と明るい室内で自由に過ごす機関生の様子はよく対比されてましたし、原作の底知れない感じは薄れているとはいえニヒルな感じのD機関のメンバーは再現度は低くないと思います。

何より原作の設定である「D機関は軍人を使わない」を踏襲しつつあえて主人公を軍人出身にすることで、軍隊とは異なるD機関の異質さや主人公の軍人らしい真面目な性格とD機関のメンバーの自由奔放な性格の対比をよく描けているなと感じました。
ここは評価ポイントでしょう。

流れるようなカメラワークで行われる訓練の様子は見せ方が工夫されていて面白かったですし、ロビンソン・クルーソーの本など原作ファンが思わずニヤリとするような要素も存在しています。

中盤まではBGMも少なく淡々と進む感じは原作とマッチしていますし、見ていて「何だよ、思ったより悪くないじゃん」と思っていました。このときまではね。

『ジョーカー・ゲーム』は多くの人がスパイ作品として思い浮かべるような『ミッション:インポッシブル』や『007』シリーズのようなアクションが多い作品ではなく、D機関のメンバーが各国のスパイや一般人たちと水面下で繰り広げる頭脳戦が魅力となっている作品です。

スパイとは目立たぬ存在であり、殺害など目立つ行動をするスパイに価値はない。
敵を殺す、もしくは傷つけるのはあくまで最後の手段であり、持ち前の頭脳を活かして目の前の危機を切り抜けていく…

そんなD機関の教えが生み出すこの作品の魅力を制作陣はわかっていて、多少カッコつけすぎてない?というシーンはあれど原作のよさを展開してくれる…そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。

しかし、あるキャラが登場してから本作は一気に雲行きが怪しくなっていきます。

いらない悪女・リン

そのキャラこそが、深田恭子演じるリンです。

顔と演技はいいよね顔と演技はね

彼女は原作にいない映画オリジナルキャラクターで、表向きはアメリカ大使館に勤めるメイドですが、その正体は特定の国に属さない女スパイです。
ルパン三世でいう不二子ポジションと思ってもらうとわかりやすいと思います。

このキャラクターが出てからいかに物語がガタガタになっていくかを話していく前に、原作の女性キャラの扱いについて説明していこうと思います。

D機関に属する人間は全員男性であり、講義にジゴロによる女の口説き方があるように原作での考え方は「女性は利用するもの」です。

現地に長く滞在する任務が多いD機関の人間はときに現地の女性と結婚し、必要ならば子供も作って現地に溶け込みます。
そして任務が終われば彼女らのもとを離れ、必要があれば殺害も辞さないというのがこの作品におけるスパイの一般的な考え方です。

女性は感情的な部分もありスパイには向かないと言及し、女スパイの武器であるハニートラップの効力についても第一次世界大戦の時代に実在した女スパイ、マタ・ハリの成果を引き合いに苦言を呈しています。
女の武器もたいして効果ないならスパイとしては男性の方が優秀だよね、ってことです。

つまり『ジョーカー・ゲーム』という作品において、プロのスパイであるD機関の人間が女性に出し抜かれるのはあってはならないことなんです。

で、この映画ではどうなのかといいますと、主人公が彼女のハニートラップに思いっきり引っかかります。

ダメでしょ…いやそれはダメでしょ…

仮にも「魔王」のもとで指導を受けた人間でしょ?なんで女の罠にまんまとひっかかってんの?

後述しますが彼女が絡むと主人公がD機関の教えを無視してアクションを行うポンコツへと変化するのでとにかく不快感が凄かったです。

ルパン三世じゃないんだし見たくなかったよ女のために動くD機関なんて…

さらに終盤になるとブラックノート云々より「いかにリンを連れて脱出するか」が物語の軸になってくるので見てて辛かったです。

急いで脱出しないといけないときに暢気にライダースーツに着替えてる女なんて見捨てて逃げろよ。助けて何のメリットがあるんだ?ハイヒールまで履いてたぞあの女。

最後勝ち逃げするシーンも嫌でした。不二子みたいな魅力や愛嬌、有能さもないくせにそんなシーン見せられてもげんなりしただけなんですが。
てかコイツスパイじゃなくてただのコソ泥じゃね?

原作から改悪されたキャラ

また酷かったのが原作に登場したキャラの性格が大きく変わっている点です。

まずはブラックノートを所有するアメリカ大使のアーネスト・グラハム

彼は原作ではあくどい商売に手を染め財を築いた人間ではありますが、豪放磊落な性格であまり不快な印象も与えず、彼の調査を行っていたD機関のメンバーも「個人的に嫌いではない」と表していました。

そんな彼ですが本作では「アメリカに連れて行く」と女性を騙しては暴行を加えるというクズに成り下がっています。なんで?

大方メイドとして働いていたリンに手を出そうとしたところを主人公が助けるという流れのためにこんな性格になったんでしょうが、原作の人当たりの良さという長所を消してまで変える必要はあったのかなぁ…?

ですがもっと酷い改変を加えられた人物もいます。イギリスの諜報機関のトップであるハワード・マークス中佐です。

彼はイギリスのスパイマスター…つまり日本における結城中佐にあたる人物です。

原作では一部の人間しか知らないはずの結城中佐の存在やその実力を知っていたり、D機関の人間ですら引っかかる罠を仕掛けるくらい有能で底知れない人物として描かれています。

しかし本作では凄まじい小物へと変化しています。原作ではどんなときも冷静沈着で底知れなさを感じさせていた態度は、やたら感情をむき出しにして笑ったり「あのネズミを始末しろ!」「これでお前はゲームオーバーだ!」など威厳さの欠片もないセリフを吐くなど、「ホントにコイツ有能か?」と疑問を抱かせるほど影も形もなくなっています。

英国のスパイマスターの姿か?これが…

そのせいで本作のラスボスとしては間違った意味で役不足としか言い様がなく、強敵に勝ったカタルシスが生まれませんでした。

まあこんな本作にうってつけのラスボスと言われたらそうかもしれませんが。

部下も「スパイは目立たない存在」だって言ってんのに街中で銃ぶっ放すわ車爆破するわどっちかっていうと殺し屋みたいな見た目してるわって感じでスパイって感じがしませんでした。

あのスパイマスターにしてこの部下あり、ってことでしょうか。

D機関を潰すために生まれた主人公

そして何よりダメなのが亀梨和也演じる主人公こと嘉藤次郎です。
個人的にこの映画で1、2位を争うくらい大嫌いです。

というのもコイツとにかく無能でして、陸軍がD機関を潰すために送り込んだスパイじゃないかって疑うくらい酷いです。

顔と演技はいいよね顔と演技はね

前半の訓練パートではまだかっこよさを保っていたんですけど、潜入任務を開始してからは「カッコいい」から「かっこつけてる」にランクダウンします。

例えばブラックノートを探すため夜中に大使館に潜入するシーン。

潜入任務だというのにソフト帽を被ってくる時点で任務をナメてることが伝わってきましたが、隠し金庫にあったノートを見つけて10ページくらい読んでから「これじゃない…」とか抜かしたときは頭を抱えました。

最初から思いっきり文字が書かれているのに、女性の絵が書かれているシーンでようやく内容が異なることに気づきましたからねコイツ。
訓練シーンで言語学を勉強してたのは何だったんだよ。1ページ目に書かれてる内容読んで「あっこれ違うわ」って気づけよ。

さらに別に目当てのブラックノートじゃないからまったく意味ないのにこのノートの写真撮ってます。フィルムの無駄です。
グラハムを脅すわけでもないのに何でこんなことをしたかさっぱりわかりません。仲間に見せても「だからどうした」くらいの反応しかされてませんでしたし。

そもそも原作では写真を撮らずともノートの内容を一度見ただけで全て覚えていたので、この時点でD機関のメンバーより彼が劣っていると感じます。

しかもこの後まったく意味ないのにグラハムに襲われそうになっているリンを助け、挙げ句の果てに彼女に姿を見せてから帰っています。

オメー潜入任務だって言ってんだろうが!!なに自分から目撃者増やして帰ってるんだよ!!

もし通報されて捕まったり危険視されて今後屋敷に入れてもらえなかったらどうするつもりだったんだよ!!
恩人である結城中佐の顔に泥を塗るだけでなくD機関がお取り潰しになってたかもしれないんだぞ!!

どうせなら「ラッキー、二人がこの部屋にいるってことは見つかる心配ないじゃん。今のうちに脱出しよ」くらいに考えなさいよ!!
なにくだらない正義感を発揮してんだここで!!結城中佐に「何事にもとらわれるな」って教えられなかったんか!?

これだから軍人上がりの坊ちゃんはよぉ!!

さらにこの後もリンを助けようとして一応機密情報であるグラハムのノートの写真を見せたり、リンと情事に及ぼうとしてブラックノートを盗られたり、任務が終わり脱出するときに「そいつはほっとけ!」と仲間に言われてるにもかかわらずイギリスの諜報機関に捕まったリンを助けようとして自分も捕まるというリンが絡む場面でだいたい何かをやらかしてます。しかも特大の。

スパイは生きて情報を持って帰るのが最優先、というかそれ以外のことに価値はないって結城中佐も言ってるんですけどね?
リンを助けるためにブラックノートを差し出したシーンでは思わず笑っちゃいましたよ。コイツ任務と国よりも女を選んだんだって。

そして他にもダメなのがとにかくフィジカル頼りな点。

例えば英国諜報部に追われるシーンでは街中で銃を撃ちまくるスパイたちから逃げるため、格闘術を駆使し倒しながら追跡を振り切っていきます。日中の街で。目撃者も何人もいる中で。

「スパイは目立ってはいけない」というこの世界のスパイにおける初歩中の初歩も守れないんですかあなたは?教科書だったら1ページ目に書いてあるようなことですけど。

敵を倒し、洗濯物を倒し、積み重なった鳥かごを倒し、麻雀牌を投げ、露店の布を奪うなど10秒経つ毎に10点くらい減点できるポイントが出てきます。俺が見たいのはジャッキー・チェンじゃないんだよ。スパイなんだよ。

とにかく敵に遭遇したら「にげる」ではなく「たたかう」コマンドを連打してるんかってくらい戦おうとするなど頭脳を使わずフィジカルで物事を解決していきます。

自分の怪しい動きをたまたま目撃した人間でも気絶させ、1対複数人という絶望的な状況でもとにかく敵を倒しまくって解決します。

彼のD機関らしからぬ能力の低さはフィジカルに全振りしたからかもしれません。
実際原作のキャラがドアの隙間から一瞬見ただけで覚えた地図をわざわざ破って持ってきていますし。

もうここまで来たら「死ぬな、殺すな」の教えも無視してどんどんキルスコアを稼いでほしかったです。ところどころ頭に向けて拳銃撃とうとしてたときありましたけど。
マーカス中佐と一緒にいた部下?あれは偶然炎に包まれただけだからセーフ。

この主人公が大嫌いなのはこういうところなんですよ。散々原作でスパイはどういう存在なのか描いていたのにこの映画ではそれをガン無視して動くんだもの。

この映画は『ジョーカー・ゲーム』なんだろ?だったらそこで描かれている考え方や理念を無視していいわけないじゃん。『ミッション:インポッシブル』崩れのアクションをやったり、『007』のボンドガールとの絡みみたいな展開を描くのはいいよ。それをやるのは否定しないよ。

でもさあ、それ『ジョーカー・ゲーム』の面白さじゃないんだよ。

頭脳戦が魅力なのに無駄にアクション入れちゃダメじゃん。
何にもとらわれない孤高のキャラが魅力なのに女に夢中にさせちゃダメじゃん。

そういう物語が描きたいなら『ジョーカー・ゲーム』を題材にする意味はないし、むしろ使ってほしくないです。

制作陣の「カッコいいでしょ?」みたいなカットやシーンもいくつか見られたのですが、その殆どがカッコよくなくてげんなりしました。
亀梨和也の顔の良さがなければホント終わってたシーンばっか
だったので、制作陣は亀梨和也に足を向けて寝られないでしょう。

とにかく原作にあった魅力的な部分を切り捨ててもともと切り捨てられてるものを継ぎ足してるのが最大の問題です。もう一回作り直してくれないかなマジで…

多分この映画D機関の人間には受けがいいと思います。NASAの人が『アルマゲドン』見るみたいな感覚で。
あまりにもやってることが真逆で馬鹿馬鹿しいので大爆笑してくれると思います。

まとめ

というわけで『ジョーカー・ゲーム』のレビューでした。

この映画はとにかくリンという存在がノイズになっており、彼女のせいで原作とは異なりホイホイハニートラップに引っかかり、女のためなら隠密性を無視してアクションを行い機密情報すら差し出す無能の極みみたいなスパイが誕生してしまいました。

国のために真面目に任務をこなし、それでもD機関に一枚上手を行かれるというようなキャラなら悪くなかったのですが、いかんせん彼女は金のため動くという薄っぺらい信念と、主人公の邪魔しかしない無能のハイブリッドですのでとにかく魅力に乏しく見ていて辛かったです。

さらに原作から改悪されたキャラとルールを破りまくる主人公ととにかく原作を馬鹿にするような作品だったのが嫌でした。

本当に、本当に作り直してくれませんかマジで?ドラマでもいいから。

そんな願望を述べながら今回はこれで終わろうと思います。

それではまた。


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